ダンジョンの人 前編


 我ながら難儀な拾い物をしてしまったと思う。
 今日だけで都合三度目の開幕モンスターハウスに遭遇して、うんざりする。
 ため息を一つついて、大量の餌を目の前にして歓喜にうちひしがれるナマクラを引き抜く。

 冒険者と見てつっこんできたゴブリンの頭をまず刎ねとばし、返す刀でオークの槍の穂先を切り落とす。
 こっそり足下に這い寄り、俺の動きを封じようとしていたスライムを飛び越え、
 中身が空っぽの鎧を動かす悪霊を断ち切り、ゾンビを一刀の元に五体を分断し、
 分厚い毛皮をしているイエティの心臓を貫く。

 ……そこまでやったらもう俺の仕事は終わる。
 黒い刀身に紫色の文字がつらつらと浮かび上がり、
 胸くそ悪い剣がまるで生きているかのような拍動を始める。
 目の前にだんだんと霞がかかり、手足の先から感覚がなくなっていく。
 俺は色んな死に方をしかけていたが、今の感覚を言い表せば『凍死』しかけている状態に非常によく似ている。
 いつもは意識がぷっつり消える寸前に、何か幻覚を見たような気がしたが……気がしただけで、
 本当に見たかどうかわからないし、見ていたとしてもどうせ覚えていない。

 今回もまた何かとりとめのない映像が網膜に映ったような気がした。

 

 

 ……気がつくと、俺はそこらじゅう血と死体にまみれた部屋に立っていた。
 あれほどひしめいていたモンスターが一匹残らずただの肉のかたまりに変貌し
 ……いや、そもそも肉を持っていないやつもいたが……とりあえず物言わぬ骸になり、佇んでいる。
 立ち眩みのような感覚に襲われ、
 ふらつきかけた頭になるべく血の付いていない方の手の甲で抑え、軽く頭を振って、より鮮明な意識を取り戻した。

「くそったれが」

 悪態を一つつき、落ち着いたナマクラ野郎を鞘に戻した。
 この糞は自分のことばっかり考えていやがって、
 俺がいないと大好きな殺戮が出来ないくせに、俺の体力のことは何一つ考えちゃくれない。
 体全体に広がる倦怠感に耐えるように、死体の隙間を縫うように歩いて、
 部屋に落ちていた小瓶に入っていた薬剤を拾い上げた。

「……ふむ、ま、毒薬じゃないな」

 日の光の届かぬ地下においての唯一の明かり、
 壁に掛けられたたいまつの明かりに透かして見た薬は清んだ青色をしていた。
 少なくとも緑色ではないので、毒ではない。
 小瓶のふたをやや乱暴に外し、中の液体を仰ぐように一気に飲み込んだ。
 相当なスピードで手足の先まで活力が駆けめぐり、脳みそに血液が勢いよく流れ込む。

 どうやら体力回復薬か、体力回復薬改だったようだ。
 流石にこの程度のダンジョンに、
 体力回復薬スーパーやウルトラ体力回復薬が落ちているわけがないだろうから間違っていないはずだ。

 体力が充実したところで、再び探索を開始しなければならない。
 今回はクエストだから、アイテム集めはそこそこにしておく。
 売ったらそれなりに高価になりそうなものを適当に死体の山や、
 元々部屋に落ちていたアイテムをあさり、次の階への階段を探した。

 

 

 この世界には無数のダンジョンが存在している。
 ダンジョンというのは入るたびに内部の構造がどういうわけか変化する代物だ。
 穴だったり、塔や古城なんかの建築物だったり、
 はたまた巨大なものだと古代都市が丸々ダンジョンになっていたりする。
 内部の構造が変化するのと同時に、
 中にはモンスターと呼ばれる侵入者に敵意を持った生物やら無生物なんかが現れる。
 普通の人間なら近づかないものだが、モンスターと同時に不思議な効力を持つアイテムなんかも出現する。
 そんなアイテムを拾ったり、薬の原料になったりするモンスターの体の一部を採取するため、
 戦闘力かもしくはそれ以外の能力をもった人間が『冒険者』となり、ダンジョンに潜ったりするのだ。
 一部の例外を除き、ダンジョンの中で致命傷を負うと確実に死ぬ。
 が、そんなデメリットがあっても、数多くの馬鹿な人間は欲に負けて冒険者になるのだ。

