第2話 小竜姫


 アシュタロスのエネルギーの結晶を二つ。
 未来の俺の知識や経験。

 そんないきなりバカみたいな力を手に入れてしまった俺は、まず美神さんを手に入れることに成功した。
 が、それで満足するわけがなく、もうすでに新たなターゲットを見定めている。

「じゃ、美神さん、寂しくなるッスけど、今日はこれで……」

 毎日毎日ベタベタしていたために、たった二日会わないというだけで寂しく感じてしまう。
 美神さんもそれは同じようで、二日間試験のためにバイトできない、と言ったために、今はそっぽ向いてしまっている。
 本当なら、キスなりなんなりして機嫌を直して貰おうかと思ったんだけど、試験云々は嘘だからちょっと引け目を感じて……。
 学校は一度行ったし、その気になれば『智』の文珠でいくらでも学習できる。
 出席日数だって、パーマンのコピーロボットも真っ青な『分』『身』が行ってくれている。
 ちょっとずるな気もするが、ドッペルゲンガーの暮井先生がOKだったんなら、俺だって問題なかろう。

 じゃあ、美神さんに嘘をついてまでどこに行くのか?
 それは、ちょっと早いけど妙神山に行くつもりだ。
 あそこにいる小竜姫様を、俺のモンにしてしまおう、という魂胆なのだ。
 まだ幽霊のおキヌちゃんとも合流しておらず、時期としては早過ぎるのだが、どうせ時間が空いているのならやっちゃおう、と。

 そんな軽い気持ちで、美神さんに二日間バイトを休むと言ったら、殴られてしまった。
 学校の試験やら留年やら、と用意しといた嘘をついても、火がついたように怒って殴るわ、物を投げつけるわ……。
 泣いたり、喚いたり、逆に俺の機嫌を取ってみたり……。
 「一生私が養ってあげるから」と言ってきたときの美神さんはそらもーかわいかったが、なんとか二日間の休みを貰った。
 それで今、こんなに機嫌が悪いのだ。
 理不尽っつーのはわかるんだけど、こういう風にしたのは俺だし、試験云々が嘘だし、むしろ俺の方が引け目を感じてしまっている。




 まあ、とにかく、その日はアパートに帰り、次の日の朝に妙神山へと目指して出発した。
 文珠を使えば一発であそこまで行けるのだが、神族駐屯地の付近でそんな目立つことをしたら気取られる可能性がある。
 なので、地道に通常の手段で妙神山へやってきた。
 全開は荷物を背負っていたせいで登るのに苦労したみたいだけど、今回は軽装だ。
 落ちることはないし、落ちたところでケガ一つしない自信がある。
 ひょいひょいと山を登り、鬼門の前へと来た。

「何をするか無礼者ーッ!! 我らはこの門を守る鬼、許可無き者、我らをくぐることまかりならん! この『右の鬼門』!」
「そしてこの『左の鬼門』あるかぎり、お主のような未熟者には決してこの門、開きはせん!!」

 とまあ、お約束の口上を述べられたわけで。
 特に感動もなく一通りのパフォーマンスを見終えると……。

「ぐ、ぐぅぅ……に、人間にしてはやりおるな……」
「ろ、六秒……新記録だ……」

 さっさとぶっ倒して、門を開けた。
 俺の記憶によると、鬼門とやり合う前に小竜姫様が来たような気がしたけど、今回はあのときより時期が早いし、何より一人だし。
 妙神山修行場の中に入ると、すぐさま小竜姫様がやってきた。

「あら、お客様?」
「俺は横島忠夫と言います。それにしてもお美しい! いや、とてもお美しい!
 こんな山の中に美女がいるなんて登ってきたかいがあります!!」
「私に無礼を働くと……仏罰が下りますので注意してくださいねっ!!」

 ぶわーっ、と剣が飛んできた。
 そのまま当たると、ずばーっ、ぶしゅーっ、ぐわーっ、てな感じにならないとおかしくなりそうなので回避する。
 いや、小竜姫ごときの攻撃なんぞ肌で受け止めることなんて余裕なんだが、今、そんな余裕っぷりを見せつけてはいけないのだ。

 にしても、神剣を振るわれるってことをわかっているのについつい飛びかかってしまう俺は……。
 煩悩がないのもアレやけど、ありすぎるのもちょっと考え物だなー。
 ともあれ、すぐさま地面に正座して、頭をぺこぺこ下げる。

「すんまへーん、すんまへーん……条件反射やったんですうッ!」
「……いえ、わかればそれで……ところで、紹介状はお持ちでしょうね?」

 へ? 紹介状?
 ああ、そういや、美神さんも初めて来たときに唐巣神父から紹介状を書いてもらってたっけ。

 ……やばい、用意してなかった……。

「お持ちじゃないのですか?」
「お持ちじゃないのです! しもたぁ〜、ついうっかり忘れて……」
「では、ここは修行を授けるわけには……」

 そんなっ! 美神さんを泣かしてまでここに来たのに、無駄だっちゅうことか!?
 俺が綿密に考えて考えて考えて、徹夜して考えた作戦名『小竜姫様エロエロ堕天計画』もフイになるっちゅうことか!?
 そ、そんなこと許せるかぁーッ!

「そこを曲げて! どうか、どうかお願いしますぅ!」
「ひぁっ!」

 小竜姫様の体にすがりつく。
 ああ、いい香りや……これが俺のものにならんと……俺のものにならんと……そんなん許せるかぁーッ!
 世界中の美女と美少女は全部俺のもんにするんやーッ!
 当然、この細くて高貴な香りのするかわいらしい竜神様も俺のもんなんだーっ!

「あ、ちょっと、どこを触ってるんですか!」

 小竜姫様のエルボーがドタマに命中して、俺は轟沈された。
 いや、例のごとく痛くないし、こんなんで振りほどかれはしないのだが、なんというか体が勝手に反応してしまうとゆーか。
 むしろエルボーかました小竜姫様の方が肘を押さえて、痛がっている。

「いったぁ〜……と、とにかく、駄目なものは駄目なんです!
 力の無いものがここで修行をしたら、死んでしまうだけですから。
 力のある人が認可を出した紹介状が無ければ受けさせることはできません!」
「そないなこと言われても、これで全く何もありませんでした、って言われたら美神さんに殺されてまうっ!
 このとーりです! 切羽詰まってるんです! 一生のお願いです! 修行を、修行を〜っ!」

 文珠を使えばどーにかなるかもしれないが、一応ここは神様の駐屯地だ。
 神様をどーこうするにはリスクが高すぎる。
 まあ、神族正規軍が現れようが蹴散らしてやるだけなんだが、うっかり殺したりすると厄介だ。
 死んでも文珠をたくさん使えば復活させることが出来るっつっても、流石にそこまで人倫にもとるほど鬼畜じゃない。
 それに、出来るだけ俺に尽くすよーな感じに惚れさせたいしなっ!

