第2話

 【前回までのインビジブルテンタクル】

「たんぱんこぞう が しょうぶを しかけてきた!」

「てきの たんぱんこぞうは コラッタ を くりだしてきた!」

「ゆけっ! トラック! あいてのコラッタに体当たりだ!」

 


【本編】

 信じられないことが起きた。

 まあ、今まで生きてきて信じられないことなんていくらでもあったし、
 特に信じられないことなんてつい数ヶ月前に起きた上、ちょっとした予測すら立っていたので、
 『信じられないことが起きた』と強調してみたが、それほど凄いことではないのかもしれない。
 トラックに撥ねられたことが原因で、頭から透明な触手がうにょうにょ出てくる超能力が使えるようになったときから、
 この展開は薄々予測出来ていた。

「つまりっ、正義の超能力集団が実在していたんだよッ!」

 劇画調に表情を引き締めて言い放った。
 残念ながら、これに「な、なんだってー」という合いの手を入れてくれるようなノリのいい人はいなさそうだった。
 が、決して寂しくない、僕にはインビジブルテンタクルがあるのだから、その触手をうねうね動かせば、
 この胸に広がる寂寥感は多少なりとも和らぐはずである。

「な、なんだってー!」

 と、思ったら合いの手を入れてくれるノリのいい人がいた。
 しかも何気に真剣な目つきをしている。
 ただ残念ながら、「な、なんだってー!」のポーズではなくて、外人四コマの一番手前の人のポーズだった。
 このニワカめと罵ればいいのか、はたまた、ある意味空気読んでボケてくれたのか、少し判断が付きづらい。
 が、今の僕の、2月の寒空みたいに空っ風が吹く心の中ではホッカイロみたいに暖かい存在だった。

「グッ」

 サムズアップサインを送ると、ノリのいい彼女はそれに答えて、サムズアップサインを返してくれた。
 しかも、小さく「じーじぇい」と言ってくれた。
 ヤバイ、こんな風に接せられると惚れてまうやろ。

 

 話を戻すが、正義の超能力集団は実在した。
 トラックで撥ね飛ばされて半年間の入院生活を脱して、留年確実だとはいえ、
 家でニート生活をしているのもどうかと思い、学校へ行ってみた。
 今年度になって一度も通学していなかったせいで、
 去年使っていた教室に行ってしまうなどというおもしろハプニングを経験しつつ、
 十分遅刻で本来のクラスに到着したとき、とあるクラスメイトと目が合ってしまった。

「「あ」」

 お互いがお互いに奇妙な感覚を覚えたのだろう。
 重なり合う「あ」の声が、両者の常人には存在しない感覚を現していた。
 自分以外の超能力者のファーストコンタクトは、
 一斉に注がれる「こいつ誰?」というニュアンスを持った視線を浴びているときに発生したのである。

 別に、彼女は僕が知らないうちにやってきた転校生ではないし、
 実は宇宙から地球の生態や文明を調査するために紛れ込んできた宇宙人でもなく、確か去年も僕と同じクラスだった子だった。
 僕が超能力に目覚める前に、既に僕の周りには超能力が使える子がいたんだ、と特に胸が高まることもなく、
 半年の遅れという取り戻しがたい学力の差から生じる教師の意味不明な言葉を右の耳から聞いて、
 左の耳から垂れ流す時間が終わり、昼休みの時間になったら無理矢理引っ張られてしまった。

 そんでもって、今に至る。

「ようこそ、オカルト研究会へ」

 オカルト研究会、というフレーズには胸ときめくものがある。
 きっと黒髪で無口なお嬢様が部長で、自分と部長の二人しかいない暗く、
 静かな部屋で共に過ごすという、ハートがドキドキするイベントがあるのだろうと。
 が、確か、僕がこの学校へ入学したときに、オカルト研究会は無かったはず。
 というよりか、オカルト研究会の部室は、化学室の隣に位置しているのだが、何故、今までその存在に気づかなかったのか。