 俺は、そんな馬鹿な人間の中でもとびきりの馬鹿だった。
 俺みたいに一人でダンジョンに潜るやつなんて、まずいない。
 なぜなら、大人数で入ろうが一人で入ろうが、
 中にいるモンスターはお構いなしに多数で襲いかかってくるからだ。
 よほど腕に自信があって、実際腕があるやつしか入らない。
 はっきりいうと、俺個人で言うならば腕に自信なんてないし、実際に腕もない。
 が、ちょっとした事情で、単独突入という気違いじみたことをやらなきゃならなくなっている。

 その事情とやらが、俺の背中にかかっているくそったれだ。

 名称『黒鉄の剣』

 あまりよろしからぬ生命を受けている剣で、剣のくせに生きている。
 壁に飾られているようなときは別に何もしないが、
 これが俺が握って、生き物をぶった切ると途端に動き出す。
 剣のくせにわんわんうめき、もっと殺せ、もっと殺せと俺の耳元でささやいてくるのだ。
 そのささやきを聞いてしまったら最後、体を剣に乗っ取られ、周囲にある動くものを片っ端にぶっ壊してしまう。
 敵味方区別なしにぶっ殺してしまうため、万が一群れてダンジョンに潜ったら、必ず生存者は一人か0になる。
 前々までは俺も多少は賢くて、ギルドなんかに所属して、
 適当に群れてダンジョンに入っていたが、この呪いの剣をひょんなことから手に入れてから、常に一人だ。

 全くこの糞の剣のおかげでどうしようもない窮状に陥っている。
 この剣はいわゆる『呪われた』アイテムにカテゴリーされていて、
 捨てたり、装備を変えることも出来ないのだ。
 例えどこか遠くに捨て、普通の武器を握って、モンスターと殺し合いをすると、
 何故か剣を振るう瞬間に手の中にはこの剣が収まっている。
 しかも、その呪いも相当強いものらしく、普通の解呪方法ではどうしようもない。
 大司教以上でないと使えない高レベルの解呪魔法があればひょっとしてどうにかなるかもしれないが、
 それにはべらぼうな額の金が必要だし、絶対解けるという保証はない。
 今のところこの剣をどうにかすることはできない。

 メリットが何もないというわけではないから余計に腹が立つ。
 この黒鉄の剣が俺の体を乗っ取っている最中は、俺の能力がわけのわからないくらい上がる。
 職業:剣士として今までやってきた俺だが、剣士として飛び抜けて能力があるわけではない。 
 が、この剣が俺の体を乗っ取っている最中は下手すると王国精鋭騎士団の団員よりも強くなる。
 本当に王国精鋭騎士団と戦ったことはないため、
 実際にやったらどっちが勝つかどうかというのはわからないが、少なくとも能力値だけは俺の方が高くなる。
 そのおかげで、一人でダンジョンに入っても今まで生きていけているのだが、
 そもそもこの剣が無ければ一人でダンジョンに入るような無謀な真似はしなくていいわけで、
 それについて素直に思うことは決して出来ない。



 

 机の上に積まれた袋の中身を確認し終わり、
 俺はどっと椅子にもたれかけて、大きく肺に溜まった空気をはき出した。

「あんた、ふざけてるのか?」

 目の前にいる少女は視線を下に下げ、小声で「申し訳ありません」とつぶやいた。
 冒険者ではない一般人が見れば誰もが同情し、
 威圧的にふんぞり返る俺に対して義憤を抱くのだろうが、俺には知ったこっちゃない。
 俺にだって生活があるし、ギルドという後ろ盾がない現状で、
 依頼者に舐められると、元々そう遠くはない死期が更に近づいてきてしまう。