「そう言われても……」
「小竜姫様! そやつは確かに力のある人間です!」
「我らをたった六秒で倒しました。いつぞや来て試練を生きて修めた連中よりか早いのです!」
「ここ、妙神山での修行に耐えうる人間であるやも」
「我らに免じて、修行をつけさせてやってください、小竜姫様!」

 意外や意外、あの鬼門達が俺をフォローしてくれた。
 やっぱり正攻法で戦ったからか?
 美神さんなんて超特大のお札で目隠しして、転ばせるようなやり方だったからなあ。

「……あなた達が保証するというのならば、いいでしょう」
「おおぅ、ありがとう! モブキャラの人!」
「誰がモブキャラだッ!」



 とりあえず、心中では鬼門のことを感謝しつつ、修行場に入った。
 相変わらず緊張感の欠けた、銭湯みたいなトコだ。
 それはそれとして、着替えている女の子もいないのに番台を見かけると何故かひきつけられてしまう。
 あの番台には実は特殊な力があるんじゃないか、とか馬鹿なことを考えていると小竜姫様が声をかけてきた。

「当修行場にはいろんなコースがありますけど、どういう修行をしたいんです?」

 えーと、確か美神さんは……。

「なるべく短期間でドーンとパワーアップできるやつでお願いします。
 つーか、明日帰らないと怒った美神さんに口利いてもらえなくなっちゃうので、できれば今日中に終わる内容で……」

 完全無視するくせに、こっちから声をかけずにいると泣き出しちゃうのだ。
 かわいいことこの上ないんだけど、泣き出されると非常に厄介だし。
 普段はちゃんとしてるし、そばにいさえすれば声を掛けなくても機嫌はいいんけど……泣く子と地頭には勝てないとはよく言ったもんだ。

 まあ、今回はそれだけが理由であの修行を受けることにしたわけじゃないんだけど。

「いいでしょう、今日一日で修行を終えて俗界へ帰してさしあげます。
 ただし、強くなってるか死んでいるかのどちらかになりますよ」
「構わないッスよ」
「では……奥へどうぞ」

 はっきり言って死ぬことなんてまずありえない。
 どういう風なのが来るのかわかっているし、息一つ切らせず一瞬で妙神山ごと吹き飛ばすような力があるのだ。
 ストーンサークルと地平線しかない異次元に来て、指示されるがままに法円を踏むと、俺の陰法師が現れた。

「いよっ! こんちまたまたっ! いいお日和でげすなっ!」

 とまあ、わけのわからない冗談みたいな陰法師が出てきた。

 もちろん、わざとだ。
 本物を出したら、小竜姫様に問答無用で斬りかかられる可能性がある。
 法円を小竜姫様にわからないように無効化にしつつ、このしょぼっちい陰法師を出現させているのだ。
 小竜姫様はすっころんであきれていたけど、一度承認してしまったものは取り消せないらしい。

 あの一つ目の岩の巨人を出して、俺の陰法師と戦わせてきた。

「いよっ! たあっ、とうっ!」

 腐っても俺の陰法師だ。
 地面に叩きつけた腕をひょひょいと身軽に飛び乗って、手に持った扇子で目を突き刺した。
 呆気なくゴーなんとかは消滅し、次のマラカスだかカトラスだかよくわからんやつも瞬殺する。

「み、見かけは情けないですけど、中々強いんですね……」

 小竜姫様はまじまじと俺の陰法師を見つめている。
 まあ無理はない。
 こんなしょぼっちいのが実は強いって言われたって、中々信じることはできはしないだろう。
 あの二体を倒しても、あの陰法師の装備は変わらなかった。
 まあ、全体の霊力が膨大で、あの陰法師はそれのほんのちょっぴりを具現化したものだ。
 ここで得られる力だって、全体から見ればほんの少ししかないんだから、しょうがないっちゃあしょうがない。

「最後の相手は私がやります」

 んで、お楽しみはこれから。
 小竜姫様がお相手になってくれるそうだ。

 つうか、反則だよな。
 いくら戦うのが陰法師だっていっても、小竜姫様に正攻法で勝てる人間なんてそうはいないぞ。
 実はイジメかなんかじゃないのか、とか思ってしまう。
 まあ、今の俺は小竜姫様如き何千柱いたとしても、勝つ自信あるんだが。

 小竜姫様は修行場に立つと、変身して剣を構える。
 試合開始の合図と共に斬りかかってくるのを、俺の陰法師はサッと避けた。

「流石ですね……避ける技術においては私よりも高いかもしれません。
 ですが、私には、こういう技もありますから」

 小竜姫様の角が光ると全身が発光し、さきほどとは段違いのスピードでとびかかってくる。

 超加速だ。

 人間の陰法師相手に超加速使うなんてどう見ても大人げないよなあ……と思いながら陰法師に指示を出して攻撃を回避する。
 半歩横に動いて、扇子の先っぽで剣の腹を突く。
 神剣は弾かれて、攻撃の軌道はそらされた。

 お遊びはここらへんにしとくかな。

 小竜姫様が剣を弾かれて、俺の陰法師の姿が見えなくなった瞬間に、陰法師はさっと姿を消した。
 気配を完全に消し、不可視の状態になる。
 小竜姫様ぐらいじゃこうなった俺の陰法師を見つけることは出来ないだろう。

「なっ、ど、どこです!? どこに消えました?」

 慌てふためいてももう遅い。
 陰法師は辺りを見回して、足を止めている小竜姫様の背中に張り付き、すぽっと中に入りこむ。
 小竜姫様がそれに気付く前に、小竜姫様の姿は一瞬にして竜に変化してしまった。

 目の前にいた俺に炎を吐いて、とりあえず暴れまくる小竜姫様。
 特に熱いとも感じずに、機械的に入り口の次元をこじ開けて、外へ出る。
 それからは後はトントン。

 あっという間に妙神山修行場は瓦礫の山になる。
 鬼門はうるさいので文珠で眠らせておいた。
 もう五秒もせずに小竜姫様は門を粉砕して外に出てくるだろう。

「さって、ちょっと本気出すか」

 俺のちゃらんぽらんな陰法師の姿がむくむくと変わっていく。
 紫色の髪の大男。
 筋肉は隆々で、赤いバンダナを付けている。

 アシュタロスだ。
 アシュタロスの力を受け継いだ俺には、中々お似合いの陰法師だろう。
 顔が俺と瓜二つなのは、未来から来て俺と合体した俺の影響か。

 ちょうどそのとき門を粉砕して小竜姫様が外に出てきた。
 何の感慨もなく、俺の陰法師がローリングソバットをかます。
 横顔を蹴っ飛ばされた竜形態の小竜姫様は、壁にぶつかって気絶する。
 すぐさま小竜姫様は竜形態から人間形態に戻った。

「こ……こんな不祥事が天界に知れたら……! 私、私……どうしようっ!?」

 あとはまあ、目覚めた小竜姫様が瓦礫の山と化した修行場を見て、あせるわけだ。
 うひゃひゃ、ここまで計画通りに行くと笑いが止まらんなー。
 文珠で直す代わりに、小竜姫様は俺にその美しい体を献げるのだーッ!