 そういった疑問はひっくるめて部長が答えてくれた。
 残念ながら、彼女は世界的な大企業の令嬢ではなかったが、黒髪でやや無口な美人さんだった。
 部長さんの要点だけを語る言葉に、時々脇に控えている子が捕捉をしながら、説明をしてくれた。

 曰く、このオカルト研究会は、超能力者の集まりだと。
 毎年毎年、何故かこの学校に通う生徒の中には唐突に超能力に目覚める人が何人か出現するんだとか。

 超能力者が定期的に現れたりするだけあって、
 この学校は何かと不思議な力があり、一般人には認識できないものが結構あるらしい。
 その不思議な力の一つの顕現がオカルト研究会部室で、
 確かにこの部室は存在するものの、一般生徒や教師には見ることができない不思議な部室なんだとか。

 まあ、かいつまんで言えばこんなところ。

「それで、君の超能力を見せてくれないか?」

 黒髪短髪で、すらっと手足の長い先輩……田中 洋子先輩はパイプ椅子に座って言った。
 確か陸上部に所属していて、短距離走だか長距離走だかで県大会に行ったようなそんなことを聞いた覚えがある。

「ええ、まあ、はい」

 超能力者同士には、不思議なシンパシーがあるらしい。
 だから、目と目が見ただけで、相手が超能力者であることが、言葉ではなく心で解るのだ。
 ただ、いくら通じるところがあるといえど、どんな超能力があるのかはわからない。

 何故だかいつの間にか、このオカルト研究会に所属することが決められていた僕は、
 バナナを紐で吊して、箱と棒を与えられ、猿の着ぐるみを着せられて観察されているようないやーな気分になりながら、
 頭からインビジブルテンタクルを出した。

「うわっ、キモッ!」

 僕の同級生にして、超能力を使って部室に引っ張ってきた子が、まるでガムを道路に吐き捨てるかのように言った。

「ちょ、ちょっとよしなさいよ、佳枝」

 そういいながらも、ちょっとドン引きしているのが、さっきのノリのいい子だった。
 確かに、頭頂から無数の触手がにゅるりと出ているのはキモイだろう。
 よく言ったところでゴーゴンみたいだし、悪く言えばイソギンチャクだ。いあいあ。
 悲しいかな、色々エロエロ役に立つインビジブルテンタクルは、その能力の高さに反して見た目は最悪の部類なのである。
 色々エロエロなことをしているうちに、最初は一本のみだった触手が細くなった代わりに複数本に増えた。
 レベルアップだ、と喜んだのは束の間のことで、見た目が更に酷くなったよ、ジーザスてなもんだ。
 精々、忘年会で「ロン毛」とかいう一発芸をやって、ようやくほんの僅かな同情心が買えるかどうかのものだ。

 とにもかくにも、オカルト研究会所属の全会員である四人の美少女達は、明らかな嫌悪感を露わにしている。
 残念ながら、重くなったこの空気を変化させるコミュニケーションスキルを持っている自信はない。

「……ロン毛」

 自爆覚悟でやってみたが、もちろん、功は奏さなかった。

「こんにちはーっす……って、今日はみんないないのか」
「あー、たっくん、こんちは」

 いつの間にか、オカルト研究会に所属して早一週間が経とうとしていた。
 盛大な自爆をかました初日の出来事から、少しは心が癒えてきた。

 見た目がキモイというのも、何も見せなければいいだけの話。
 普通に人間関係を構築するのにはなんの問題もないわけである。

 初日に赤っ恥を掻いたものの、それでもしぶとく僕はオカルト研究会に日参した。
 その理由は単純明快で、オカルト研究会の会員達はちょっと厄介だからである。
 折角、インビジブルテンタクルという他の人には持ち得ない素敵で無敵な能力を手に入れたのに、
 それが使えなくなる、となると口惜しいことだ。
 インビジブルテンタクルは名前の通り、インビジブル、つまり不可視だからこそ有用に使える超能力だ。
 それを認知できる人間……つまり他の超能力者の存在は、僕が好き勝手に超能力を使う邪魔になる。
 デスノートは二冊あっても困ることはないだろうが、超能力が使える人間はただ一人でいいのだ。

