第1話 美神令子

 俺こと横島忠夫は、今、バイトを探している。
 親父がドジったのか何なのか知らんが、ナルニアとかゆー国に飛ばされることになったのだ。
 もちろん、そんな名前すら聞いたこともないよーなド田舎な国に行く気はなく、泣いてすかして自由を満喫できる一人ぐらしをすることになった。
 お袋はそれが気に入らないのか、一応一人暮らしの許可は出したけれど、仕送りをかなり切りつめて来た。
 まあ、しゃーないっちゃーしゃーないんだが、アルバイトをしなけりゃ生きていけないっつーことで、適当なバイトを探していた。

「しっかし、楽で安全で時給が高くて美人のねーちゃんばっかりのバイト先って中々見つからんなー」

 部屋で、早速買ってきた求人雑誌をぱらぱらをめくり、目当てのバイトを探す俺。
 中々要望に適うものは見つからない。
 一番いいのが今言った通りの条件のバイトなんだが、こう、素敵な美人の下でやれるのなら時給はいくらか切りつめてもいいような感じだ。

 しかし、中々見つからない。
 第一にアルバイトの雑誌なんかに美人がいる職場ですとか書いてないし、書いてあっても正直胡散臭いだろう。
 やっぱり街を歩いて目当てを付けてからやないと、ダメなんかな〜。

 と、そんなことを思っていたときだった。

「……ん?」

 なんかよくわからんが、部屋の中に変な浮遊物が現れた。
 ドアも窓も閉め切っているはずなのに、電灯の下に何かが浮かんでいる。
 最初は目の錯覚かと思っていたが、段々と実体を持って、輪郭がはっきりしてきた。

「なんだこりゃ?」

 恐る恐る近づいて、よく目をこらして見てみた。
 それは真ん中に大きな球体があり、その周りに小さな球体がくっついている奇妙な形状をしていた。
 何かのオブジェにも見えるそれは、くるくると空中で回っている。

 心霊現象、そんな単語が脳裏をよぎった。
 このアパートは結構古いしボロい。
 幽霊が出てきても、正直、おかしくない。
 だけど、人の形をしているならともかく、こんなわけのわからない形の幽霊がいるもんか?

「……ッ」

 なんとなく、その物体に手を触れてみた。
 チンッと金属っぽい音を鳴らし、回転が一層早くなる。

 幽霊とかではなさそうだった。
 霊能力なんかない俺が触ることができたんだから、幽霊じゃないだろう。
 UFOかもしれない。
 ちょっと変わったkeijyouだが、どちらかというとUFOっぽい。

「……捕まえて、新聞社に売ったら結構な金になるんじゃねーか?」

 よくわからんが、大金持ちになることも不可能ではないかもしれない。
 どちらにせよ、捕まえてみるか……。

 と、思っていたら、得体の知れない物体が俺の方に向かって飛んできた。
 咄嗟のことだったので、避けることも逃げることもできなかった。

「どわぁああッ!」

 ソレは俺の中に入ってきた。
 皮膚があろうがなんだろうが、まるでホログラムかなんかのように通り抜けて入った。

「ぐわああああああああ! し、死ぬッ……って、なんともないな……」

 気味悪い体験をしたのに、俺の体に特に変わったことはなかった。
 変なモノが入り込んだが、異物があるような感覚はない。
 体を起こして、意味もなく揺すってみたが、何の反応もない。

 実は全部夢を見ていたのかも知れない、と思ってほっぺたをつねってみた。

 痛い。

 夢ではないみたいだ。

 気味悪いこと甚だしかったが、何の変調もないのならば病院に行くのもなんか変だ。
 気になって、その場でどうすべきか考える。
 考える。
 一時間考えに考えて結論を出した。

 もう寝よう。
 悪い思い出ということで早く忘れてしまおう。
 何の影響もない変な物体のことよりも、バイト探しの方が重要だった。
 たっぷり睡眠をとって、明日街に出て、美人のねーちゃんがいっぱいいるバイト先を探そう。

 そう思って、電気を消して布団に入り込んだ。
 一分もしないうちに眠気が襲いかかってきた。

 すぐそのまま寝てしまおうかと思ったが、またも怪異が発生した。
 ふと目を開いて部屋の中を見てみると、俺の寝ている真上に何か光るものがある。
 またあの変な奴か、と思って無視しようと思ったが、今度は人の顔をしていた。
 びっくりして、布団から抜け出し、部屋の壁に寄りかかって、その光るものを見た。

『よお、昔の俺……』
「な、ななななななな、なんだぁッ!? お、俺の顔があるぞッ!」

 その光るモノは俺だった。
 ちょっと老けてるように見えなくもないが、まぎれもなく俺の顔だった。

「ひょっ、ひょっ、ひょっとしたら俺は俺が気付かないうちに死んじまったってことか!?
 その魂が人魂になってあそこにあるのか!?
 ああっ、じゃあ、今俺が俺だと思っている俺は一体どんな俺なんだぁあああーッ!」
『落ち着けよ! 俺は確かにお前だが、お前は死んじゃいねーよ』
「う、うるせぇ! なんだお前は! 名を名乗れ!」
『名前は……横島忠夫……ただし、今の五年後の、な』
「ご、五年後ぉ!?」
『まあ、ちょっと怖がらずに話を聞けよ。それくらいの時間はある』

 なんだかよくわからないが、五年後の俺、と名乗る光の話を聞かされた。
 最初はおっかなくて逃げようと思って話なんて聞くつもりはなかったが、その光をよく見れば見るほど、なんか俺っぽい感じがして、不思議と落ち着いてしま う。
 いつの間やら、俺と名乗る光の話を俺は聞き入っていた。