 いやあ、俺ってば鬼畜だなあ。

「あーあ、これが天界に知れたら大変なんだろーなー。
 まず間違いなく小竜姫様は力を封印されて、俗界に追放されちゃうんだろうなー」
「う……うう……」

 頭を抱えておろおろしている小竜姫様の肩を、ぽんと叩く。
 出来るだけ優しい声色で、出来るだけ無垢そうな表情で言う。

「大丈夫ッスよ! こっそり直せばバレないッスよ」
「でも私、建物作る能力なんかないんですものっ!! 直すっていったってどうやって……」
「俺が直してあげますよ」

 小竜姫様はこっちを向いて、泣きやんだ。
 信じられない、といった表情を浮かべている。

 こうなることを知ってて、わざとここに来たって小竜姫様が知ったらどうすんだろうなあ。

「文珠を使えば一発で直ります」

 小竜姫様が俺の胸に飛び込んできた。
 あああ、柔らかい体が密着して……今すぐ理性がぷっつんと切れそうだあああ。

「ありがとうっ、感謝しますううっ!」
「いやあ、それほどでもないです!」

 と……おっとっと、思わず大見得を切ってしまうところだった……。

「修行場を元に戻すのはいいんですが、対価はちゃんと貰いますよ」
「あ、お金ですね! それは大丈夫です。確か蔵に小判があったはずですから」

 なーんも知らんで、のほほんと笑顔を浮かべてる。
 俺も基本的には悪だが、こう無垢な人を騙すことにほんのすこし罪悪感が沸いてきたり……。
 とはいえ、すぐさまそれも煩悩によって押し流されちゃうんだが。

 いやはや、心っていうのはなんとも繊細なもんなんだなあ。

「お金じゃーありませんよ。俺の求める対価は、小竜姫様を一日俺の物にすることです」
「え……?」

 流石に小竜姫様の表情が曇った。
 どうやら、俺の言っていることが理解できるくらいは大人らしい。

「嫌ならいーですけど。
 そんときゃ、小竜姫様は力を封印されて俗界へ……。
 ああ、世間知らずの小竜姫様が俗界になんて降りたら、一体どんな目にあうのやら……」

 おどしをかけているけど、どちらにせよ小竜姫様は俺の物になる予定だ。
 ここで断って、小竜姫様が俗界に降りたら、美神さんの力も借りて徹底的に圧力を掛けまくる。
 働くこともできず、都会の人の冷たさに疲れて、街をうろうろしているところに俺がやってきて保護する。
 あとは、普通の人間程度の力しか持たない小竜姫様なんて、赤子の手を捻るよりか簡単にモノに出来るという寸法だ。
 ただ、俺としては、ここで落ちて欲しくはある。

「えっ、あっ……そ、そんな……」
「よぉーく考えてみてください小竜姫様。
 俺の提案に乗ればたった一日で済むんですよ?
 逆に俺の提案に乗らなければ、毎日されちゃうんですよ!?」
「ええっ!?」
「俺の提案に乗れば、あんなことされるぐらいで済みます。
 逆に提案に乗らなかったら、あんなことやこんなことや、想像するだけで天罰が下りそうなことをされるんですよー!?」
「ええええええっ!? あ、あんなことやこんなことって一体どんなことなんですか!?」

 ガビーンという擬音を背後に出現させてショックを受ける小竜姫様。
 まあ、俺の提案に乗ろうが乗るまいが、あんなことやこんなことをするのは俺だがな!

 しばらく小竜姫様は迷っていたようだが、ゆっくり頭を下げた。
 それを確認すると、文珠に文字を篭めて、瓦礫の山に投げる。
 瞬く間に瓦礫が宙に浮かび、元の修行場に戻っていく。

 あまりの修理の早さに呆気に取られている小竜姫様の肩をポンと叩く。

「と、ゆーわけで、小竜姫様は一日俺のいいなりってゆーことッスね」
「……う……」

 まがりなりにも神様だ。
 嘘はつけない。

 さて、ここまで来てしまったら後は俺のペース。
 小竜姫様をひょいと担ぎ上げると、修行場の中に入る。
 異次元のチャンネルを念波でいじって、椅子と花瓶のある部屋に繋いだ。

「こ、ここは……何故あなたがここのことを!?」

 小竜姫様がいぶかしんできたが、無視して椅子に座り込む。
 文珠の力を補助として、小竜姫様と共に仮想空間へと飛んだ。

 確かに俺は一日、と言った。
 もちろん、地球の『一日』だ。
 俺の作った仮想空間……初めてやる試みだからそれほど長くいられないが、一日を半年くらいに引き延ばすことができる。
 妙神山の『ここ』は、そんな仮想空間を作るのに適した異次元のチャンネルなのだ。

 未来の俺が、文珠を会得したときに猿神が作った仮想空間をベースにしてある。
 一々最初から作るのは面倒だったから、そのまま模させてもらった。

「あ、あなた、何者なのですッ!」

 小竜姫様が俺の腕の中から逃げて剣を抜いた。
 そりゃまあ、普通はそういう反応するわな。

「よくよく考えてみればおかしいはずです。
 あのような情けない陰法師を出しておきながら、私の動きに追いつけたり、暴走した私を倒したり。
 あんなに小さい一つの珠で一瞬にして、破壊された修行場を修復したり……あなたは何者です!」
「何者って言われてもなあ。魔族にでも見えます?」
「……霊波動を感じる限り、あなたは正真正銘の人間なんでしょう。
 が、よく目をこらしてみると通常放つ霊波の量がかなり制限されています……」

 そりゃまあ、隠行の術は未来の俺が必死で習得してたもの。
 強すぎる力を美神さんに知られちゃまずい、ってな。
 役に立ってくれてるから、別にいーんだけど。

 それにしても小竜姫様、約束破るつもりなのかね?
 相手が相手ならそれも辞さないって感じだけど、もっと強い拘束をかけておこうか。
 このままじゃ、自殺をしかねない。

「ふ、ふふ……俺の正体が知りたいですか?
 じゃあ、小竜姫様! 本気で俺と勝負をしましょう!
 気絶するかギブアップするかしたら負け。
 特別サービスとして俺は小竜姫様を殺しにいかないけど小竜姫様は俺を殺しにきてもいいっていうルールです。
 俺が勝ったら、さっきと同じ条件で通常空間の時間で二十四時間経つ間、俺のいいなりになってください。
 小竜姫様が勝ったら、さっきの約束は忘れていいし、あらいざらい俺のことを教えましょう」