 本来ならば、学校に来た目的というのは、何も教師の言葉を聞き流すためではない。
 かわいい子を、俺のインビジブルテンタクルによって、エロエロに改造し、俺の愛の奴隷にするためだった。
 しかし、もう一週間も禁欲生活を強いられ、そろそろ我慢の限界に近づいて来ている。
 良子ちゃんと致してしまうということも考えたが、まず最初に相対するのは、他の超能力者だ。
 ひょっとしたらひょっとして、僕の超能力というのは精神的な力かなんかで能力が左右されたりするかもしれないので、
 思いっきりフラストレーションを高めておいたのだ。
 もちろん、オナ禁直後の「おちんぽミルクでちゃうのおおおお」的な射精の気持ちよさを味わいたいというのもある。

「先輩達は今日来ないの?」
「あー、部長は家の都合、祥子先輩は陸上部の後輩と学校の外へ出てて、佳枝ことよっしーはアルバイトだって」
「そんで、みっちゃんは?」
「あたしゃー、特に用はなし」
「なんだ暇人か」

 暇人こと美智子ちゃんは、ぷくぅっと頬を膨らませて、こっちを睨んできた。
 リアルでこういうことをされるとイラっとするもんだが、美智子ちゃんは「わかっている」人だ。
 二次元と三次元が決定的に違うことを知っていて、それでも尚、やっているのだから、
 「ははは、こやつめ」といって流してあげるのが正解だ。

「違いますー。
 新しく入ったオカルト研究会の会員を厳しい任務に堪えられるようにレクチャーしてあげようと思ったんですー」
「なるほど、新人教育ってやつね」

 ということはチャンスだ。
 マンツーマンの教育なんていったら、インビジブルテンタクル使いたい放題じゃないか!

「わかったら、口からクソをはき出す前と後にサーを付けろ」
「サー、いえっさー」
「声が小さい!」
「サー、いえっさー!」
「うるせえ! うずたかく積もれたクソめ!」

 心の中から湧き出てくるニヤニヤ笑いは、
 みっちゃんの軽いノリの馬鹿みたいな寸劇のおかげでごまかせている。

 さあて、一週間の禁欲の果てに、どんなことをしようかな、と思いをはせる。

「まあ、いつまでぐだぐだ言ってても、しょーがないか。まず、私のを出すね」

 そういって、みっちゃんがぱちんと指を鳴らすと、みっちゃんの背後から幽霊みたいのが出てきた。
 それはどことなくみっちゃんの姿を思わせる造形をしており、尚かつ、古代ギリシャの鎧みたいなのを着ている。
 肘とか膝だとかに金属っぽいパッドを付け、後は白い布で体を隠している、というヤツだ。

「みっちゃんのご先祖様?」
「んな馬鹿な。本物のご先祖様だったとしても、一体何代遺伝子の交雑が合ったと思うのよ。
 いくら血を引いているっていっても、ご先祖様と私はこんなにそっくりなわけないっつーの」

 なるほど、これが漫画やアニメや、便所の落書きに書かれた三文官能小説だったら別だけど、これは現実だ。
 紀元前までさかのぼりそうな格好をしている人がご先祖だったら、今のみっちゃんとは逆に似ても似つかぬ姿のはずだ。

「で、誰の受け売りですか?」
「部長」

 まあ、遺伝子交雑云々が言っているところで、多分、部長の説明をそのまま流用しているんだろうな、と思った。

 みっちゃんは、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めながら、こほんとわざとらしく咳をした。

「これが私の超能力。名前を付けるなら、『スペリオール』」
「ほほう、シュールストレミングですか」
「いやいやいや、そんな名前じゃないから! そんな臭そうな超能力じゃないから!
 何うまいこと言ったって顔してんのさ!」