 なにやら俺には霊能力があるらしい。
 それも磨けばGS界の中でもトップに立つことのできるほどの素質を持っているんだとか。
 しかも、滅茶苦茶レアな特殊能力『文珠』というものを持ち、自力で時間移動すらも可能。
 一体どこの映画の話だよ、とツッコミところは満載だったが、俺がそんなものを持っているとなると嘘だと思っていても嬉しくなる。
 んで、その五年後の俺とやらがここへ来たのは、失った恋人を取り戻すため、とかなんとか。
 そのまま時間移動したんじゃ、宇宙意思だか歴史の修正力とかなんかよくわからないものが働いてダメらしい。
 それで、こいつは五年前の俺……つまり俺と合体して……。

「って、嫌じゃーッ! いくらなんぼでも、お前みたいな変なもんと合体したくないわーッ!」
『おいおい、お前は俺で俺はお前なんだぞ? それに俺と合体したら人類の中で最強クラスの霊能力を得ることが出来る』
「うるせー! なんだその悟りきった顔はッ! もっとな、俺は煩悩にまみれてぎとぎとした顔をしとるわいッ!」
『む、胸張って言うなよ、そんなこと……』
「なんかお前と合体すると、若い男の癖に美女を見て猛らないような男になりそうだから、嫌だ」
『そりゃまあ、妙神山で煩悩を抑えるように修行したから、合体したらそーなるだろうけど』
「嫌だッ! 若いのに老人みたいな生き方して溜まるかッ! とっとと未来に帰りやがれ!」
『くっ……仕方ない』

 五年後の俺を僭称する光は、いきなり俺に飛びかかってきた。
 一応身構えていたので、俺は身をかわす。

 光は壁を突き抜けて向こうに行ってしまったが、すぐにまた舞い戻ってきた。

「く、くそう……しつこいぞ、お前!」
『時間がないんだ! くっ、説明せずに無理矢理やっておけばよかった!』

 どうやらもはや手段を選ばないらしい。
 第一、得体の知れない光に『合体しよう』とか言われてホイホイ言うこと聞く奴がいるか!
 幻魔大戦の東丈君だって、『合体しよう』と持ち込んでいたのは本人片割れじゃなくてザムディだったじゃないか。

 ひょっとしたら、こいつも悪霊とちゃうか?
 よく考えてみたら、万年ダメ学生の俺が霊能力なんて持ってるはずがない。
 うっかり甘い言葉に乗せられて、悪霊に体を乗っ取られるところだった……。

 となれば俺のとる行動は一つ。

「戦略的撤退!」

 逃げる!

『くっ、『縛』!』

 部屋のドアを開こうとしたら、あの光になんかを投げつけられた。
 と思ったら、俺の体が光の縄で縛られ、身動きが取れなくなる。

「うわっ……って、アレ?」

 かと思うと、光の縄はぷちんと切れてしまった。
 今のは一体何だったのか?
 こけおどしか?

『なッ! 文珠があんなにあっさり破られた? くっ、こうなったら』
「し、しまったぁッ!」

 あまりに呆気なかったもんだったから、その場で足を止めてしまっていた。
 光はその隙を狙い、俺に向かって体当たりをしてきた。
 逃げ切れず、光が俺の体の中に入り込む。
 途端、俺の頭の中に光の記憶が流れ込んでくる。

 光は本当に五年後の俺だった。
 これから起きることが細部に渡って記録されている。
 ほんの数秒の時間で、五年分の記憶が一瞬にして俺の頭の中に入ってきた。

 サイキックソーサー、ハンズオブグローリー、そして、文珠。
 霊力の練り方、霊力の集中の仕方、体術の心得。
 光の言っていた『人類の中でも最強クラスのGS』に、俺はなった。

『な、なんだと!? 何故、このときの俺がこんな力を!?』

 頭の中で五年後の俺の声が響いた。
 なんだかうろたえているらしい。

『これは……アシュタロスのエネルギー結晶!? 何故、五年前の俺がこんなものを持っている……』

 アシュタロスのエネルギー結晶。
 俺に流れ込んできた記憶の中にも、それに該当する単語が出てきた。
 魔神アシュタロスの主たる力の源とゆーやつだ。
 俺が文珠で破壊したのだが……。

 そういえば、光が出てくる前に現れたあの変な物体。
 あれがそうだ。

 五年後の俺の断末魔の声が俺の頭の中で響いた。
 どうやら、俺を取り込むつもりだったらしい五年後の俺は、逆に俺に取り込まれたらしい。
 アシュタロスのエネルギー結晶を得た俺の魂の方が力が強く、向こうが飲み込まれたようだ。

 なんでアシュタロスのエネルギー結晶が俺の部屋に現れて、俺の魂と同化したのか……。
 第一、アシュタロスのエネルギー結晶はアシュタロスにしかその力を発揮できないはずなのに、何故俺がそれをエネルギーとして使えるのか。
 謎だらけだが、なんだかよくわからないうちに俺はとんでもない力を持ってしまったらしい。
 それこそ、人間界だけならば一人で制圧することができるほどの力を、だ。
 加えてこれから起きることを知っている。

 これで俺が、正義のヒーロー……いや、五年後の俺だったならば、この力を世のため人のために使ったりしたんだろうが……。
 俺は煩悩魔神と呼ばれるよーな男だ。
 これだけの力があればありとあらゆる欲望を叶えることができる……。
 世界征服とか権力とかそういうのはあまり興味がない。

 がしかし、金! 女!
 この二つはいくらでも欲しい。
 それもただ力ずくで奪うのは面白くない。
 第一、力ずくで奪っていったら、神族や魔族に気付かれるかもしれん。
 流石にアシュタロスの力を手に入れた俺とて人間だ。
 デタントなんて一切関係ないから、神族正規軍と魔族正規軍が両方遠慮無しでガチに襲いかかってきたって不思議じゃない。
 力を秘匿しながら、上手くやってかないといかんな、コレは。

