人生堂々巡り

 ふと、空を見上げてみた。
 雲が少なく、突き抜けるような青さだ。
 今日は本当に死ぬのにいい日だ。

「……の罪により、ヒラガ・サイトを始祖ブリミルの名の下に斬首刑に処する」

 今回は、ここでお終いか。
 武器もないし、道具もない。
 魔法も使えなければ、鍵開けの道具すらない。
 まあ、いっぺん斬首刑になってみたかった気も……多分、今まで斬首刑は受けたことがないよな。
 記憶があいまいだから、そこらへん、いまいち自信がないが、これも貴重な経験ということにしておこう。

「何か、最後に言い残したことはないか?」

 言い残したこと、か。

「太陽が黄色かったからだ……あ、いや、まぶしかったから、だったっけか?
 いまいち思い出せないけど、多分、太陽が黄色かったからかまぶしかったから」

 俺に死刑を宣告し、俺の処刑を見に来た大衆に向かって書状を読み上げた人は、俺の言葉を聞くなり眉を顰めた。
 まあ、これから死ぬ人間に、わけのわからないこと言われれば誰だってそんな反応するだろう。
 逆に、これから死ぬ人間だからこそ、わけのわからないことをのたまう。
 そして、彼はそういった狂言に飽き飽きして、眉を顰めたのかもしれないが。

 異邦人、っつってもこの世界にゃ、それが通じる人はいないから、まあ、狂言に聞こえるのかも知れない。
 丈夫な布の袋を頭に無理矢理被せられ、そのまま斬首台に押しつけられる。
 両手と頭を固定され、もう逃げられなくなった。
 逃げるつもりはないけどな。

 死刑執行人が聖句を呟いている。

 別に恨むつもりはない。
 あれはあれで、専門職なのだ。
 ハイ・ディテクトマジックが使えるか、それとも相当高度な医学に長けているモノにしかなれない。
 しかも忌み職だから、やたら気苦労が多くて、普通の神経をしている人間には務まらない仕事だということは理解している。
 俺もなったことあるし。

 ああ、このフレーズは……。

 さて、後三秒としないうちに『今回』は終わりだろう。
 今回は結構無茶しすぎた、次回はもう少しのんびりやろう。
 なんか色々疲……。






「あんた誰?」

 空が見えた。
 確かに快晴だと言える天気だが、さっきの空に比べるとどちらかというと雲が多いかもしれない。
 ルイズが目の前にいるから、詳しく空を見ることはできないが。

「平賀才人」

 やれやれどっこいしょ。
 今回は『いつも通り』か。
 もっとレアな回を期待していたんだが、普通か。
 まあ、前回やたら疲れたから、普通の回ならのんびりするのには楽な方かな。
 いつも通りはいつも通りで、結構面倒なことも多いんだけどな。

「どこの平民?」
「極東の島国の平民」

 まあ、嘘は言っちゃいない、よな。
 もうあのころの記憶は遠い彼方だ。
 人の子である以上俺にもきっといるはずの母親や父親の顔はもう既に思い出せないし、あの世界がどんなだったのかもわからない。
 ただ、日本、っていう国があっちの世界で極東の島国だった、ってことは覚えている。
 何に対して東なのか、そーゆーところは覚えてないけど。

 微妙にルイズと辺りの生徒達の雰囲気が変わった。
 こっちの世界じゃ東の方には長耳が多い。
 ここいらにいるメイジにとってその長耳はあまり触れたくない部類の存在であって……。

「み、ミスタ・コルベール!」

 ルイズは飛び跳ねるようにしてコルベール先生の前までかけていった。
 両手をぶんぶん振り回し、あくせくあくせく苦労して、もう一度召喚させてください、と頼み込んでいる。

 あー、もう面倒。
 こんなん、もう見飽きたっつーの。

「やめとけ、何度やったところで結果は同じだ。
 俺を殺すか、それとも使い魔にするまで、サモンサーヴァントをいくらやったとこで、俺の前にゲートが出て終わりだ」

 俺にとっては死ぬのも使い魔になるのも、はっきりいってどっちでも結果は同じことになる。
 死んで『次回』に行けば、死ぬかそれとも使い魔になるかの二択がある。
 ゲームみたいに、『はい』を答えるまでずっと同じ選択を強いられるのと同じように。
 この場から逃走するという選択もあるが、少なくとも二週間の間はうっかりゲートに落ちないようにしなければならない上、
 二週間後にはルイズがトリステイン魔法学院を退学させられるというしょっぱいイベントが発生するのであまりおすすめしない。