 ここでならヒャクメにすら見通せない。
 したがって力を発揮しても、誰にも見られることはないというわけだ。

「いいでしょう……」

 ここまでの好条件を出されたら、小竜姫様も承諾をせざるを得ないようだ。
 いくら相手が怪しくても、神様は人間相手に引くことはない。
 それでなくとも、小竜姫様は猪突猛進タイプだから、与し易い。

「じゃ、誓ってください。
 さっきの口約束よりももっとずっと深いヤツをね。
 GS美神除霊事務所アルバイト、横島忠夫は先の約定を厳守することを誓います」
「妙神山管理人、小竜姫、先の約定を厳守することを誓います」

 ま、これで小竜姫様は絶対に俺のいいなりってことだ。
 自分の名を持ち出した宣誓をしたんだから、強力な言霊が小竜姫様を縛り付けているわけだし。
 そうだな、こんな四字熟語を思い出す『自縄自縛』

 ぱんぱん、と手を叩いた。
 いや、埃はついてねーけど、なんとなくかっこよさげな気がして。

「フッ、戦いはいつも虚しい」

 いつもかどうかは知らないが、今回は虚しかった。

 一瞬で終わったしな。
 恐らく自分が何をされたのかすらも気付かないうちに小竜姫様はやられてしまった。
 今はその場から一歩も動いていない地点で、ぴくぴく震えながら気を失っている。

 やっぱり、神族魔族は人間を過小評価しているんだなあ、と思うよ。
 油断していなかったら、最初の一撃くらいは避けられるように加減してたのにねぇ。
 まあ、俺以外の人間が、本気の小竜姫様と真っ正面に戦おうとしたら、今と同じくらいの早さで首を刎ねられていただろうけど。




 と、いうわけでお風呂だ。
 この俺の作った仮想空間にもちゃんとお風呂は完備してある。
 むしろオリジナルよりもお風呂に関してはちょっと充実している。

 カララとお風呂の戸が開く音がして、小竜姫様が現れる。
 湯煙でよく見えないが、むしろ見えないからこそエロスを感じてしまう。
 お風呂椅子に座っている俺の後ろにそっと立ち、小竜姫様は膝をついた。

「お背中……お流しします……」

 心底嫌そうな声をしているが、誓ってしまったものは誓ってしまったのだからしょうがない。
 最初の約束だったら、神様やめたり舌噛んで死んだりする逃げ道があったけど、宣誓をしたらもうその次元から脱してしまうのだ。
 宣誓が果たされるか、解除されるかまで、神様やめれないし自分から死ぬことも出来ない。
 しかも宣誓の強制力はいくら小竜姫様でも振り切ることが出来ない。

 俺はさっき目を覚ました小竜姫様に、背中を流してくれ、と命令した。
 そして今、小竜姫様はわしわしと石けんを泡立てている。
 どんな方法で、とはまだ指定していない。

「おおっと、小竜姫様、タオルで擦るだなんてお肌が荒れちゃうような洗い方しないでくださいよ」

 咄嗟に振り返って言った。
 小竜姫様はタオルを体に巻いただけの格好で、そこに座っている。
 なんというか、これだけで鼻血モンの光景だ。

 が、しかし、我慢、我慢だ。
 美神さんと一緒にエッチして鍛えたじゃないか。

「こうやって洗ってくださいよ」
「きゃっ!」

 手を伸ばして、小竜姫様のタオルを剥がした。
 湯煙の中で、小竜姫様の肌が露わになる。

 普段はさらしを巻いているのか普段よりも胸が大きく見える。
 どちらかというと小柄な小竜姫様だが、腰は美神さんより細い分だけ、胸は美神さんに負けず劣らず大きく見えるような……。
 いや、それはないな。
 とにかく、白い。
 修行とかしてそうなのに、あざや傷どころか染みもほくろもない。
 完全無欠の白い肌で、申し訳程度に胸の先っぽに小さいピンク色がある。

 小竜姫様が大事な部分を隠そうとしたので、それも抑えた。

「冷たっ!」

 ボディソープを小竜姫様の胸の谷間と腹にかけた。
 なんか、白濁液をぶっかけてるっぽくて非常にエロスを感じる。

「小竜姫様の腹と胸で泡立てて、それで俺の背中を洗ってください」
「……そ、そんなっ!」
「あ、そうそう、『自分で』ですよ『自分で』」

 『自分で』というのがポイントだ。
 普通に言えば、宣誓の強制力によって、嫌でも勝手に体が動くことになる。
 いわば自分の意思でやらないことになるわけだ。
 そこでこの『自分で』
 やらなければならないことは絶対なのだが、自分で体を動かしてやらねばならなくなる。

 小竜姫様に背を向けて、風呂椅子に座る。
 背後で小竜姫様がおろおろと躊躇っているのがわかる。

 体を押しつけて洗うだなんて破廉恥なことはできない、できないけど……やらなければならない。
 こんな葛藤をしている姿が容易に思い浮かぶ。

 なんというか、高ビーでプライドの高い美神さんは「甘えさせたい女性」だ。
 それとは逆に、真面目で潔癖性っぽい小竜姫様は「いじめたい女性」だ
 葛藤させて悩む姿を想像するだけでゾクゾクしてくる。

 やがて、ぴちょっと背中に触れるものがあった。
 最初は先端だけで済まそうとしたのか、けれど先端だけでは洗うことに時間がかかることをすぐに悟ってようだった。
 柔らかいものが、俺の背中に押しつけられて上下している。

「んっ……はぁっ……ん、うんんっ……」

 断続的な声が漏れて聞こえてくる。
 男の肌に胸を押しつけるなんて、小竜姫様の感覚じゃきっと怖気の走る行為なんだろう。
 背中の窪みにチクビが引っかかって、大変よろしゅうございます。

 なんか少し小さい突起物が硬くなってきているような気がするのは、気のせいだけじゃあるまい。

「……お、わりましたぁ……」

 小竜姫様は息も絶え絶えだった。
 正直まだ洗い足りないと思うのだが、まあ、初めてなんだし文句は言うまい。
 もちろん、早く次の段階に行きたい、という気持ちが俺の中にあったから、ということで見逃したのもあるけどな。

「じゃあ次は腕を洗って貰おうかな」
「ま、また……胸で……?」

 恐る恐る小竜姫様は尋ねてきた。
 背中ならまだしも腕はもっと嫌なんだろう。
 顔を横に向ければ、俺からもすぐ見える位置なわけだし。

 ああ、小竜姫様がカワイソウだ。
 腕もやるなんていくらなんでもそんなことしないよね? と怖がっている小竜姫様にもっとすごいことをさせなきゃならないなんて。
 こんな残酷なことを告げなきゃならんなんて……俺は辛い。
 モーレツに辛い。