 彼女は俺の依頼者だった。
 冒険者ではない人間がダンジョンの中にあるアイテムやら何やらを欲したとき、
 決して自分でダンジョンに潜るようなことはしない。
 俺らのような冒険者という屑みたいな連中に、
 「お金をあげますから、これこれを取ってきてください」と頼むのだ。
 そのように頼まれたことをクエストといい、
 冒険者はそれを達成することにより、報酬をもらう。
 ただダンジョンに潜り、無差別にアイテムを回収するよりも報酬が多く、
 冒険者のほとんどがクエストを受けている。
 難しいクエストの方が報酬も多額だが、依頼人の資金も時間も大抵は依頼人にとって大事なものであり、
 より難しいクエストを多くこなしている冒険者に依頼は集中する。

 だが、稀に俺のような無名の輩にもでっかい依頼が来ることが稀にある。
 それは依頼者が非常にせっぱ詰まっており、
 ちょうどたまたま有力なギルドや冒険者が依頼者の住む町に不在だった場合だ。
 目の前の彼女は、コレプトラプトルと呼ばれるモンスターの角を欲し、
 その依頼を達成することができる能力を持つ冒険者を捜していた。
 しかし、たまたまここいらで有力なギルドは遠くのダンジョンに難関なクエストをこなすために
 メンバー総出で遠征にいっており、後に残るは弱小ギルドばかり。
 困った彼女は困りに困ったあげく、
 彼女のような一般人が一番嫌っている俺のような人間にクエストを頼むことにしたのだ。

 そして俺はこなした。
 コレプトラプトルは非常に強いモンスターだ。
 この街のすぐ近くのダンジョンの最下層に存在している。
 モンスターの中では珍しく目の前に冒険者がいたとしても自分から襲いかかってくるようなことはない。
 その上愚鈍で、目の前を素通りする際には何ら問題のないモンスターだ。
 しかし、コレプトラプトルに一度でも攻撃したら話は変わる。
 突然体を真っ赤にするほど怒り狂い、サイのような巨体を揺らして、
 猛烈な勢いで攻撃をしかけた相手に突進をしかけ、鼻の先にある角で串刺しにしようとしてくる。
 なので、普通の冒険者はよほどのことがない限り手出しをしない。

 俺は単身ダンジョンに潜り、
 黒鉄の剣が殺戮を楽しむためにモンスターを集めるのにうんざりしつつも、コレプトラプトルを殺した。
 非常に特殊な薬の原料の一つとなるコレプトラプトルの角を持ち帰り、依頼主にクエストの達成を報告した。

 そして、その依頼主は最初に提示した報酬より遙かに少ない金額を机の上にのせ、
 申し訳なさそうに「申し訳ありません」とつぶやいたわけだ。

「あのな、冒険者相手にこんなことをしたら、殺されても文句は言えないことを知ってるか?」

 ダンジョンに潜るということは、潜った人間が命の危険にさらされるということだ。
 命がけで達成したクエストに、相応の報酬を支払わない依頼主に腹が立ち、
 その場で刃傷沙汰に発展させる冒険者は多い。
 そして、大抵のことならば報酬を支払わない依頼主を冒険者が殺しても、罪には問われない。
 それが命がけでクエストをこなした冒険者の権利の一つなのだ。

 実のところ、不幸にまみれている俺はそんな些細な権利すら行使することが出来ない。
 説明するまでもないが、あの糞剣のせいだ。
 こんな街の中で抜刀したら、殺すのは依頼主だけじゃすまない。
 流石に無関係の人間を殺したら罪に問われるし、
 罪に問われたら俺の人生は終焉を迎えるといっても過言じゃない。

 だから俺は基本的にクエストは受けない。
 不当な行いをする依頼主を殺せない冒険者ってのは凄く惨めだ。
 ギルドに登録されている冒険者ならば、依頼主を殺さなくとも、
 ギルドが後ろ盾になってくれて依頼主が社会的に不利になるように働きかけるため、
 それほど問題じゃないが、俺はギルドに所属していない。
 毎日毎日山のように困難なクエストを持ち込む依頼主が殺到し、そのほとんどが間違いなく俺の足下を見てくる。
 そんなことになったら、俺は生きていくことが困難になるくらい経済的に困窮し、
 精神をやみ、挙げ句の果ては抜刀してこの町を滅ぼしてしまうだろう。
 俺としてはそんなことは避けたい。