 魅惑の妖精亭で、婿に入って若主人になるって手段も、もう飽きるほどやったしな。
 ルイズ不在の状態でアルビオン軍に攻め入られて、中々不愉快な目に遭うことも多いし。
 やたらちまちましたことばっかりしなきゃならないから、あんまり好きではない。
 まあ、気のいい連中と大勢知り合いになれるけど、差し引きで言ったらマイナスか。

「あんたは黙ってなさい!」

 新たな人生を、いつも毎回違った選択と楽しみ方をしている俺だが、ここの流れはどう変えようもない。
 何千、何万回と繰り返していることだから、反応一つとっても退屈極まりないものだ。
 逃亡しない、自殺しない、いきなり学院ジャックもしない、
 平均的な人生を過ごすには、この退屈という俺にとって最大の敵との戦いを避けることはできない。

「そっちのハゲの人も言ってやってください。
 いいからさっさとコントラクトサーヴァントしないと、お前は退学だ、ってね」

 ガンダールヴの力がなくともやっていけるといえばやっていけるが、あった方が便利なのは確かだ。
 稀に、ヴィンダールヴなんかの他の使い魔の力を得ることもあるし。

 ともあれ、コルベール先生は若干、頭髪を少ない人間、という意味の言葉を投げかけられちょっと気にした様子だったが、
 俺の要求通りにルイズに言ってくれた。
 もうちょっとルイズを追い込ませると、本当に退学しちゃうが、今回はそのシナリオに興味はない。

「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
「ご託はいいから早くしろノロマ」

 ……なんかイラだっているな、俺。
 別にこんな悪し様に言うつもりはなかったんだが。

 案外、前々回のことが心に来ているのかもしれない。
 ちょっと手を出した人数が多すぎて、武器のない寝室に押しかけられて、エクスプロージョンでボンだったからな。
 やっぱりルイズは甘やかしちゃいけないな、うん。
 ルイズが上位に立っての男女関係は、せいぜい一回目から五回目くらいまでだ。
 六回目以降だと、中々精神的に辛くなってくる。

 何度もラブラブになって、究極的な信頼関係が創造できた相手が、次の回には結局元通りっていうのは辛い。
 一体あの苦労はなんだったのか、あの楽しい時間はなんだったのか、と虚無感に襲われてどうしようもなくなってしまう。
 最初からやり直して、傅いて、おだてて、褒めて褒めて、散々苦労した結果、またくっついて、かと思えば最初っから。
 もうやってられねーよ、と大暴れした時期もあったが、今では開き直って、自分主導の恋愛関係を創り上げることにしている。

 ルイズは俺の乱暴な言いように眉を顰め、不満を露わにしたが、退学よりかはマシと判断したらしく、俺を使い魔にした。



 もう知ってのことかと思うが、俺の名前は平賀才人。
 チキョウ……チキュウ? チキュウだっけか? チキュウからこの異世界ハルケギニアに召喚されたナイスガイ。
 ルイズというかわいい女の子のメイジに突然召喚されて、こっちの世界で暮らすことになってしまった。
 最初はなんやかんやして元の世界へと戻る方法とか探していたが、結局この世界に留まることを選んだ。
 それで天寿を全うし、老衰でぽっくり逝くと、天国ではなくトリステイン魔法学院にいた。
 若い体に戻り、若いルイズの目の前で。

 どういう理由でそうなのかはわからないが、俺が死ぬとこちらの世界に召喚された直後に戻ってしまうらしい。
 それも多分、無制限に。
 俺がこの世界に召喚されたところから始まって死ぬまでを一回と数えると、繰り返した回数はもう五桁の数を超えている。
 例え刺されようが、自殺しようが、エクスプロージョンで消滅させられようが、斬首されようが、
 どんな死に方をしたところでも例外を除き、次の瞬間にはルイズが目の前で「あんた誰?」だ。
 もはや生き地獄と称すべきかよくわからない領域にある。

 人生にリセットボタンはない、という言葉がある。
 俺に限ってはリセットボタンがあって、リセットしまくりなのだ。
 ついでに普通の人間には存在する電源ボタンというものが俺にはない。

 死にたいのに死ねない、というジレンマは当然発生した。
 しかし、実際にどうしようもない。
 あるいは人生の全ての悩み事は死によって解決されるのだろうが、残念ながら俺にはその死が許されていない。
 ずーっと悩み続けて、ノイローゼになって、それでもずーっと生きていて。
 あまりに長い時間を生き過ぎてしまって、何がなんだかわからなくなり、とりあえずその期間は脱することができた。