 ……おっと、顔がにやけてしまった……油断しちゃあかんな。

「流石に胸で洗えなんて言いませんよ」

 ボディソープを手にとって擦って泡立てた。
 俺の言葉に小竜姫様は微かに安堵しているようだった。
 が、すぐにヒッと短い悲鳴を上げ、悲痛な表情を浮かべた。

 泡立てた手を小竜姫様の足と足の間に入れて、秘裂をなぞる。
 冷たい泡にまみれた指が気持ち悪いのか、ぶるぶると足の先から頭まで震えが上がってくる。
 抵抗しないことをいいことに、上から下まで泡を塗りたくる。

 ふと悪戯心を起こして、菊門を指で突いてみた。
 今まで以上に激しく震え、汚いものを見るかのような目をこちらに向かう。
 流石にそこまでやっちゃうのは早急というヤツだろう。
 美神さんにだって数えるくらいしかやってない上、開発途中なんだしな。
 まあ、小竜姫様の方がタフだろうから、慣れるのは早そうだけど。

 掘られるのかとビクビク脅えていた小竜姫様から手を離す。
 なんかホッと胸をなで下ろしている。
 そんな安心してる場合じゃないんだけどね。

「じゃ、そこで腕を洗ってください」
「……え?」

 きょとん、としていた。
 何を言ってるんだ、この人は、と思っているんだろう。

「腕に跨って、洗ってください」

 より具体的な説明をしてやったら、もっともっと慌てた。
 顔が真っ青になっている。

「嘘……ですよね?」

 思いっきり笑ってやった。

「嘘って、何の話です? あ、そうそう、わかってるでしょうけど『自分で』ですよ、『自分で』」

 小竜姫様はガタガタ震え始める。
 きっと考えることすら出来ない行為だったんだろう。
 憐れっぽく俺の顔を見つめてくる。

 どうやら心が折れたらしい。

「い、いやぁ……許して……許してください……」

 許すもなにも小竜姫様は何も悪いことしてないよね。
 悪いのは俺だ。

「私に、そんなことさせないでください……いやぁ……」

 俺は腕を横に伸ばした。
 小竜姫様が引け腰で俺の腕に近づいていく。
 半泣きで俺に許しを乞いてくるけれど、華麗に無視。

 小竜姫様は片足を上げて、俺の腕に跨った。
 石けんでぬるぬるした股間で、そのままゆっくり擦り上げていく。

「涙はながさないでください」

 泣くな、とはいわないのがポイント。
 こういえば、半泣きで瞳に涙を溜めた状態を維持せざるをえない。

 ぷにぷにしていて気持ちいい感触を感じながら、暇だったのでいくつか質問をしてみる。

「小竜姫様、竜神にも処女・非処女という概念はあるんですか? 答えてください」
「ひっ……あっ……あ、ありま……ひゃぅ……ありま……す……」

 肘の硬いところを往復するたびに、小竜姫様は声をあげる。

「じゃ、小竜姫様は処女? それとも非処女?」
「ひ、ひどい……そんなこと……聞くなんて……」

 ああ、答えろと言うのを忘れていた。

「答えてください」
「しょ……じょ……です」
「そうかあ、今、俺は処女のオマンコで腕を洗われてるのかー、いやー、そりゃまた……」
「あ、あなたがやれって言ったんじゃないですか!」

 小竜姫様はきっと俺を睨み付けてきた。
 俺がやれ、って言ったんだけどな。
 その通りだし、否定はしない。

「じゃ、次は指を洗ってください。一本一本ね、まずは親指から」

 そういうと、親指だけ立たせた状態にする。
 小竜姫様は下唇を噛んで、我慢しながら俺の指に股間をすりつけ始める。

 非常にいじらしいので、ちょっと指を動かしてみたり。
 小竜姫様はその度に悲鳴なんて上げたりして……。
 抗議してくるのも無視して、数回からかった。

 その後反対側の腕も洗い、前面もとある一箇所を除いて洗い終わった。
 腰に巻いたタオルの中で屹立する、ムスコだ。

「壷洗いも魅力的だけど、手でいいですよ」

 壷洗いって言っても小竜姫様は知らないのか、そっちの反応は薄い。
 手でやれ、と言われただけでも十分ショックだったみたいだけど。

 小竜姫様はもう堪忍した様子で、言われるがままに動く。
 小竜姫様の細くて白い指が、俺の一物をそっと包む。

 添えているだけのぎりぎりな距離で、上下にこすられる。

「う、その、でっぱってるところを沿うように指で……」

 カリのでっぱりの下を、小竜姫様の指が往復して……ちょ、ちょっと限界に近い。
 初めてとは思えない巧みさで、これ以上やられると出してしまいそうだ。
 まあ、一発出したところで、体力の衰えはまるでないけれども、ちょっと気恥ずかしい。


 体の泡をお湯で流し、湯船に浸かる。

 暖かい風呂はいいもんだ。
 美人が上にのっかってるなら、尚更に。

 浴槽のはしにぐでーっと肩を乗せて座っている上に、小竜姫様がいる。
 色っぽいうなじがドアップで見えるし、やーらかい体が上に乗っているってだけでいい気持ちだ。
 逆鱗は文珠によって作り出した薄い膜を貼っているので問題ない。

「小竜姫様、お肌の触れあい会話って知ってますか?」

 なんとなく聞いてみる。
 すると小竜姫様はただでさえ真っ赤にしている顔を更に赤くして、叫ぶように答えた。

「し、知りません! そ、そんなこと……」

 お肌の触れあい会話、知らないのか、小竜姫様……。
 高濃度ミノフスキー粒子散布下では重要なコミュニケーション手段なのに……。

 さわさわと小竜姫様のお腹をさすってみる。
 小竜姫様はひぅっと短い悲鳴を上げて、体をのけぞらした。
 中々面白い。




 それから、お風呂を出てから、二人でそのまま布団に入ってしっぽりと過ごした。
 今、目の前には秘裂から破瓜の血を流している小竜姫様が枕に顔を当てて、嗚咽している。
 初体験を不本意な形でやってしまったこともそうだが、どうやら痛いのも泣いてる理由の一つらしい。
 美神さんとは違い、文珠を使わずに普通の愛撫だけなので、痛いのも当然か。

 いや、前戯が杜撰だったというわけではないぞ。
 美神さん相手に訓練を積んだ舌技と指技でちゃんと解したし、濡らしもした。
 その上で……まあやっぱ処女喪失とゆーのは痛いらしい。
 小竜姫様がそれで泣くっていうのはちょっと意外だったけどな。
 マイ生殖器にこびりついている小竜姫様の血。
 どこぞのマンガや神話だとこの血を飲むと不死になったり、小鳥の言葉が理解できるようになるらしいが……。
 舐めた後に、俺の味がしたので猛烈に後悔した。

 さて、これからが文珠の使い時だ。
 手を下に向けるとざらざらと大量に文珠が落ちる。
 そのうちいくつかを拾い、うつむせの小竜姫様をひっくり返す。
 小竜姫様は俺を見るなり、キッと睨み付けてくる。
 殺したいほど憎んでるっぽい。