「ぐふ、ぐふふふふ……この力を使って全世界の女を俺のモンにしちゃるぞーっ!」

 こうして俺は、何の努力もせずに手に入れた力で好き放題する計画を立て始めた。
 その夜は、興奮して全く眠れなかった。




 翌日。
 顔をひっぱたき、夢じゃないことを確かめる。
 サイキックソーサー、ハンズオブグローリー、文珠を出してパワーを確認する。

 はっきり言って霊力がアホみたいに高いから、文珠を出そうと思えば手を下に向けるだけで、フィーバー台から出てくるパチンコ玉のように大量に出すことが できるのだ。

 今日は、俺がこれから下で働くことになる美神令子除霊事務所に行く。
 記憶によると、高ビーで守銭奴でプライドが高くて、しかし美女。
 今までの俺だったら、声かけたって『ふん、汚い手で触るな、ゴミが!』とか言われてもおかしくない人だ。
 だが、しかし……どぅわが、しかぁぁし! 俺には力がある! 文珠がある!
 オカルトを取り締まる法律なんてなんぼのもんじゃーいッ!
 文珠を使えばいくらでも偽装できるし、バレたってもみ消せる……ッ!
 まさにやりたい放題! この世は俺の天下ッ!
 核ミサイル打たれたって死ぬこたぁぬぁいのだーl!

「ふっふっふ……さようなら、昨日までの俺! 初めまして、今日からの俺ッ!
 あのむちむちボデコン女をコマしたるでーッ!」

 俺ははりきってアパートを出た。
 前屈みなのは、まだ俺が童貞で、興奮しちゃってるからだ。
 はっきり言って、あのナイスバディを犯すことができる想像が止められなくて、勃起が止まらない。
 どっからどー見ても変質者で、ちょっと情けないけど、あと数時間でこの滾りは収まる。

 文珠に文字を篭めて、一瞬にして二駅を瞬間移動した。

 『転』『移』




「事務所前にとりあえず一枚……! あとは、求人情報誌にでも……」

 というわけで俺は今古い方の美神除霊事務所の前にいる。
 今の俺は初めて見る人だが、記憶に残っている通り長い金髪をたなびかせたボディコン女がポスターを貼っている。
 鼻歌なんてのを歌っちゃって、うかれているもんだ。

 ぐびりと音を立てて、唾が喉を通った。
 普通に接して、普通にバイトしたいんですって言って……中に押し込んでから……うひひ……。

「ああっ、もう我慢ならーんッ! 一生ついていきます、おねーさまーッ!!」
「わああッ! 何すんのよ変質者ッ!」

 し、しまった……あまりのフェロモンの量に我を忘れて飛びかかってしまった。
 くぅぅ……いくらアシュタロスの力を得て、未来の俺の霊能力を手に入れたところで、精神力は俺のままか……。

「す……すんません、違うんですッ!!
 『雇ってください』と言うはずが、近づいたらあまりのフェロモンに我を忘れて……」
「どーゆう自我の構造を――」

 美神さんの俺を見る目が胡散臭げになった。
 俺のことを雇おうなんて毛ほども思っていなさそうだ。

「……雇うって、あんたを? あとでこっちから連絡するから!」
「ああっ!? 連絡先もきかず、あからさまに不採用!?」
「いきなりセクハラかますよーな奴、不採用に決まってんでしょ!? 帰れ!」
「ま……待ってください、俺、マジで今ちょーどバイトを探してるとこだったんスよ!
 そこにこんな美人が募集かけてるでしょ? つ……つい、コーフンして……。
 お願いします!! 今まで、おねーさんみたいなものすごい美人見たことなくてっ!!
 どーしていーかわからんくらいきれーですっ!!
 バイトしてみたいッ!! こんなチャンス、二度とないかも!!」

 プライドを捨ててぺこぺこ謝り、褒め言葉を連発した。
 別にこんなことせんでも、文珠使えば一発だろーけど、それじゃちょっと興がなさ過ぎる。
 美神さんはとっても美人でえー素材しとるのに、文珠を使いすぎて変な風になってしまったら困るわけだ。
 往来じゃなくてもうちょっと落ち着けるところに一緒に行ってから、おいしくいただきたい。

「……ま、素直さに免じてセクハラを許すとしても、ウチの事務所は私の美貌と華麗な除霊テクニックがウリなのよ。
 私としてはすごくもったいないけど、ここはやはり身を切る思いで、バイト量はずんで、それに見合うモデル系美少女か美少年を……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺はそんなに顔はよくないかもしれませんが……」

 大きく息を吸い込んで、ハンズオブグローリーを出した。
 よかった、霊能力はある。
 全部夢とかじゃなかった。
 美神さんみたいな美人が手に入るのに、夢でしたとかいったら俺はキレるぞ、一人で。

「霊能力が使えますッ!」

 これには美神さんは目を丸くしていた。
 もちろん、ハンズオブグローリーの出力はものすごく搾っている。
 普通に出してしまったら、高出力過ぎて大変なことになってしまうからだ。

「……どこの回し者? 誰が師匠なの?」
「し、師匠とかいないッス!
 なんか霊能力に目覚めて、自然にこんなものを出せるようになったから、GSになりたいんス!
 どうせなら、業界でも一番実力のある人んとこに弟子入りしようと思って。
 それにしても、有名なGSである美神令子さんが、こんなにお美しい人だとは思ってなかったッス!」

 美神さんは俺の出したハンズオブグローリーをじっと凝視していた。
 多分、これでいくら稼げるのか算出しているんだろう。
 情報が正しければ、かなりお金にがめつい人だし。
 まだGSと開業したてでも、俺が一生遊んで暮らそうと思えばできるくらい、溜めこんでいるに違いない。

「ま、まあ、そんなちゃちな霊能力なんて探せばいくらでもいるけど。は、話くらい聞いてあげてもいいわね」

 よく言う人だ、美神さん。
 いちゃもんつけてなんとか時給を下げようとしてる。
 威力をかなり搾っているとはいえ、これほどの霊波刀を出せる人はそうはいないはずだ。
 GSとして即戦力になるバイトなんて人は、それこそ奇跡が起きない限りやって来はしない。
 それでもなお、お金を儲けようとしているんだから、美神さんの根性はスゴイというかなんというか。

 まあ、こっちは全部見透かしているし、企みも全部フイにしちゃう気満々なんだがな。




 俺は美神さんに誘われて事務所の中に入った。
 進められるがまま、パイプ椅子に座り、いくらかの質問をしてくる。

「あの……涎垂れてますよ……」
「え? ああ、ご、ごめんなさい」

 多分、いくらの利益が出るのか、妄想してたんだろう。
 美神さんは涎を拭き拭き、聞いてきた。

「他に……どんな霊能力が使えるのかしら?」
「あとは……サイキックソーサーと、文珠ッスかね」

 俺はサイキックソーサーを出した。
 美神さんの目が¥マークに変化してる。

 ……そろそろ頃合いかな?