 今では、人生前向きに生きようよ、という信念でもって行動している。
 こう言うと軽く見えるかもしれないが、ノイローゼに陥ってここまでこぎ着けるのに、
 通常の人が生まれてから死ぬまでのサイクルを十回以上繰り返す時間を費やした。

 ま、考えようによっては何やってもいい、ってことだからな。

 ともあれ、前回は色々と血湧き肉躍るようなことをやって、それで首をザシュっと斬られちゃったから、
 今回はもっと穏やかで楽しいことをしましょ、ということで。




 あれやこれやを言っているうちに、コントラクト・サーヴァントは終了した。
 ルーンが刻まれた箇所は左手。
 普通のガンダールヴの紋章だ。
 つまらん。
 今回は、戦闘も何もする気ないし。
 ミョズニトニルンの紋章だったら、道具をエロく使ったり出来るから、色々と楽しかったんだが、これじゃあね。

 ま、しょーがないか。

 稀に、人生を繰り返しているうちにイレギュラー的な回が発生する。
 例えば、俺がガンダールヴではなく他のルーンを所持することになったり色々と。
 主人がルイズではない、というのはざらで、割と多い回数なのが、タバサ、キュルケ、アンリエッタ、テファなどなど。
 滅多にないレアどころを言うならば、生まれが貴族のシエスタ、モンモランシー、ギーシュ。
 それよりももっと少ないのが、オルレアン公(タバサ父)、生まれが平民なのに何故か召喚できちゃったシエスタ。

 そもそも俺が異世界から召喚された人間ではなく、純粋にこっちの世界の人間として生まれてきたときもある。
 モンモランシーの弟として生まれた回なんて、今でも思い出す。
 アレは中々素敵な体験だった。
 青魔法の研究に取り組もうと思ったのはあの回があったからであり、
 何百回もまたいで続いた研究は俺に多くの暇つぶしを与えてくれた。
 ただそれだけじゃなく、モンモランシーとのリアル近親相姦プレイもまた、燃えた。
 モンモンさんちには何度も婿入りしに行ってるけど、あれほど濃厚なエッチはしていない。

 ビバ・退廃的生活! って感じでとてもステキだった。
 メイド達にも手を伸ばしすぎて、嫉妬にかられたモンモン姉様が俺に薬を盛って恋の虜にしてしまい、
 最後には屋敷に火を放ち、悲しき運命の中、深く混じり合いながら二人は焼死したというなんともデカダンスな終末を迎えている。

 惜しむらくは、何万回と人生を繰り返す俺でもまだたった一回しか経験していないというレア中のレアな回なのだ。
 もう一回やって、今度はちゃんとモンモン姉様だけ……いや、モンモン姉様中心にかわいがってあげるハーレムを作りたい。
 一回の人生で一人の女性しか愛さないなんて、馬ッ鹿馬鹿しくてやってらんねーし。

「ぐああー、あついっ」
「……なんで棒読み?」

 ちゃんと演技してるんだから、水差すな、ボケッ!
 思わず悪態が口から漏れそうになるのをなんとかこらえ、もう慣れた痛みに悶えるフリをする。
 はあはあ、と息を切らせて体を起こすと、やけに胡散臭そうな目がたくさんこっちを見ていたが、全部無視だ。

「ふう、なんだか俺の知らない不思議なパワーに目覚めた気がしたぜ……」

 半分以上嘘だ。
 俺が知らないわけがない。
 ついでに不思議でもなんでもなかったりする。
 ガンダールヴの力が一体何で、どこから来ている力なのか、もう何千回前の人生で判明した。

 なんだか胡散臭げな視線が、かわいそうなものを見るかのような視線に変わった。
 俺が目を向けた方向にいる人間は、咄嗟にさっと目をそらし、沈黙する。
 例外はそもそも最初から俺に目を向けていなかったタバサや、興味津々に見てくるキュルケくらいだ。
 ああ、あと、なんか気味の悪い視線を向けてくるハゲベール……もといコルベール。

 コルベールは、一度だけルイズを寝取られたことがあって、あのときの恨みは忘れたくても忘れようがない。
 普通のコルベールは優しく穏和で若い女性に弱い普通の中年のハゲのおっさんだが、
 ごくごく稀に凶悪な性格のコルベールとして登場するときがある。
 俺はそれを俗に『汚いコルベール』略してハゲベールと呼んでいる。
 キュルケがコルベールになびくのは、普通の進み方をしていれば常道なのだが、
 ハゲベール登場時には積極的に俺の女に手を出してくるのが困りものだ。
 今ではハゲベールを見かけたら、すぐにぶち殺すようにしているが、今回はどうやらコルベールの方らしい。