 そうっと文珠を持った手を小竜姫様の秘裂に這わせる。
 手の中の文珠に文字を篭めると、それを小竜姫様の中に押し込んだ。

「ひぐっ……」

 当然、そんなものを破瓜直後の膣に入れられれば痛いに決まっている。
 小竜姫様は膝を閉じたので、すぐに命令して、膝を開かせる。
 ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、次々に文珠を膣に入れられる小竜姫様。
 あんまり無理しすぎると流石にかわいそうなので、膣が一杯の状態なのに無理矢理押し込むようなことはやめておいた。

 最後に一つだけ『栓』の文字の文珠を膣口で発動させる。

「さて、小竜姫様。ちょっと昔に読んだマンガの真似をこれからしたいと思います」

 『来る』という恐怖がなんとかかんとかだったな。

「今、小竜姫様のお腹の中に入れた文珠は『淫』の文珠です。
 これが発動すれば、気持ちよくなるんですよ。
 でも、それは一個二個のレベルで、普通はそれ以上使いません。
 えーと、なんだっけな、美神さんが前にちょっと言っていたような言葉なんですけど、どこぞの偉い人の格言かなんかで、
 『快楽とは苦痛を薄めたものである』なんだとか。
 じゃあ、まあ、濃い快楽は苦痛なんじゃないかなー、と」

 ぴし、と指を弾く。
 それと同時に小竜姫様はぴくんと跳ねた。
 流石は神族、美神さんなんかよりレジストが高い。

「五秒間に一回、俺は指を鳴らします。鳴らすたびに文珠が一つ発動します」

 口には出さず心の中で五秒数えると、ぴし、と指を弾く。
 小竜姫様は同じタイミングでぴくりとお腹を動かす。

「えーっと、なんかこういうややこしいやり方をしているのはですね……。
 なんらかの条件を満たしたら、俺は指を弾かないというゲームみたいなのをしよう」

 ぴしと指を弾く。
 そろそろ小竜姫様も余裕が無くなってきている。
 表情が辛そうだ。
 気持ちいいのに耐えてるんだろう。

「……と、思っているわけじゃないんですよ。
 カブトムシって、よく糸をくくりつけて遊ぶじゃないですか。
 別に糸を付けていること自体には意味ないんですけど、なんとなく、楽しいと言いますか」
「……ぁっ! うぁ……」

 小竜姫様は声を漏らしている口を手で塞ぐ。

「カブトムシが『自由になりたい』と思っているかどうかはわかりませんけど、
 逃げようと頑張っても、結局は糸を引っ張られてしまう、っていうね。
 んー、表現が難しいんですが」
「……あっ、あぁぁぁッ!」

 イったな。
 お腹が、叩いた後の太鼓みたいにぶるぶると震えている。

 五個……思ったより早かったな。
 竜神だから、もうちょっと抵抗できると思ったんだけど。
 まあ、美神さん用とは比べものにならない霊力の量が多い文珠だからしょうがないのかもしれんけど。

「イこうがイきまいが、五秒間に一回ですよ」
「ひぃっッ! あっ、うあッ! あひっ!」

 もう一回イった。
 まさかやらないと思って油断していたんだろう。

「も、もう……やだ……」

 指を弾いても、反応しなかった。
 六個しか入れてなかったみたいだ。
 いつ終わるのか、俺も分からない方が面白そうだったから数えなかったけど、ちょっと早かったな。

 一応念のために二文字篭められて、何回か使える、俺命名『二字熟語文珠』に『正』『気』と篭めて使用した。
 神様だからそう易々と精神が壊れたりはしないだろうけど、念のためだ。
 涎を垂らして、惚ける小竜姫様の頬にそっとキスをする。
 小竜姫様は嫌がる気配もなく、呆然と俺を見ている。

 やっと終わった、という安堵感に気を抜いているんだろう。

「よく頑張りましたね、小竜姫様。お疲れ様ッス」

 体を引き、小竜姫様の膣を塞ぐ栓を引き抜いた。
 どっと愛液が溢れて、布団を汚す。

「じゃあ、ま、第2ラウンドに行きますか」

 俺を見る小竜姫様の瞳が、キュッと細くなる。
 と、その次の瞬間、瞳孔が大きく開かれた。

「へ? ま、まさか、まだ!?」
「あったり前じゃないッスか、今のは準備運動ッスよ準備運動」

 さっきよりもかなり膣はほぐされている。
 もう痛くもないだろうし……もっともっと入りそうだ。





「もう、もうやめてぇ……ッ、ひぐぅッ……。
 しんじゃ……本当にしんじゃいます……あなたに人の心があ……あっぅあッ……。
 なんでも、言うこと聞きますから……ひゃっ、あっ……」

 小竜姫様は俺にすがっている。
 腰が砕けているために、上半身を俺の体に寄りかからせて、ずり落ちないように抱きついている。

 文珠の補充は、一回やるごとに小竜姫様のお腹の中におさめられる文珠の数を増えていった。
 最初の方が膣だけだったが、今では菊門にもねじ込んでいる。
 むしろ、直腸にひしめいている文珠の数の方が多い。

「い……一体、何が目的なんですか? デタント反対派なのですか? 何故……何故、人なのに……」

 これで七回目くらいかな。
 もう文珠がなくなったみたいだ。
 そろそろいいかな。

「小竜姫様、もうやめてほしいッスか?」
「は、はぃ……もう、もう、指を弾くのは……」
「いやね。小竜姫様の穴に何かが詰まっていて、文珠がいれられないんなら、止めることができるんですがね」

 小竜姫様は息も絶え絶えで俺の顔を見てくる。
 何が言いたいのかいまいちわからないみたいだ。

「どういう……ことですか?」
「これッスよ!」

 どーんと、俺は伝家の宝刀を取り出した。
 その気になれば臍まで反り返る、どちらかというと左曲がりの憎いヤツだ。
 美神さんと小竜姫様の処女を頂いちゃった、ミスター・リーサルウエポン。

「これを詰めればもう文珠はいれられない、と」

 小竜姫様はまじまじと俺のモノを眺めている。
 葛藤しているんだろう。
 答え出すまで待つのは面倒だ。

「五秒のうちに決めて下さい。ご、よん、さん」
「わ、わかりました!」
「じゃあ、おねだりして下さい」

 小竜姫様に『おねだり』の言葉を耳元で教えてあげる。
 顔を赤らめて、いやいや、と俺の方を上目遣いで訴えてきたので、文珠を一つねじ込んでやったら震えながら口を開いた。
 切れ切れの台詞を、小竜姫様は言っていく。

「しょ、しょうりゅうきの……し、しまりのない、お、お、おマンコに……。
 横島さんの、ま、ますらおをぶちこんで……下さい」

 益荒男って、小竜姫様っぽい感じがしたんだが、実際言わせてみると思わず笑っちゃいそうになった。
 ともあれ、小竜姫様を布団に転がして、俺は要望通りその上に覆い被さるようになる。