 今回クエストを受けたのは、どうしても断れない筋からの頼みだった。
 俺の昔世話になっていたギルドからの伝手をつかってきたのだ。
 今の俺は一人だが、まだ剣の振り方も知らなかった俺をなんとかやっていけるようにしてくれた恩は忘れていない。
 そのギルドから頼まれたから、俺は断れなかった。

 そしてその依頼主は俺との契約を破った。
 普段断っているクエストをこなす分、それなりの報酬の上乗せをして契約書を作成した。
 依頼主はその契約書を熟読し、報酬の減額を要求したが俺がそれを断ったため、渋々同意してサインした。
 今、机の上にある金はその規定金額よりも遙かに少ない額しかない。
 俺が上乗せした金額どころか、コレプトラプトルの角の相場の金額よりも少ない。

 銅貨一枚二枚くらいの差なら俺も別に文句は言わない。
 いや、文句は言う。
 散々言う。
 依頼主が嫌になるくらいねちねち文句たれて、もう二度と俺にクエストを依頼しないように精神的に傷つける。
 だが、それでも文句を言うだけだ。
 この状況で、冒険者が俺のような障害を持った冒険者でなければ、目の前の少女はすでに犯されている。
 もしくは殺されている。(冒険者が女であり、そっちの趣味がない場合。もしくは男であり、そっちの趣味がないか不能の場合)

「い、一ヶ月、いや、二週間だけ待ってください!
 い、今、お父さんが病気で倒れて……この角で治療薬を作って、お父さんが治ったら、残りの金額が払えますからっ!」

 いいねえ、二週間待ってくれ、か。
 よくある台詞だ。

「そうだな、もし俺が二週間待ったとしよう。
 そしたら、俺が二週間待った、ってことは町中に知られて、
 困難なクエストを持ち込むやつが山ほど現れるんだ。
 そして俺がクエストをこなすとそいつらは決まってこう言う『二週間だけ待ってください』ってな。
 そいつら全員、二週間経つ前に街を出て、
 俺が探すことの出来ない遠くに逃げちまうっていうありきたりなシナリオが待ち受けてるわけだ」

 そうなることは絶対に避けたい。
 はっきり言って報酬の額が少ないことだけならあまり文句はない。
 一人でダンジョンに潜るという行為は危険だが、ギルドの仲介がないため、
 仲介料なんて馬鹿馬鹿しいものを取られず、金がダイレクトに俺の懐に入ってくる。
 金は正直余っているので、それに対する欲求はそれほどない。
 しかし、この業界でメンツを潰されたら人生の破局が待ち受けているため、一歩も下がることが出来ない。

 とはいえ、一体どうするべきか。
 目の前の少女を不遜な態度で脅しているものの、いくら脅しても彼女に支払い能力が出来るようには見えない。
 机の上に足をのっけて、軽く少女の頭をその足で小突きながら、俺は落としどころを考えていた。

 何かを担保に入れさせるか?
 しかし、昨年から奴隷制度は廃止になり、こいつを担保にすることは難しい。
 もちろん決して日の当たらない非合法な裏の世界に行けば、
 奴隷制度の廃止なんて歯に挟まったナッツの破片ほどにも気に留めていない連中がいるが、
 彼女が伝手でつたってきたのは俺の前いたギルドだ。
 そのギルドは健全なギルドであり、そのギルドが俺を紹介した。
 彼女が契約を破って奴隷商人に売り飛ばされた、ということなら世間も一応の納得をするだろうが、
 イメージダウンには必ず繋がってしまうだろう。
 それはあまりよくない。

 こいつの家を担保にすればいいかな、と思ったが、それも無理だった。
 もうすでにこいつの家にある金目のものを担保にして、借りてきた金が俺の目の前にあるからだ。
 この娘が調合士に薬を調合するための依頼料もあるだろうが、
 それを取ろうってもこいつは泥をかんでもそれだけは渡すまいとするだろうし、
 たとえ取ったとしても全額埋められるわけじゃない。

 はっきりいって八方ふさがりだ。
 忌々しい剣が無ければ、この場で殺していただろう。
 誰かを連れてきて代理でこの娘を殺させるってことは残念ながら法的に認められていない。
 依頼人を殺していいのは飽くまでクエストをこなすためダンジョンに潜った冒険者だけなのだ。

 やっぱり奴隷商人に担保として売り飛ばすか……?