 何度かルイズが生徒達にからかわれ、いちいちルイズがそれに対して応答していたが、
 コルベールの咳払いとともに止み、ルイズを除く生徒達は空を飛んで、教室へと帰っていった。

「お前は飛ばないのか?」
「うるさいわね」

 わかっちゃいるものの聞かなきゃ変かな、と思って声をかけると、お約束通りの返事が返ってきた。
 まるで俺から、というか現実から逃げるように、ツンッと足早に校舎の方へと歩き出す。
 俺もルイズに遅れぬように、割と早いスピードで追いかけた。

 さて、そろそろアプローチするべきかな。

 どこの校舎の窓の死角になった位置に近づくと、ルイズの背後から近寄り、さっと手を取って引きずり込んだ。
 校舎の壁に背中が付くようにルイズを押しつけ、逃げられないように手で校舎に寄りかかる。

「な、何すんのよ!」

 突然の出来事で面食らったルイズが吼える。
 まだまだ幼いというか、世間知らずのルイズは、こういった状況がいかに恐ろしいかわかっていない。
 ただ単に平民に乱暴に手を引っ張られ、壁に押しつけられたということだけを怒っているだけだ。

 うん、ここは悪い男にだまされないように一つ教え込んでやっとかないとダメだな。
 俺が悪い男であるということは、まあ、目をつぶっておこう。

「私にこんなことしてどうなるかわかってるの!?」
「わかってるさ。天下のヴァリエール家の娘に乱暴狼藉を働いたんだからな。
 でも、そっちこそわかってるのか? こんな目に遭わされて、どんなことになるのか」

 ルイズは典型的な貴族の精神を持っている。
 それは、平民と貴族という二つの階級の間に存在する差を絶対視する価値基準を持っているが、
 また同時にいかに巨大な敵であろうと無謀にも、『逃走する』という選択肢を無くす精神でもある。
 フーケの巨大ゴーレムに対し、豆鉄砲みたいな魔法で敵対したりするのが最たるものだ。

 事実、非常に堅く強い心、つまり敵に屈服しない精神を持っている。
 が、ルイズは同時に世間知らずであり……いや、世間知らずであるからこそその精神を持ち続けられているのかもしれないが……
 ルイズの知識の範疇外の『敵』に対しては非常に脆い。
 というか、足下を掬われると言った方がいいのか。

 まずはルイズから杖を奪う。
 杖を持つ右手の手首を軽く捻り、握力が緩くなったタイミングを見計らい、杖を抜き取る。
 爆発しか起こせないとはいえ、その爆発に巻き込まれるのはごめんだ。
 まあ、巻き込まれたとしても次に行くだけだからそんなに違いはないんだけれども。

「か、返しなさいよ!」
「そう言われて返すようなやつはいないよな」

 杖は近くの茂みの中に放り込んだ。
 これでルイズが俺の隙を見て、杖を取り返そうとしても木の枝に服が引っかかったりして足止めにはなる。
 もっとも、俺がルイズに隙を見せるなんてことは、まずありえないことだけどな。

「貴族って面倒くさいよな。
 特に女の貴族ってのは貞操なんてものを守らなきゃならないんだからな」

 貞操、という単語を聞いてルイズは微かに青ざめた。
 ようやく今になって、俺がどうしようとしているのかわかったようだ。
 金的蹴りをしてきたが、軽く膝を閉じて弾く。

「杖はない。人は見ていない。力だって俺の方が強い」

 とはいえ、今回で何もかも奪ってしまうつもりはない。
 初体験というのは案外大切なもので、あんまり乱暴にしすぎると性行為にトラウマを抱かれてしまうからだ。
 そうなると後々面倒になってくる。
 毎度毎度夜になるたびに、過呼吸症候群になったり、ひきつけをおこされるのはもう勘弁してほしい。

 まだ何か無駄な抵抗として、舌を噛んで死ぬわよ、とのたまうルイズに、
 じゃあ死ねば、と返して、そっとプリーツスカートの中に手を差し込んだ。



 それから時間にして十分ほど経過した。
 地面にへたり込み、顔を真っ赤にして息を切らせているルイズは、俺をきっと睨んでいる。
 ただ、目尻には大粒の涙が浮かんでいるし、俺の手にはさっきまでルイズが履いていた下着があるので、
 それほどの威圧感はない。