 ドヤ顔を呈しつつも、僕は色々と考えていた。
 今、僕以外の人の超能力を初めて見せて貰ったが……僕のと違いすぎじゃね?
 僕の超能力を頭から、透明な触手が出るというものだが、みっちゃんのは人型だ。
 なんというか、表現が難しいが、ペルソナというかスタンドというか……
 仮に『ペルンド』いや、『スタソナ』……うーん、ペルンドでいいか、スタソナは名前半分被ってるし。

「他の人も、みっちゃんみたいな……ええっと、ヴィジョンなの?」
「たっくん以外はね。
 というか、たっくんは色々イレギュラーみたいだねー。
 部長が言うには、男の人で超能力に目覚めた人は前例がないみたいだし、
 この学校で超能力に目覚める人は、唐突に発現するっていうけど、たっくんは事故で使えるようになったっしょ?」
「もしや俺は選ばれし存在?
 混沌した世紀末の中、異次元の狭間ミストレルカオスの闇に対抗するため生まれたメシアなんだろうか」
「うぐぐ、私の右腕が疼いて、第三の人格がッ……久しぶりのシャバの空気はうめーぜっ!」

 閑話休題。

「正味の話、たっくんの超能力は天然物なんだと思うよー。
 うちらの超能力は、そりゃ才能みたいなものはあるだろうけど、
 この学校に通うことになったから目覚めたんだと思う。
 んで、たっくんは事故……えっと、トラックの体当たりで臨死体験やら、
 脳みそのリミッター解除みたいなのをしちゃって目覚めたんじゃない?」

 多分そうなんだろうなー、と僕も思っていた。
 と思っていたんだが、みっちゃんのペルンドを見て、そうじゃない気がした。
 なんというか、彼女のペルンドを見た瞬間、言い表せない不快感を感じた。
 カエルが爆竹片手に持った小学生を見たかのような、そんなDNAレベルですり込まれているかのような気持ち悪さだ。
 彼女のペルンドの造形は、僕のより遙かに優れているが、造形ではなく、その存在そのものが。

「よっと」

 みっちゃんのペルンドが、人差し指を僕の額に当ててきた。
 何、と言う前に、暖かいものが人差し指を通じて、緩やかに僕の中に流れ込んでくる。

「どーよ、これが私のスペリオールの能力。回復能力だっ!
 頭痛、腹痛、切り傷、擦り傷、動悸、息切れ、立ち眩み、なんでもござれの治癒能力さっ!」
「おおう、これはすごい! これって、花粉症には効いたりする?」
「花粉症は無理」

 畜生……一番どうにかして欲しいのが花粉症だったのに、畜生おおおおッ!!

「あはは、ゴメンゴメン。
 でも、治癒能力はめっさ疲れて、そんなにホイホイ使えないから、
 どっちみち花粉症対策は出来なかったよ」

 なんだ、そうか。
 ん、今、使ってるんじゃないか?

「大丈夫。たっくんが来る前に、今回の大仕事は終えて、余力が残ってたからね」
「大仕事?」

 みっちゃんはちらと目を背けた。

「別に隠してたってわけじゃないんだけど、大体月一のペースで『大物』が出てくるんだよねえ」

 所謂、黒い何か、ってやつだろう。
 僕も学校に通って何度か見かけたことがある。
 あるいは教室の角だったり、体育館の天井だったり、家庭科室の床などにこびり付いている黒いもの。
 一般人は気づかないけど、微かに蠢いて、少しずつ増えている。
 超能力でぺしぺしと叩いてやると、一瞬で消えてしまうが、そのままにしたらどんどん増えていってしまう。

 どうして退治しなきゃならないの? って聞かれてもうまく答えることはできないが、
 単純に見ていて見栄えが悪いし、べたべた貼り付いてきそうだからだ。
 汚れたら掃除する、とか、そういう次元で駆除をしてもいいレベルだろう。