 ……いや、ちょっと待て。
 よくよく考えたら、もう一つ案があった。
 確かに奴隷として売るのはギルドに迷惑がかかり兼ねない。
 が……そうだな、こいつの支払えない額を俺自身がこいつに出してやり、
 こいつをその担保にしてやればひょっとしたら問題ないかもしれない。
 こいつの身柄を俺の保護下においておけば、逃げ出すことも出来ないだろうし。

 俺は靴の泥を少女の服で拭うのをやめ、足を机からおろした。

「そうだな、じゃあ二週間だけ待ってやる」

 少女は途端に顔を上げ、ぱああと顔を明るくした。

「ほ、本当ですか?」
「ああ、二週間じゃなく一ヶ月でも待ってやろう。
 だが、待っている間、お前は俺の保護下に置かれることになる」

 少女は怪訝な顔をした。
 いまいちよくわからないようだ。
 この年齢であれば、言葉の意味は流石にわかるだろうが、連想するのには少し時間がかかるのかもしれない。

「奴隷制度は昨年廃止されたが……名目上家政婦として、実質奴隷として俺の元で過ごしてもらうことになる」

 ここまでストレートに表現されると、彼女もその意味を悟ったらしい。
 顔をわずかに青ざめさせ、小刻みにふるえている。

「そうすれば契約書の金額が書かれている文字がほんの少しだけかすれて、もう一度書き直す羽目になるかもしれない」

 流石におおっぴらに、減額してやるよ、とは言えない。
 契約書というのは基本的に絶対的なもので、
 裁判所なりなんなりの機関を挟まない限り、どちらも変更することが出来ないのだ。
 飽くまで、法的には、の話だが。

「……薬を……この角を調合士さんに届けることは……」
「それは許してやるよ。というか、それをしないと支払い能力が生まれないんだろう?
 もちろん、その間俺はお前のそばを離れないがな」

 少女はしばらく考えていたが、それ以外の方法が取りようがない。
 本当に渋々、嫌々そうに、目に涙すら浮かべて、俺の提案に承諾した。

 

 

 なんともはや天の配剤と言うべきか。
 こういう風な決着の付け方をすることが事前に決められていたかのような偶然だった。
 俺はクエストをこなす同時にあのダンジョンで様々な金目のものを拾ってきた。
 これはこれでクエストの報酬とはまた別の報酬として懐に収めるつもりだったのだが、
 それらの物品の中にはとある薬剤の原料になるものが全部そろっていたのだ。

 少女が俺にその身を捧げる決断をしたその日のうちに、
 コレプトラプトルの角の調合をするために調合士の元へ訪れた。
 予定通りの治療薬と、俺の拾った原料から作られる薬との調合を調合士に頼んだ。
 コレプトラプトルの角を使った治療薬の方が完成に数日を要するが、
 俺の薬の方はすぐに調合し終わり、その薬は持って帰った。
 少女と一緒に調合士に依頼にきた俺を見て、調合士は俺と彼女との間にどのような関係があるのか、
 察してくれて、何もいわずに薬を渡してくれた。

 家に帰ると、ちょうど夜の帳が降りたころだった。
 早速、作った薬を用いて、俺は楽しんだ。


 俺の見立て通り処女だった少女は、今俺の上にまたがって、切なげに息を漏らしている。
 瞳はうつろで、目尻には透明のきらめく液体が浮かんでいる。
 切れ切れに息をし、控えめな胸が肺の動きに合わせて、上下に揺れていた。

 流石にコレプトラプトルの角なんて高価な品物を頼もうと考えるような家の娘だけあって、遊んでいない。
 手管も何もあったもんじゃないが、売女では味わえない初々しさがあった。
 薬……媚薬なんてものを使ったが、そこのところはさして損なわれなかった。

 媚薬を使ったのは……まあ、俺も彼女の関係はお互いに愛をささやき合うようなものではないからだ。
 言うならば俺の性欲を解消するため、彼女の気持ちを無視して行われる性交渉だ。
 前戯なんてものに時間をかけるのは無駄というわけだ。