 照準を合わせて、入り口に添える。

「あ、あ、まだ中に……」

 さっき小竜姫様の中に入れた文珠が一つ残っているにもかかわらず、俺は突いた。
 文珠が巻き込まれた状態で奥に突き込んだために、肉棒の先に硬いものがあるのがわかる。
 たまったものじゃないのが、小竜姫様だ。

「ひっ……あっ……ご、ゴリッて、中で……」

 わざとぐいぐいと文珠を突くと、小竜姫様はそれにあわせて声を上げる。
 ソレが面白かったもんだから、文珠を取り出さずに腰を振った。

 涙に鼻水によだれ……色んな体液によって汚れた顔が歪む。
 凛々しい小竜姫様が、気高い小竜姫様が、強い小竜姫様が、俺の下に組み敷かれて、悶えている。
 黒い征服欲が内々から吹き出てきて、信じられない愉悦に浸る。

 ただ性欲が満たされるだけではない。
 性欲というものがほんのちっぽけに感じてしまうほどの、何かがわき上がってくる。

「ふぁっ……あっ、はげし……しん……じゃぅ……」

 死ぬことを恐怖しない武人が、俺に恐怖している。
 それがほんのちょっとの充足感と、膨大な欲望を引き出した。

 やがて射精が近くに感じられてきた。
 俺にとって射精はもはや、生殖欲を満たすだけではないものになっている。
 気高かったり、強い、清潔なものを、貶め、挫き、穢す喜びを満たすものになっていた。

 射精する寸前に、生殖器の先にあった文珠の文字を変えた。

 『淫』から『増』へ。

「あ、あつ、あつ……あつぃぃッ! お腹が、お腹がぁぁぁ……」

 射精された精子の量が、『増』えた。
 肉棒を引き抜いた後の膣から、まるで噴水のように溢れている。
 子宮は一瞬で精液に満たされて、ぽっこりとお腹が膨らんでいる。

 小竜姫様は余程ショックだったのか、気絶している。
 俺はそんな小竜姫様を見て、なんだかとても愛おしく思った。





 三ヶ月。
 それがここにいられる期間だ。
 それを過ぎると、流石にこの空間を維持できない。
 未来の俺は、様々な術に長けていたが、仮想空間を作り出す術は知らなかった。
 なので、ここは、膨大な力で無理矢理作っているものなのだ。
 当然、猿神が作るようなものより遙かに性能は劣っている。

 あのときは猿神が作り出した仮想空間で二ヶ月間を過ごしても、ほんの数秒しか現実時間は経っていなかった。
 俺が作り出したこの空間で三ヶ月過ごせば、現実時間では二十四時間に近い時間が経っているだろう。
 あんまり遅くなりすぎると、美神さんに拗ねられるから、ここで小竜姫様といちゃつけるのは三ヶ月までってことだ。




 十日が過ぎた。

「お尻は、お尻は勘弁してください。
 お、おマンコなら、何度使ってもいいですから……お尻だけは許して下さい……」

 俺の予想通り、小竜姫様はお尻の才能もあった。
 美神さんよりもかなり早い段階で慣れて、感度も高い。
 美神さんとは比べものにならないほど、お尻を犯されることに対する禁忌感が強いので、ついつい開発に力が入ってしまうし。

 四つんばいの格好で拘束されている小竜姫様。
 恐怖九割、期待一割ぐらいの割合でふるふる震わせているお尻をむんずとつかむ。

「や、やぁぁ……」

 両方のお尻を掴んで、ゆっくりと開く。
 秘めやかな菊門が白日の下にさらされて、小竜姫様は顔を伏せた。
 綺麗な色で、ひくひくと蠢くその穴に、細くすぼめた舌を入れる。

 きゅっとしめられた括約筋が舌を締め付けてくるのを無視して、小竜姫様のお腹の中を味わった。
 とろりと蜜が秘裂からあふれ出てくる。
 なんだかんだ言って、お尻を弄られる方が早く前をびしょびしょに濡らしてしまうのだ。

 指と舌でほぐし、ゆるゆるにしたお尻の穴に、そっと肉棒を添える。
 小竜姫様はもう覚悟を決めたのか、顔を枕に沈めて、がたがたと震えている。

 ぐっと押し込むと、小竜姫様の体が跳ねた。
 度重なる肛門調教の結果によって、十分時間をかけてほぐされた後であれば、いれられただけで達してしまうようになっていたのだ。

 ずっずと肉棒が出たり入ったりするたびに、肛門がめくり上がり、巻き込まれる。
 小竜姫様は枕に顔を埋めたまま、何も言わない。
 そうしているとペナルティを受けているのに、それでもなお、お尻で嬌声を上げることを拒否しているのだ。

 お尻の穴を味わっている最中だけど、そこいらに転がっている文珠をいくつか拾い、今の小竜姫様には『残酷極まりない』文字達を篭めていく。




 一ヶ月が過ぎた。

 あぐらを組んで座る俺の腰に、小竜姫様の顔が埋まっている。

「フェラチオ上手くなりましたねえ、小竜姫様」

 小竜姫様は俺の生殖器を口に含んで奉仕していた。
 いやあ、ここまで仕込むのにはとても苦労した。
 最初の方はのたくるミミズ以下の舌使いも、今ではちゃんと男心を掴むいい感じになってきている。

 一瞬でも休んだら、死ぬ、とばかりに小竜姫様は尽くしてくれているし。

「歯を当てちゃったり、最初は下手くそだったのに、かなりの上達速度ですよ。
 やっぱり、お仕置きされるのが嫌だったのかな?」

 お仕置き、っていう単語に反応して、小竜姫様は舌を動かす速度を速めた。
 早けりゃいいってもんじゃないんだけどなあ。
 普通ならそれでお仕置きなんだけど、今回は必死さに免じて許してあげよう。

「時に、小竜姫様、どのお仕置きが一番辛かったですか?」

 浣腸なんかすごかったな。
 もう、泣きながら許しをこいてきて大変だった。
 本当は、フェラチオで俺がイったらいいよ、っていう約束だったのに、あんまり必死だったもんで課題を果たしてないのにたらいを渡しちゃったし。

 あとは、お湯を抜いたお風呂に『舐』の文珠で満たして、小竜姫様を放り込んでみたり。
 放置したまま一時間経った後に来たら、なんかすごいことになってたなあ。
 これは流石にヤバすぎたから、一度やっただけで封印したけど。
 あれはすごかった。
 筆舌に尽くしがたい壮絶さだったもんな。

 ちょっと変わったものだと、フェラチオにおける奉仕精神を養うために『男』文珠を使ってみたり。
 まあ、流石に本気で『男』にする趣味はないので、業界用語で言う『フタナリ』というもんにして。
 あとはまあ、二次熟語文珠の『射』『精』で、腎虚寸前まで頑張って貰ったり。
 これも、俺の趣味にちょっと合わなかったから、一度やっただけで封印した。