 ペルンド使い達がオカルト研究会という形で集まっているのは、この黒いものを駆除するためだと聞いた。

「いやさー、いっくら黒いのを駆除していっても、どこからともなく現れるんだよね。
 黒くて不定形っていっても、てけりり鳴かなからまだマシなんだろうけど、
 暴れ牛っていうか、陸に揚げられた巨大カジキマグロみたいに暴れるのよ」

 なるほど、ただあの黒いのを駆除をする集まりの割りにはやけに結束の強そうな集まりだとは思っていたけど、
 ボスキャラが出てくるのね。
 ううん、多分、僕が入院している間……いや、入院する前も、彼女らは戦っていたんだろうなあ。

「えっと、今からでも退部ってオッケー?」
「駄目」

 満面の笑みで言われました。

「というか、『大物』は超能力者を襲ってくるんだよねえ。
 オカルト研究会を抜けたら、一人でいるところを襲われるからむしろ危険なんよ」

 超能力に目覚めたデメリットというのは、こんなところにあったようだ。
 まあ、スタンド使いは引かれ合うというし、順当なデメリットなのかもしれないけど。

 ま、それはそれとして。

「んじゃ、今度はこっちが能力を見せる番ですかね?」
「魅せる? 魅せてくれるの?」
「おうともさっ!」

 頭に力を入れて、にゅにゅっとインビジブルテンタクルを出す。
 インビジブルテンタクル、と名付けたはいいものの、インビジブルでないような気がする。
 いや、実際に不可視なんだが、他の超能力者に対しては感知されてしまう。

 これもまたややこしいところであり、別に実際に目で見えたり、音を聞いていたりするわけじゃない。
 超能力者には全員共通して、特殊な感覚が身に付いている。
 その感覚が、超能力の存在をキャッチする。

 インビジブルテンタクルのインビジブルは、実際に不可視だから間違っていないが、
 存在に気づかれてしまうから、張りぼてのインビジブルになってしまっている。

「さあさ、取り出したるはこのインビジブルテンタクル。
 世界に二つとない貴重な超能力でございます。
 超能力と申しましても、ただコップを割ったりする三文芸しかない凡百のものと考えられちゃあ困るってもんです」
「ほうほう」
「なんと、このインビジブルテンタクル。 時を止めることが出来るんですッ!」
「マジで!?」
「嘘です!」

 みっちゃんのスペリオールに殴られた。

「お、おぅふ……結構なパワーで殴られたような気がするのに、痛くない。
 攻撃と治癒を同時に行われると、頭がくわんくわんする」
「一瞬、信じちゃったじゃないかっ!」

 みっちゃんのペルンドは見た目通り、近接パワー型だった。
 回復と攻撃の両方が出来る、スタンダードに強いタイプだ。
 ただし、攻撃手段が、多分殴ることだけなので、インビジブルテンタクルとは相性がいい。

「全くもう、時止め能力は本気で憧れなんだから、それをジョークにするのはやめて」
「ごめんごめん。ちょっとだけ見栄張ってみたかっただけです」
「しょうがないんだから……で、本当の能力は何なの?」

 ふっ、本当の能力?
 本当の能力は、もう見せてあるわっ!

「女の子がエロエロになる能力」

 スペリオールの拳が顔面すれすれまで迫ってきた。
 が、迫ってきただけだ。
 触れてはいないし、触れることはない。

「あのねえ、たっくん、流石にセクハラはないでしょ」

 あっぶねえ。
 本当に本気で殴られるところだった。

 どうやら、ペルンド使いは、インビジブルテンタクルの精神浸食を感知できるらしい。
 インビジブルテンタクルをみっちゃんの頭部に打ち込み、精神汚染をしたら、躊躇いもなく攻撃された。
 なんとか拳がヒットする前に、洗脳が終わって命拾いした。

 さっきまで仲良かった友達、という女の子に酷いことをしてしまうことに罪悪感はある。
 僕だって、冷血なシリアルキラーとかそんなんじゃない、
 ちょっと不思議な能力が使えるキュートな青少年なんだから、胸くらい痛むさ。