「今のがサイキックソーサーッス。多分、投げればそれなりの攻撃力になると思いますけど」
「ま、まあね、中の下くらいの威力にはなるんじゃないかしら?
 そんなの全然役に立たないけど、まあ、素人がそこまでできるんなら、大したもんよ」
「次が文珠ッス」

 俺は手のひらが上になるように広げた。
 手のひらが発光すると、その上に数百個の文珠が出現して、宙を浮遊する。

「なっ!」

 美神さんは数百個というその数に驚いたようだった。
 文珠はレアな能力なので、いくら美神さんでもその効果は知らないだろう。

「で、で? その能力は、どんなにスゴ……いえ、どうせしょぼいだろうけど、どんな効果があるの?」
「まあ、口で説明するより実演した方が早いですね」

 俺は文珠を一つ取った。
 アシュタロスの力で作る文珠は一個一個が強力過ぎる。
 取った文珠は、かなり力を搾って搾って、使用霊力をケチケチして作った、比較的弱い力しか出ない文珠だ。

 俺はその文珠に文字を篭めて、美神さんの方へ放った。
 美神さんの机にチンッと音を立てて、文珠が落ちる。

「何、コレ……?」

 美神さんは文珠を手で持った。
 その瞬間、文珠が発動し、瞬く間に消えてしまった。

「……ッ!」
「文珠っていうのは、霊力を凝縮して、一定の方向性を持たせて解凍する能力らしいッス。
 漢字一文字をこめて解放すれば、それに応じた効果が発生する、ってことで……ね?」
「わ、私をハメやがったのね……やっぱりエミの回しもんじゃないの! あのアマ、とことん邪魔しやがって……。
 いいわ、いくら欲しいの? 私を出し抜いたんだから、ちょっとくらい多めに出してあげるわよ。
 一千万? 二千万? しょうがないわね、五千万までなら我慢しててあげる」
「あー、美神さん、誤解してますよ。別に俺は他のGSに頼まれて、ここに来たんじゃないッス。
 飽くまで、美神さんに雇って貰おうと思って、来たんスよ」
「しらばっくれるのはいい加減にしなさいよ!
 どうせ、私のポルノ写真を撮って脅そうって魂胆なんでしょ?
 いくらでエミに雇われたの? 二倍、三倍……いや五倍出すわ!」

 俺は思わず苦笑していた。
 金、金……まあ、美神さんが五千万出す、とか言っているんだからよほど切羽詰まってるんだろう。
 もうちょっとここでニヤニヤして見ていても面白い。

 が、しかし、昨日の夜から勃ちっぱなしの息子がそろそろ辛抱溜まらなくなってきている。

「一億! 一億出すわ! もうそれ以上一円も出さないからね!」

 俺は美神さんを無視して立ち上がった。
 立ち上がると同時に美神さんはぴくりと反応する。
 椅子からは立ち上がれないようだ。
 文珠の効果が利いている証拠だ。

 美神さんの顔に一瞬恐れのようなものが走った。

「わ、わかったわ、一億一千! 一億一千二百! 一億一千二百五十!」

 一歩一歩近づくたびに、声がうわずっていく。
 値段の上がり幅が小さくなっていってるみたいだけど、見ていて面白い。

「二億! もう、二億出すわ! ま、まだダメなの!?」

 もうあと二歩、といったところだった。
 二億出す、といっている美神さんは、咄嗟に椅子から立ち上がり、一気に飛び込んできた。

「いっ!?」

 いきなり神通棍を展開し、かなりの力で頭を殴られた。
 強い、っつーか、俺が常人なら確実に頭が割れてる一撃だった。
 俺も不意を突かれたために逃げることができなかった。

 霊力によって身体能力が強化されて、未来の俺の積んだ修行によって、攻撃が来る気配を察知することができたんだが、体がまだちょっと付いていかなかった みたいだ。

「……あ、あんたが悪いんだからね……正当防衛、って奴よ……」

 俺は神通棍でぶっ飛ばされて、壁に叩きつけられていた。
 かなり強い力で殴ったみたいで、美神さんの声は震えてる。

 殺しちゃった、って思ってるんだろうか?
 普通の人だったら死んでいる一撃だったけど、まあ、俺は普通の人じゃないからなー。
 死んだふりをし、薄目を開けて美神さんの動きを見張った。

 なんだかものすごくおろおろしている。かわいいな。
 未来の俺の記憶じゃ、俺が死にかけてもケロってしてたみたいだけど、この美神さんはまだ俺と会って間もないから、まだ慣れていないんだろう。
 こちらに背を向けたタイミングを見計らって、立ち上がった。
 こっそり気配を消して近づく。

「わっ」
「きゃっ!」

 軽く声を上げて背中をつんと押してやると、かわいらしい悲鳴を上げてうろたえた。
 振り向いて俺の顔を見ると、顔色を変えて、神通棍を振り下ろしてきた。

 マジで殺る気だったのか、神通棍の出力は尋常じゃなかった。
 この時期の美神さんであるから鞭状ではないが、放電している。
 よっぽどせっぱ詰まった状態らしい。
 顔も真っ赤で、息も荒いし。

 もう一撃食らうのも何だから、ハンズオブグローリーで受け止める。
 途端、バンと音を立てて神通棍が『破裂』した。
 そりゃあもう、折れるとか砕けるとかじゃなくて、一瞬にして細かい木片と鉄屑になってしまった。