 はじめは手足にほんの少し痺れを感じるだけぐらいの少量から、
 ゆっくりマッサージをしてやって体をほぐしてやった。
 そこからだんだんと量を増やし、
 眠気と薬の効果によって呼び寄せられた眠気で意識が朦朧となりかけたところを頂いた。
 流石に最初は痛みに耐えきれず、わんわん泣いていたが、今となっては別の意味で泣いている。
 女なんてちょろいもんだ、とは言うつもりはないが、
 この豹変ぶりを見ると人の心というものは非常にもろいものなんだなあ、と思ったりする。
 何気なく天井のシミを一つ二つと数えている最中にも、
 彼女はつたないながらも腰を動かし、俺のモノから快楽を搾り取ろうとしている。
 自身の汗のせいでしけった髪の毛が、月光が照らすのみの暗闇の中でくっきりと映っている。
 俺の腹筋に当てられた手が、彼女の体を上下に動かすたびに圧力を加えてくる。
 彼女の断続的に響くあえぎ声が耳に心地よい。

「ふっ……くっ、あぁっ!!」

 マグロ状態だった俺が突然腰を動かしたことに、少女はびくびくと体を揺らして反応した。
 予想外の刺激にこらえることを忘れ、あっという間に上り詰めてしまったのだろう。
 俺の一物を潰してしまおう、という意思すら見える膣の締め付けがふっとゆるむと、
 少女は俺の体の上に倒れかかってきた。
 ふくよかではあるもののまだ完全に熟していない胸が押しつけられる感覚はとても喜ばしいが、
 ちょうど鼻に頭が激突して、非常に痛いので帳消しだった。

「さて、そろそろ本気出すか」

 もはや疲労困憊を呈している彼女の耳元でそっとつぶやいてやった。
 疲労困憊であるからこそ意味のある言葉だったんだが、彼女の反応は全く無かった。
 耳に届いていないのだろう。

 彼女の肩を掴んで上半身を持ち上げる。
 そのまま手を離しても倒れないように、彼女の手を俺の体に当てて突っ張らせる。
 全く抵抗せず、彼女は俺になされるがまま、腕を突っ張った。
 俺は自分の手を彼女の肘から離し、顔にかかっていた彼女の髪を少し避けてやってから、下に落とした。
 彼女の肌は非常になめらかで、さわり心地がいい。
 腰の両脇に手を添える。
 軽く押すと、骨の感覚がわかる部位で、ぐいっと下に向けて押しつけた。

「ッッ! ぁっっっ!!」

 彼女が声にならない声を上げた。
 腰と腰が密着していた部位が更に接近し、より細やかな刺激となる。
 一物の先端が肉のかたまりをぐいぐいと持ち上げている感覚を味わうたびに、
 彼女はひきつけを起こしたかのように、体を震わせ、膣を締めてきた。

 無理だの、駄目だの、そんな風なニュアンスを持った声が、蚊の羽音のように聞こえてきたが、全てを無視する。
 受けたくない依頼を受け、潜りたくないダンジョンに潜り、振るいたくない剣を振り、
 その上依頼料は正規に支払われずにこんな厄介を抱え込んだが、今この瞬間だけで言うと嫌いではない。
 女の肌はご無沙汰……ってわけじゃないが、これほど若い女を腕の中に納めた記憶を掘り起こすには多少の時間を要する。

 上半身を持ち上げて、彼女の鎖骨に軽く吸い付く。
 全身が過敏になっている今では、そんな些細な刺激もまるで電撃の魔法を喰らったかのように反応した。

「やぁっ……もう、もう……」

 力の入らない腕で、俺の顔を引きはがそうとしてきたが、当然そんなものは受け付けない。
 軽く絡め取ってやり、そのまま彼女を押し倒した。
 ベッドの上に仰向けに倒れ、今度は俺が上になるような位置になった。

 さて、彼女は今夜だけで何回気をやるだろうか?
 調合してもらった媚薬は体質によって効き目が大きく変動するもので、
 彼女があの薬の影響を極めて受けやすい体質であることは、一目でわかる。

 彼女の親が俺に対して負った借金を返し終わるまで、せいぜい楽しむことにするか。

 俺は、細切れに息を切らせ、恐怖と期待をぐちゃぐちゃになるよう乱暴にかき混ぜたような目を彼女にくみかかった。