「ごめんごめん。下ネタは今後自重する。とりあえず、ちんこしゃぶってくれ」
「わかればよろしい……って、いきなりちんこしゃぶれって言うかっ!」

 インビジブルテンタクルを通して、みっちゃんの思考が僅かに逆流してくる。
 今考えていることや、感情なんかが、ぼんやりと僕の頭の中に浮かんでは消える。

 どうやら、超能力者は精神汚染に関しての耐性も持っているらしい。
 彼女の理性が僅かに反発しているのがわかる。
 だけど、そういった精神の力においては、こちらの方が圧倒的に上だ。

 小蟻を指でぷちっと潰すかのように、みっちゃんの精神を押し込んだ。
 ここまでやれば、後はもう好き放題することが出来る。

「やだなあ、みっちゃん。今日はみっちゃんが部のしきたりを教えるって言ってたじゃんか」
「あ……うん、言ったねえ」
「部のしきたりイコール僕のちんこしゃぶるってことだろ?」

 どんなしきたりだ、とセルフツッコミを心の中で入れつつも言った。

 いくらインビジブルテンタクルが最強エロエロ能力だと言えど、超能力者の団体さんとの対戦はノーサンキューだ。
 しかも、それが怪物相手に多対1の戦闘訓練をしている相手なら尚更に。
 なので物事は隠密に、且つスマートに行わなければならない。

 インビジブルテンタクルで精神を操るにしても、根本から書き換えるようなことはしてはいけない。
 他のオカルト研究会の会員に疑われてしまうからだ。
 だから、ちょっとずつ……じわじわと精神を浸食するような形で攻める必要がある。

「しょ、しょーがないなあ、たっくんは。……今回だけだからねっ」

 さっきまで殺気をこちらに向けていたみっちゃんは、
 今や恥じらいに頬を染め、地面にしゃがみ込んで、おずおずと俺のズボンに手を掛けている。

 流石はインビジブルテンタクル。
 ペルンドと比べたら、パワーも射程も短いが、一旦獲物を捕らえることが出来たら、一撃必殺の威力がある。
 肉体を攻撃する必要などない、精神を支配してしまえばいいのだ。

 インビジブルテンタクルの触手を二本、三本とみっちゃんの頭部に打ち込む。
 コネクトしている触手が多ければ多いほど、より鮮明な情報を送受信することが出来るようだった。

 みっちゃんの思考が一部流れてくる。

 俺のズボンに手をかけ、小便をするときに用いるファスナーの金具を掴む。
 みっちゃんは、その金具にただ触れるだけ相当な勇気を消費していた。

 見かけもノリも軽い彼女だが、結構中身は乙女乙女していた。
 今は、ズボンから除く俺のおパンツを凝視して何も言わないが、
 頭の中ではグラグラと煮立っているかのように、羞恥や好奇心や不安、そして過去の記憶なんかがない交ぜになっている。

 多分、このまま放っておいたら、ずっとこの状態で静止したままだろう。
 もちろん、そんな状態だったら辛抱たまらんので、先に進むないと、色々と収まりがつかない。

「ほらほら、早くしてよ」

 みっちゃんの、乙女回路暴走中な頭の中に、更に恐怖の成分をぶちこむ。
 ただでさえ脅えているみっちゃんが、座り込んだまま後ずさりしようとしたので、
 その前にインビジブルテンタクルの触手でガードした。
 思考を読んでいると、普通に二手三手先に行動できるから、イイネ!