「なっ、なああぅ!」

 とってもビックリしたんだろう、美神さんは跡形もなく崩れた神通棍を呆然と見つめている。
 というか、俺もビックリした。
 圧倒的に出力に差があると神通棍ってこんな風に消し飛ぶんだ。
 流石の俺も知らなかった。

「せ、せいれい……」

 精霊石のネックレスを投げようと手を伸ばしたので、その前にネックレスを引きちぎる。

「せ……」

 同じくイヤリングの両方も取り払う。
 とっておきの切り札は、使う前に俺に奪われてしまった。
 流石にお札は持っていないのか、もう既に抵抗する気はないみたいだ。

 あの美神さんが震えて、俺から逃げようとしている。
 生まれてきたばかりの子ヤギみたいに足を震わせて、後退っている。

 「もう辛抱たまらんっ」って飛びかかりそうなところをグッと我慢して、美神さんを部屋の隅まで追いつめた。
 壁に背中を当てた美神さんは横へと移動する。
 けど、すぐに横へも移動できずに、完全に追いつめられてしまった。

「ご、五億……五億よ!? それだけむしり取れればもう十分じゃない!」

 美神さんはン十億の仕事で更に報酬を引き上げたりしてるのに、よく言うな。
 正直なところ、五億なんてはした金なんていらない。
 というよりも、俺が手に入れたいのは美神さんの全てだ。
 美神さんの持つお金全てを手に入れたいんだから、五億なんてそんなもんで引き下がるわけがない。

「十億……まだ開業したばっかでないけど、働いて渡すから……」

 つうかなんでこんなに貞操を大事にしたいんだろうか。
 一回抱かれるくらいならいいじゃんか。
 まあ、一回で済むようなことはしないけど。

 つん、と、下から跳ね上げるように胸を弾いた。

「はぁぁぁぁぁッ」

 美神さんはその場でへなへなと崩れ落ちる。
 あまりにも活発に動くもんだから、文珠の効果が思ったより出てないかと思ったけど、そうでもないらしい。
 腰砕けになって、その場に座り込んでしまった。

「美神さん。
 俺は別にどっかのGSに雇われたわけじゃないし、お金も……。
 まあ欲しいけど、今回はそれを要求しに来たわけでもないんスよ」
「じゃ、じゃあ、何のために来たのよ! わ、私に一体何の恨みがあるっていうの?」
「恨み? そんなもんはありゃしませんよ。今回は美神さんが欲しくて来たんです。
 あと、ついでに雇って貰おうと思って……」
「バカ! 不採用よ不採用! 帰って!」

 俺は美神さんの肩に手を触れた。
 その途端、美神さんは弾けるように手から離れる。
 今まで相当無理してたみたいで、触れるだけでも刺激になっちゃうらしい。

 そろそろ、本当に俺のスタンディングオベーションな息子がヤバイ。
 前置きはそこそこにしておこう。

「きゃっ! さ、触らないで! 触るな、バカ!」

 美神さんが文句を言ってきたが、無視して担ぎあげる。
 結婚式でよくやる『お姫様ダッコ』っていうやつだ。
 美神さんの体はやーらかくて、あったかくて……まさに至高!
 これはあの光が目がくらんで、奴隷生活したっていうのもわかる。

「ひゃっ、やだ、もうやだぁ……」

 美神さんは抱かれると抵抗らしい抵抗はしなかった。
 というか、抵抗すると感じてしまうらしい。
 何が感じるって?
 ウハハ、そりゃあ、アレだよ、アレ。

 俺が文珠に篭めた文字は『淫』
 まあ、見て分かるとおり、美神さんはびんびんにチクビを立てて、性欲にさいなまれている。
 顔は真っ赤で息は荒いし、見ていて辛そうだ。
 俺は、そんな美神さんを助けるために、美神さんを抱いてやらねばならん。

 ここは事務所で、美神さんの自宅じゃないから寝室はない。風呂はあるけど。
 しょーがないから、文珠に『布』『団』とこめて解放すると、何故か俺の部屋にある万年床が出てきた。
 これが俺の初体験する布団ってのはちょっと貧乏臭い気がするが、お似合いっちゃあお似合いなのかも。

「もう、いやぁ……」

 美神さんは素直に転がされた。
 なんか、最後まで頑張って抵抗するかと思っていたけど、案外呆気ない。
 文珠の効果が利きすぎたのかもしれん。
 ちょっと残念な気がしないでもないが、んー、これはこれでまたいい。

 涙目になって俺に許しを扱いてくる、美神さん……。
 五年後の俺は、アホを極めていたからな。
 時間移動してルシオラを助けようと修行ばっかしてて全く周りが見えていなかった。
 シロ、おキヌちゃん、そして美神さんもモーションかけまくってたのに、全然気付いていない。
 美神さんなんて俺の嫉妬を誘おうとして、西条とホテルにまで入ってたのに、それでも知らんぷりだもんなあ。
 まあ、ホテルに入って酒飲んで西条が酔いつぶれて、何にもなかったらしいけど。

 その分、俺はきっちり美神さんのお相手をさせて貰おうか。

 『脱』『衣』の文珠を使って、美神さんはアラレもない姿になった。
 俺も手早くぱぱぱ、と服を脱ぎ、準備万端だ。

「や、やめて……」

 美神さんは『淫』の文珠によって大分気持ちよくなっていたようだ。
 チクビはピンと立ち、大事なところはぐしょぐしょに濡れている。
 事細かに描写したいと思うのだが、俺の貧弱なボキャブラリーじゃうまくできない。
 こう、なんだ、ヌラヌラとてかるような。
 ピンク色のヒダヒダとかが、初々しく見えるような。

 余裕があったら、それでも前戯でもなんでもするんだろうが、残念ながら俺は童貞。
 それも若い童貞。
 前戯なんてものに時間を掛けるくらいなら、一発でも多く出すことを選んじゃうような、性の青い人間さ。