「許さないんだから……絶対に許さないんだから……」

 まだルイズの心は折れていない。
 自分に屈辱を与えた俺に対する復讐心がめらめらとわき上がっているのが、
 ガンダールヴの刻印を通じて理解出来る。

「で? 許さないんならどーすんの?」
「殺してやるわッ!」

 威勢良く吼えるルイズの顔の横の壁に、つま先で勢いよく蹴りを入れた。
 ルイズは怯んで顔を伏せる。
 ごっと壁が鳴り、微かな破片が飛び散って、ルイズの髪に少し当たった。
 ルイズの心が弱っている今なら、わかりやすい暴力……それも殺すことが目的ではなく、
 痛めつけることが目的の暴力を誇示するのは、案外効率的だ。
 俺という『ひょっとしたら本当にやりかねない輩』がやるなら、尚更に。

「で? 許さないんならどーすんの?」

 念のために言っておくと、俺はルイズのことを基本的には好きだ。
 何にしろ、最初に連れ添った相方でもあるし……といっても最初の回がどんなだったかもう覚えてないが、
 容姿だって悪かない。
 じゃあなんでこんなことしているのかというと、ショートカットのためだ。
 ルイズといいことをするには、自分が上に立つか下に立つかでかかる時間が大きく違う。
 下に立つ、つまり本当に使い魔としてルイズと仲良くなるためには、
 ルイズお得意の『わがまま』に振り回されないといけない。
 掃除、洗濯を命じられ、やれアルビオンに行くからついてこい、
 やれアルビオンと戦うからついてこい、はたまた私だけを見なさいとか。
 そんなことをしてよーやく俺のものになる。
 逆に上に立てば、その過程をすっ飛ばすことができる。
 まあ、上に立ったら立ったで、アフターケアが色々と大変なんだけれども。

 なんだかんだいって、上に立った方がルイズも幸せそうだからこっちの方がいい。

 ルイズは俺の顔を相変わらず睨んでいるが、瞳に籠もる力はさきほどより弱く、
 多分の恐怖が含まれている。

 今回は軽く嬲る程度で終える予定だ。
 総計で考えれば人の一生より長い時間、ルイズの体に触れていた俺にとっては、
 ルイズの体で知らないところなんてないと言っても過言じゃない。
 処女という、面倒くさいけれども中々楽しい体だって、どこをどうやってほぐして、
 どうすればどうなるかくらいは体が覚えている。
 ……ん? おかしいな、体は覚えているはずがない。
 なんてったって、新しい体だからな。

 ともあれ、今回も十分間という短い時間で、三回も絶頂を迎えさせてやった。
 新記録だ。
 このルイズいじりはもはや慣例になっており、
 いかに短い時間で多くの回数イカせるかを自分で挑戦している。

 微かに塩気の味がする右手の人差し指をぺろりと舐めると、自分の歯で指を傷つけた。
 少量の血が溢れ出たのを見て確認すると、ルイズから奪った下着のボトム付近に血をなすりつける。

「誰か他の人にいいつけたら、この下着を見せて『俺はルイズの処女を奪ったんだ』って言っちゃうよ」
「……ッ」
「そうなったらどうなるかなあ。
 ルイズが『してない』って言っても、世間はどっちを信じるんだろうなあ」

 こういう風に釘を刺しておけばルイズはまず他人に言うことはない。
 彼女自身から聞いたところによれば、

『まだ手は出されてないし、こんな男に嬲られたなんてことを知られたら腹が立つ。
 隙を見て、下着を取り返して、逆襲してやるんだから! って思ってたわ』

 ということらしい。
 自分のプライドの高さのせいで失敗するのはルイズの得意技だ。
 この台詞だって、なんとなく思いついた命令をやらせて、そのご褒美に抱いてやったときに聞いた。
 もうサイトさえいれば他に何もいらない、と囁いたのが本当かどうか確かめるため、
 トリスタニアの夜の表通りを、作り物の猫耳と首輪以外の全部脱がせて、四つんばいで散歩させたときのことだ。

「じゃ、これからよろしくお願いしますね。ご主人サマ」

 軽く手を振って、ルイズに背を向ける。

 さて、何事もはじめが肝心だ。
 お次はモンモランシーの部屋に忍び込まにゃならない。

 水魔法マスターと呼ばれ、メイジじゃないのにトリステイン魔法研究機関で
 水魔法の分野でトップに上りつめたこともある俺にとって、
 飲んだらエッチな気分になる薬なんて目をつぶっていても作ることが出来る。
 モンモランシーの手紙を偽造して……一応モンモランシ家の長男として育てられたことだってあるんだから、
 手紙の偽造だって楽々出来る……ギーシュに対しての牽制をしたり、
 モンモランシーの実家から特殊な魔法器具を取り寄せたりしなきゃならない。

 やることも、やりたいことも、やれることもたくさんある。
 今回の人生も、たっぷり楽しんで次に行こう。