「あー……えっと……やっぱり、また今度ってことにしちゃ、ダメカナ?」
「いいけど、それだったら、今度はみっちゃんの処女膜ぶち抜く」
「うわー、乙女の純潔を人質に取ったな、この悪党め」
「なんとでもいいがいいさっ、みっちゃんと気持ちいいことできるなら、世界を敵に回してもいい」
「オバなんとかさんにコールかけて、ICBMの出前頼んでもオッケー?」
「リアルで世界を敵に回すのは、マジ勘弁」

 ぐぬぬぬぬ、とみっちゃんは唸りながらも、震える手でファスナーの間に指を突っ込んできた。
 今日は、きちんと新品のブリーフをはいてきている。
 念のために用意してきた勝負パンツだ。

 やっぱりパンツは白ブリーフ。
 黄色い染みなんて一つもなく、どこに出しても恥ずかしくないパンツだ。

 おっきおっきしちゃっている一物のせいで、中々みっちゃんはうまくチンポジを把握できないようだった。
 おっかなびっくり触れているので、パンツのチンコを出すところを何度も引っ張っては、ぱちんと元に戻している。

 ……。

 このままじゃ収まりがつかない。

 いや、別に、本当に、このみっちゃんのたどたどしい手つきに興奮してしまい、
 安全装置がかかったままなのに暴発してしまいそうだとか、そんなことは一切無いぞ。
 本当だぞ、本当だ!

 ……あまりにもみっちゃんの手つきがぶきっちょなので、ちょっとだけ手助けをしてやることにした。

 余っているインビジブルテンタクルの触手を用いて、そっとみっちゃんの手元に寄せ、
 俺のおパンティーブリーフ大納言様のお口を開いてやった。

 ぼろん、という擬音が良く似合う、チンポコがおなりになられた。

「……ッ」

 乙女ちっくみっちゃんは、初めて見る男性器に絶句している。
 心の中では、うっわー、これ舐めなきゃならないの、マジでっ、とか驚いている。

 なんで舐めなきゃならないのか、とかそういうことは考えていない。
 うんうん、インビジブルテンタクルの効き目は抜群のようだ。

「……ううっ、美智子、吶喊します」

 ぱくっとくわえられた。
 もちろん、半分テンパったみっちゃんにも歯を立てないようにする理性は残っていたようだった。

 若干腰が引けてしまったが、処女のみっちゃんに非童貞の僕が負けるわけにはいかない。
 どっしりと仁王立ちして、はじめてのふぇらに対して堂々たる態度を取らねば。

 みっちゃんの頭の中では、ただひたすら嫌悪感のアラートが鳴りまくっていた。
 今まで培ってきた常識の中では、口に含むものではないはずのものをくわえている事実に対し、
 過去の色々な記憶や知識なんかを引っ張り出して、現状に該当する解答を出そうとしていた。

 しかし、そんなもんはありっこない。
 俺がインビジブルテンタクルという、平常の手続きとは全く別の経路から圧力を掛けているのだから。

 じゃあ、インビジブルテンタクルを使って、みっちゃんの嫌悪感を除去してあげよう、とかそういうこともない。
 むしろ、俺が男子便所で小便をしているイメージをみっちゃんの頭の中にインポートしてあげた。

 ものすごい勢いではき出そうとしてきたが、そこはインビジブルテンタクルで物理的に妨害した。
 期せずしてフェラチオからイマラチオへと変化した。

 みっちゃんは目にうっすらと涙を浮かべていた。
 俺の胸が罪悪感でズキズキと痛み始めるが、しかし、それがいい。

 俺のちんこは、みっちゃんの口の中にあるだけだ。
 みっちゃんは嫌がって、俺を喜ばす技能どころか、舌で触れることすらもしてくれない。
 ただ、あのみっちゃんの生暖かい粘液ごしに触れていることに、異様な興奮を覚えている。