「うおおッ、美神さんッ!」

 猛りに猛って、肉棒を美神さんのアソコに押しつけた。
 が、つるん、と滑って上手く入らない。

「あ、あれ?」

 ぐすぐす泣いている美神さんの肩を掴んで、もう一度チャレンジ。
 つるんと滑って入らない。

 敏感な亀頭がぬるぬるで熱いアソコに当たってそれだけで暴発しそうなのに、上手くいれられない。
 もどかしい。

「ふぁッ……」
「くっ、美神さん……ッ!」

 耐えられませんでした……。
 三度目に失敗したとき、あまりの気持ちよさにどくどくと肉棒が震えて、先端から白濁液が発射されていた。
 美神さんの美しく白い腹にかかって、非常にエロス。

 が……入れる前に発射した、いわばフライングだ。
 初めての若い童貞君にはありがちとは聞いていたが、実際体験してみると大変屈辱的でした。

「いやっ、いやぁ……もういやっ……」

 美神さんに「はん、この早撃ちがッ!」と罵られるかと思ったら、これは意外や意外、嫌がってる。
 というか、なんかこの人、キャラ違う。
 もっと余裕ありまくりだと思ってたんだが……。

「あの、美神さん……ひょっとして、初めて?」
「そうよッ、バカ! 悪いッ!」
「あ、いや、わ、悪いっつーわけじゃないッスけど……意外で」
「っるさいわねッ! い、今まで釣り合う男がいなかったのよ! べ、別に怖いとかそんなんじゃないんだからね!」

 これまた意外でした。
 もしやと思いきや、本当に初めてだったとは。
 となると、美神さんの初物は俺がもらえるとゆーことか!?

 ……燃えてきたッ! 断然、燃えてきたぞッ!

 『知』の文珠を発動させた。
 アカシックレコードだかなんだかよくわからない、情報が溜まっているものに接続して、俺の頭に情報が流れ込んでくる。
 女性器の仕組みやら、角度計算、侵入ポイント、ベクトルの方向。
 すぐさま計算されて、正しい『童貞喪失への道』が開かれる。

「そこだッ!」
「だ、ダメッ! 本当にダメなのッ! 西条さん……」

 ターゲットがロックオンされると美神さんは再び抵抗した。
 腕を突っ張って、俺をはね除けようとする。
 しかもよりによって、西条なんてクソ野郎の名前を言い出し始めた。

「西条なんて、忘れさせてやるッ!」

 美神さんの抵抗なんて無視して、一気に突っ込んだ。
 処女膜とかそういったものなんて一切お構いなしに。

「い、いたぁ……痛ぁい……」

 き、きもち……気持ちいい……。
 信じられない。
 これが女体の中というものか!
 手淫で満足していた自分が恥ずかしくなってきた!

 こう、絶妙な温度だ。
 中がうねうねと蠢いて、亀頭の先に絡みついてきて……。

「うっ……」

 入れただけで出してしまった。
 我ながら情けないほどこらえ性がない。

「もう……やぁ……ママァ、ママ、助けてぇ……」

 美神さんがついにめそめそ泣き始めた。
 それも『ママ』と来た。
 美神さんが実は寂しん棒でマザコンとゆーことは知っていたけど、あの美神さんが、そこいらの小娘のように破瓜の痛みに耐えられなくなって『ママ』と言う とは思わなかった。

 やばい、猛烈にかわいくなってきた。
 今までは美神さんのことを、美人だとかかっこいいとかそんな風にしか見てなかったけど、こういうかわいいという感情も抱けるのか!
 流石は美神さん、スペックが高い!

「み、美神さんッ! ぼかあ、ぼかあもうーッ!」
「んっ!」

 美神さんの唇にむしゃぶりついていた。
 ありったけの唾液を口の中に集めて、舌を使って美神さんに送り込む。
 美神さんは抵抗しようとしていたけど、体を左右に振るとまだあそこが痛むのか、すぐにやめてしまった。
 口を閉じるなんていじましいことをしていたから、脇の下をすすすと指先でさする。

 『淫』の文珠が利いているせいか、体を震わせて……震えるとまたアソコが痛む。
 美神さんは頭がいいから、俺の言わんとしていることを了承して、口を開いた。
 そのすきを狙って舌をねじ込み、唾液を送り、美神さんの口の中を蹂躙する。

 美神さんの口の中はねっとりして、暖かくて、これまた異次元の領域だった。
 歯と歯の間に舌を滑り込ませて、まるで歯磨きをするかのように擦ると、それだけでも気持ちいいのか、美神さんは、んっ、とくぐもった声を出す。
 俺も、なんかこう、舌の先で美神さんの歯形を感じてると思うと、やたら興奮してしまう。

「はぁ……はぁ……みかみさん……」

 口を離すと、美神さんの口からとろとろとどちらのものとも付かない唾液があふれ出した。
 俺の万年床になんともエロい染みが出来てしまう。
 自分の唾液だったら、「うわっ、汚い!」とか思うんだが、何故こんなにも美神さんの唾液だとエロく感じられるのか。
 不思議だ。

 と、アホなコトを考えるのはさておいて。

「んっ、い、痛いッ! う……動かないで……」

 当然のことながら、まだ慣れていないのだから痛いに違いない。
 乱暴にしてしまっているから、傷口に塩を塗られて抉られているようなそんな感じに痛いんだろう。
 俺としては、美神さんにも気持ちよくなってもらいたい。
 無理矢理犯しておいてなんだが、こういうのは二人で気持ちよくなるから素晴らしいんだと思う。

 最初は道具に頼ろうと、俺は文珠を出した。
 もう一個『淫』だ。

「ひゃぅっ!」

 文珠のエフェクト光が美神さんを包むと、様子は一変した。
 痛みや恐怖や多分絶望感によって青ざめていた表情が、一気に赤く染まる。
 多分、血流が盛んになってるんだろう。

 膣の中の様子も一変していた。
 今までも、こう、一挙一動に反応してざわざわと動いていたけど、動きが変わっている。
 食いついて離さないというか、更に奥に引き込もうとしている、というか。
 俺は何も動いていないのに、ぷくぷくと泡を立てて愛液が溢れている。

 結合部からは、最初は血が、段々と血と愛液が混じり合って、白っぽい液体が溢れてきている。

「なっ、何したの……よっ!」
「いや、二人で気持ちよくなろうと思ったんですよ。美神さんだけ痛がってるのは、不公平スから」
「……」

 美神さんはキッと睨み付けてきた。
 逆に冷静さを取り戻してきたのか、俺を射殺さんばかりの鋭い視線だ。

「ぜ、絶対殺してやるわ!
 ちょっとオカルトをかじったぐらいの素人に、プロが負けると思わないで!」

 知識量においては俺はプロと言って相違ないし、アシュタロスの力を持つ俺が人間に負けるわけがない。
 が、憎まれているのは正直本意じゃないし、美神さんを敵にしたまま放置しとくのは色々と危険だ。
 負けることはない……負けることはないと、思ってはいるものの万が一、というケースを忘れることができない。
 美神さんはなんだかんだ言ってすごい人だから、ひょっとしたらアシュタロスの力を持つ俺を圧倒する何かを思いついてしまうかもしれない。
 じゃあ、敵にするんじゃなくて、味方にしてしまおう、か。

 文珠を出して『虜』の文字を篭めた。

「ほら、美神さん、これ、なんだと思います?」

 美神さんは文珠の文字を見て、顔を青ざめさせた。

「これを使うと、美神さんは俺の虜になるんですよ〜。
 いつでもどこでも、俺が命令したら足を開くよーになったり、靴を舐めろって言ったら舐めるだろうし。
 犬と盛れって気まぐれに思いついたら、犬とやるよーになるんですよ〜」

 実際そうなるかどうかは、使ったことがないからわからない。
 が、はったりとしては利くし、効果の大小を問わなきゃ似たようなものになるだろう。
 美神さんの顔色は再び青くなった。

「けど」

 俺は文珠を握り、美神さんから見えないようにしてからそっと文字を変えた。

 『虜』から『幸』へ。

「こんな無粋なもんを使うのもなんだなあ、と思ったりしますし、
 美神さんが自分から俺の物になってくれるっていうんなら、使いませんよ」
「う……」

 美神さんは迷っていたみたいだけど、渋々頷いた。
 手の中の文珠を握りつぶし、粉状にする。
 わからないように『幸』の粉を、美神さんに振りかける。

 『虜』なんてものを使うのは流石に興がなさすぎる。
 とはいえ、結果的には美神さんが俺にメロメロになってほしい。
 けど、こんな強姦してるのにそんな結果に転がるはずがない。
 そこでこの『幸』の文珠を使って、美神さんに幸せをすり込むのだ。

 美神さんの了承も得たことなので、俺はゆっくり腰を引いた。
 すると美神さんは眉を顰めて、抗議してくる。

「ま、まだ痛いの! 動かないでよ!」

 しかし、俺としてはもう十分に美神さんに譲歩したつもりでいる。
 痛いのはしょーがない。
 まあ、なんとかならんわけでもないが、ここは一つ我慢していただこう。
 せめて、気を紛らわすつもりで、手で胸をいじくる。

「はぁ、ぅ……」

 美神さんの胸はやっぱりサイコー。
 しっとりとしたお肉が、手に吸い付いてくるような感触で、ヤバイ。
 ついつい手に力が入り過ぎて、強く揉みしだきすぎてしまう。

「だ、だめぇっ……やぁ……」

 テクニックのテの字もない揉み方だったのに、美神さんは悶えている。
 それもこれも『淫』の文珠のおかげだ。
 エロ雑誌の怪しい通販の胡散臭い広告並に威力がある。

「あっ……やぁぁ……さ、わら、ないで……」

 胸にしゃぶりつきながらも、腰を動かせ続ける。
 浅く遅く、まずは美神さんの中を味わってからだ。

 一番奥の方で細かくこしこししているだけで、美神さんは悶え狂う。
 数分もしないうちに、痛みも消えたようで、湿った声でいやいやを繰り返す。

「だめぇっ……へん、なんでぇっ……こんなに、くぅっ……」
「いいんですよ、美神さん! 俺の『淫』の文珠のせいなんですから。
 美神さんが感じるのも美神さんのせいじゃないんス!」

 感じるのを頑なに拒否しようとしている美神さんの耳元で囁いた。
 美神さんは目をつぶり、歯を食いしばって耐えようとしている。
 負けん気の強い人だから、快楽に流されるのはシャクに障るんだろう。

「ふぁ……もん、じゅ……?」
「そうッスよ、文珠ですよ、文珠。文珠のせいですって」

 微かな反応にたたみかけるように、文珠と言い聞かせる。
 反論の余地も与えずに。

「れ……れも……で、もぅ……ひゃぅっ!」

 胸の頭頂を指で捻り上げた。
 強い刺激によって、黙らせる。

 それをきっかけに、明らかに美神さんの声の質が変わっていった。

「あっ……らめぇ……おく、おく、ついちゃ……だめぇ……やぁっ……」
「奥がいいんスね!」

 押し込めていたものが解放されたのかのように、獣じみた声になってゆく。
 俺もここまで来たら遠慮は無しにした。
 ストロークを長くして、深く速く、腰を打ち付ける。

 美神さんの秘裂は愛液が噴き出すように溢れ、腰を付けるたびにぱちゅぱちゅと音を立てて粘液が弾け飛ぶ。

「ふぁっ……やらっ! らめっ、本当に……ダメに……あぁあああぁぁぁっ!」

 声の変調を見計らって、限界ギリギリまで腰をひき、一気に奥まで突き込んだ。
 全部美神さんの中に埋まり込んで、子宮口を押し上げる。

 美神さんは一際大きな声を上げて、体を大きく反らして痙攣する。
 と、同時に膣が握りつぶさんばかりの強さで収縮した。

「……うっ」

 信じられないような気持ちよさに襲われて、俺は射精していた。
 俺の精液が、膣を満たし、子宮の中へと流れ込んでいく。
 今まで誰にも触れられたことのない美神さんの聖域が、俺の汚い液に満たされていく。