「んんんんーッ! んっ、んっ、んっ!」

 とはいえ、そのままだというのもそれはそれでじれったい。
 ほんの数センチ、腰を後ろに下げ、もう一度付きこんだ。

 みっちゃんの唇が、俺の陰茎を擦り上げ、待ちに待った快感が背筋を通る。
 付きこむときには、みっちゃんの口内に亀頭が触れ、小用を足しているときの感覚が走る。

「出す、出すよ、みっちゃんっ!」
「んんんんっ! やめっっ! んんむううううううっ!」

 腰を引き、みっちゃんの唇が亀頭のぎりぎりに触れるところで射精した。
 どくん、どくん、と心臓の鼓動のようにチンコが脈動し、鈴口を貫くように精子が飛び出る。

 そこはかとない満足感が僅かばかりの虚脱感とない交ぜになって心の中に広がる。
 が、今日はフェラだけで終わりじゃない。

 インビジブルテンタクルで指示していたせいか、チンコを抜くとき、ちゅぽんと音がたててみっちゃんの唇が閉じられた。
 みっちゃんとしては、口の中で盛大にぶちまけられた白いねばねばをはき出したいところなんだろうが、
 俺がそれを許可しない。

 別にそのまま放置していてもはき出すことはないが、敢えて右手でみっちゃんの口を塞いだ。

「ほら、飲んで」

 みっちゃんの中の俺の好感度がぎゅんぎゅん下がるのを感じる。
 今までの行為は、インビジブルテンタクルによって普通の行為と認識させていたが、
 無理矢理飲ますのはそれに含まれていない。

 が、口を塞がれているのだから、どっちみち飲み下さないといけない、と判断したようだった。
 ごくりと、白い喉が動くことを確認してから、そっと手を離した。

「さて、じゃあ、今度はこっちがお返ししないとな」

 はあはあ、と荒く呼吸しているみっちゃんが、こっちを見た。
 これ以上何をされるのか、という恐怖がそこには含まれている。

「そこの机に座って、大きく足を開いて……あー、下着はそのままでいいよ。
 濡れたパンツごしの指の感覚というのも、中々乙なもんだから」

 乙女なみっちゃんも、ここまで言われれば何をされるのか理解したようだった。

「い、いやいやいや、私はいいよっ、私はっ!」
「だいじょーぶ大丈夫、みっちゃんのためにやってあげるんじゃなくて、
 僕がしたいから、みっちゃんのあそこをいじくり倒すんだから」

 インビジブルテンタクルの触手で、なぞるようにみっちゃんの尾てい骨辺りから、腰までなで上げる。

「うひぃぃぃぃっ!」

 みっちゃんが驚いて立ち上がるタイミングを見計らって、インビジブルテンタクルを動かす。
 両膝裏と、二の腕にがっちり縛り付ける。
 精神支配に重宝するインビジブルテンタクルだが、こんな使い方もある。

 みっちゃんが空中に持ち上がり、両手を上げ、足を開く格好で眼前に迫る。
 スカートという名の秘密を隠すカーテンをめくり上げると、そこには淡いピンク色の清い布きれがあった。
 逆三角形の形状のそれは、ボトムがじっとりと濡れ、濃いピンク色になっている。

 なんだ、なんだかんだ言って、体は正直だのう。

「ああ、そうそう、僕の能力なんだけどね。感覚を鋭敏化する能力なんだ。
 具体的にやってみせると、こんな感じ」

 そう言うと、目の前のパンツの濡れている部分に向けて、ふうっ、と息を吹きかけた。

「ひゃ、ひゃああああんっ!」

 みっちゃんは首をのけぞらし、膝から先の足を跳ね上げて、震えた。
 パンツの染みが更にその領域を増やし、濡れたパンツは肌に貼り付き、
 パンツが隠している領域の輪郭をより露わにしている。

「みっちゃんはいつもオナニーしたとき、何回達している?
 一回、二回? ……今日は、文字通り、桁違いの回数やるよ」
「らめっ、らめぇぇっ……無理、無理ぃぃぃっ!
 もう、こんなっ、息、吹きかけられただけでっ……頭が真っ白に……」

「イキすぎて疲れて、腰が抜けて、何にも抵抗出来なくなったら、無理矢理力ずくでみっちゃんの処女貰うね。
 うん、大丈夫、泣いても喚いても、やめてあげないから。
 多分、明日になるころには、僕無しでは生きていけないような、エッチな女の子になるんじゃないかな?」

 そういいながら、僕はそっと人差し指で、みっちゃんの大切なところに触れた。