 信じられない快感だった。
 ぞくぞくと背中に寒気が走る。
 今まで誰の物でもなかった美神さんが、俺の物になった。
 そしてこれから、他の誰の手にも渡らずに俺の物になり続ける美神さん。

 イったことのショックで呆然としている美神さんに、優しいキスをした。
 今回は舌をそれほど深く入れず、時間も短くするつもりだった。

 が、美神さんの口から何かが出てきた。
 それはまるで何かの意思があるかのように動いて、俺の口の中に侵入してくる。
 最初はびっくりしたものの、俺はそれを受け入れて、飲み下した。

 アシュタロスのエネルギーの結晶。
 何故、二つもあるのかわからない……が、俺は主神をもしのぐ力を手に入れてしまったのだった。

「……ふぅ……」

 感慨に浸るのは後にしよう。
 今は、美神さんの美しい肢体を隅から隅まで味わおう。




 それから一週間、俺は美神さんとずーっと繋がっていた。
 霊力に満ちあふれている俺の肉体は、全く疲労を感じず、食事も睡眠も必要としない。
 美神さんの方はそうはいかないが、文珠によって頑張って貰った。
 『智』の文珠によって引き出した房中術の知識を使い、繋がっている間霊力を一部共有したりもしたために体をこわすようなこともしていない。

 最初の一日目は、美神さんも心の中で抵抗していた。
 二日目になると、段々従順になり。
 三日目になると、さしたる抵抗はしなくなった。
 四日目になると、俺を求めてくる。
 五日目になると、愛を語ってきて。
 六日目になると、俺無しでは生きていられなくなり。
 七日目になると、文珠を使おうが霊力を供給しようが起きなくなってしまった。
 いや、死んじゃいないが。

 とにかく、もう臭いとかが酷くなりすぎちゃったために、気絶した美神さんを浴室に運んだ。
 まず自分の体を洗って、汗とか汚れを落とした後、ボディソープを右手に塗って美神さんの体を丁寧に手洗いする。
 髪の毛から足の先、爪の間まで懇切丁寧に洗って清めた後、二人でゆっくり浴槽に入った。
 しばらくしていると美神さんも目を覚ました。
 狭い風呂桶の中で、俺が下、美神さんが上の体勢で密着したまま。
 何も言わずに、美神さんは俺に体を任せて、身も心もゆだねてくれた。
 そのままヤっちゃってもよかったけど、流石に美神さんの魂や肉体が耐えきれなさそうだと思って、ただ一緒に風呂に入るだけにした。

 事務所は文珠で綺麗にして、俺は一旦アパートに帰ることにした。
 けど、美神さんはそっと俺の手を掴んで、離れたくない、と言ってきた。
 しょーがないので、一緒に俺のアパートに来て、その日はエッチしないで手を繋いで一緒の布団で眠った。
 何故かエッチのときより、こっちの方がドキドキしてしまった。謎だ。






 それから数日後……。

「このGS美神令子が……極楽に逝かせてあげるわッ!」

 神通棍を振り回し、悪霊をばったばったと斬り伏せる。
 お札を投げると爆発し、数匹の悪霊がまとめて消し去られる。

 うーむ、俺に従順な美神さんもかわいいが、こうやって除霊している美神さんもカッコよくて素敵だ。
 こう、なんというか、エッチのときとは違うとゆーか……新鮮だ。

「美神さーんッ! ええやろ!? ねえ、ええやろ!?」
「えぇい、うるさい、邪魔ッ! この横島ッ!」

 ついつい煩悩のタガが外れて、美神さんに飛びかかってしまう。
 たちまちエルボーで撃墜されて、地面に落ちる。
 ……いや、痛くないんだけどね。
 こちとら霊力が溢れに溢れてるから筋力とかそーゆーのがアホみたいに高めることできるから。

「これでっ、最後よ! 吸引ッ!」

 美神さんが結構高価な吸引札を掲げると、有象無象の雑霊共が札に吸い込まれていく。
 今日の仕事はもう終わりだろう。

「ふぅー、一丁あがりっと」

 ジッポーライターで吸い込んだ後の札に火を付ける。
 瞬く間に札が燃えて、灰になる。

「ぼろいぼろい。半日で一億かー。じゃ、横島君、帰るわよ」
「へーい」

 俺は除霊道具一式が詰められた巨大な荷物を持ち上げて、美神さんの後を追った。
 第三者から見れば、美神さんに雇われているただの荷物持ちみたいに俺は見えるだろう。
 ま、アシュタロスの力と未来の俺から貰った技能や経験を駆使すれば、美神さんなんて目じゃないんだが……。
 普段はこう、頼られるより、顎で使われている方が俺にあっているというか、なんというか。

 この自分でもよくわからない感情に、何十回目くらいになる思考を繰り返す。
 途中、美神さんは人目が無くなると不意に振り返ってきた。
 ンフフ、と笑うと俺の横にくっつき、頭を俺の肩に乗せてくる。

「今日も儲けた儲けた……どっかで食べていきましょーよ、横島クン」

 そういうと美神さんは俺の腕をとってグイグイ引っ張っていった。
 美神さんの愛車のコブラに付くと、美神さんは俺のほっぺに軽くキスをして、車を走らせた。











 ……美神さんはとってもナイスバディでいい女性だ。
 俺にはもったいない、と思えるほどのいい女だ。
 が、しかぁし! 折角何でもできる力を得たんだ。
 美神さんだけで満足してしまうほど、俺の器も煩悩も小さくはない。
 美神さんも美神さんを忘れなければ浮気はそれなりに許すって言ってるし、というかベッドの上で言わせたし。
 他の美女達も俺のモンにせなあかん、と思うわけだ。

 一国の王でさえうらやむようなハーレムを作っちゃるぞ、俺は!