 まあ、他にも色々やったけど、やった甲斐があったなあ。

「……う、出るよ……」

 小竜姫様は深く飲み込んだ。
 ペニスの先端が喉の奥に触れて、その刺激で射精した。
 あれだけ嫌がって、無理矢理やってもむせ返して吐き出してしまっていた小竜姫様だけど、今では精飲も難なくこなす。
 尿道に残った精液をすすり出すのも忘れない。

 全ての作業が終わると、そのまま下がって、深く頭を下げて、ごちそうさまでした、と言った。




 二ヶ月が経った。

 あぐらをかいて座る俺の上で、小竜姫様が自分から腰を振って受け入れている。
 時折腰に捻りが入り、教え込んだ性技をちゃんとこなしている。

「いやあ、すっかり馴染みましたねぇ」

 体面座位の状態で、俺は小竜姫様に語りかける。

「もう俺専用って感じですよ。
 おマンコの穴も俺のモノの大きさも形も味に合うようになってる感じッス」

 小竜姫様の穴はもう大分慣れてきた。
 最初の頃の固さも抜けて、柔らかく、且つ締め付けはちゃんと残っている。
 なんというか、俺のためにしつらえているかのように、相性がよくなっている。
 ペニスの長さと子宮口までの距離はドンピシャだし、穴の大きさもきつすぎず大きすぎずで留まっている。

「そんなこと……ありません……」

 小竜姫様は下唇を噛んで堪えた。
 軽くイったのだ。

 ここまで攻められて、まだ反抗する意思が残っているのは一種の尊敬すら覚える。
 とはいえ、もう心の八割ぐらいと体は俺の言葉を受け入れており、反抗も薄っぺらいハリボテのようなものではあるが。
 現に今、褒め言葉を投げかけたら、体が反応していた。
 お尻ももう、前ほど嫌がらずに受け入れるし、一度入れてしまえば、乱れに乱れる。

 なんにするにせよ、やめて、何て言葉は一応言うけれども形骸化しており、キスをしてやるとうっとりした表情になって、何もかも受け入れる。

 それに……。

「小竜姫様、そろそろ出しますよ」
「え? だ、駄目ぇ……あ、赤ちゃん、で、できちゃう……」

 中に出す、というと、しきりに赤ちゃんという単語を使い始めた。
 何度も何度も、『避』『妊』の文珠を使用しているから妊娠はありえない、と説明しているのだが、それでもだ。

「赤ちゃんはできませんって……」
「いやぁ……赤ちゃん、赤ちゃん、できちゃう……」

 まだ、俺の言葉が理解できなくなるほど乱れているわけではないのだが、小竜姫様はいやいやしている。
 どちらかというと、自分に言い聞かせているようにも見える。

 ちょっと、試してみよう。

「『避』『妊』の文珠の効果は遮断しましたよ。これなら赤ちゃん出来ますね。
 俺の種は強いし多いッスから、素の状態で注がれたら一発ですよ」
「え……赤ちゃん、出来ちゃうんですか?」
「そうッス、俺と小竜姫様の赤ちゃんができるんですよ」

 小竜姫様は俺の腰に足を回して、がっちりと組み、決して離さまいという姿勢をとった。

「やだぁ……赤ちゃん、やだぁ……」

 赤ちゃんが嫌だったら、俺から逃げようとするはずなのに、小竜姫様はがっちり掴んで離さない。
 言ってることとやってることが著しく違う。
 膣の締め付けも、一段とキツイものになっていく。

「出しますよ……ッ!」
「あ、あああ……ああっ、赤ちゃん……ッッ!」

 射精の瞬間、小竜姫様は強い力で俺を抱きしめて、肩に歯を立てた。
 ちょっと痛かったが、我慢して受け入れる。

 全て出し終わっても、小竜姫様は俺によりかかったまま、ぶつぶつと赤ちゃん云々を呟き続けている。

「ああ、さっきのは嘘ですよ」
「……え?」
「ちゃんと『避』『妊』の文珠は働いています。赤ちゃんは絶対に出来ませんから、安心してください」
「え……そう、なんですか? 赤ちゃん……出来ないんですか?」
「そーです」

 小竜姫様は俺をぎゅっと抱きしめて、めそめそ泣き出した。
 もちろん、嬉しいから泣いている、という風には見えない。
 小竜姫様は、『赤ちゃん出来なくてよかったから』泣いた、と説明していたが、そうは見えない。

 さて、『小竜姫様エロエロ堕天大作戦!!』はいよいよ大詰めか。




 この仮想空間で過ごせる日数が残り三日になった。
 小竜姫様を前に座らせて、これからのお話をする。

「ここの時間であと三日経てば通常空間で一日経つことになりますよ、小竜姫様」
「そう……ですね……」
「色々と酷いことしましたけど、あと三日で解放されるんですよ」

 小竜姫様はあんまり浮かない顔をしていた。
 そりゃそうだろう、本人は隠し通せているみたいだけど、俺にメロメロになっていることはお見通しなのだ。
 ここに至った経緯や、状況が、いまいち小竜姫様が本音を出せなくしている。

「つーことで、後三日、二人で思いっきり楽しみましょう」

 そういうと俺は立ち上がった。
 風呂場に行って、最初に脱いで今まで袖を通していない服を取りに行く。
 その場で俺は自分の服を着る。

「はい、これ、小竜姫様の服」

 『洗』『浄』の文珠で体を清めた小竜姫様に、服を渡し、着るように勧めた。
 今まで衣服を一切身につけることを許していなかったためか、不思議そうに俺と服を見ていたが、しぶしぶと着替え始めた。

「着替え終わりましたけど……」

 全裸の小竜姫様もいいが、こうやってちゃんと服を着ている小竜姫様もとてもいい。
 まあ、大人の女性の仲間入りしているために、以前みたいな清純な感じはちょっと無くなってしまっているが、色っぽさはぐーんと上昇している。
 特に、お尻とか胸とか、大人の色気がむんむんしている。

「今日は、何をするんですか? お尻、ですか? それとも……お、お、お浣腸ですか?
 あ、あの、お浣腸は……嫌ですけど、ようやく我慢できるようになったというか……」
「今日はですね、それよりももっとすごいことをやりますッ!」
「……え?」

 小竜姫様の顔が喜色満面になった。
 もっとも、そのことを指摘しても、本人は否定するだろうけど。

「掃除ですッ!」
「……え?」

 さっきのとは違う「……え?」だった。

「見て下さい、ここの惨状! 俺の精液! 小竜姫様の愛液だらけ。
 一日中ずーっと盛ってばっかだから、異臭はするし、染みになってるし、乱れに乱れてるし。
 台所なんて、ちゃんと道具一式が揃ってるのに一度も使ってないからほこりまみれ!
 風呂は、もう石けんとかシャンプーとかそういうものじゃない、ぬるぬるの何かまみれになってます。
 これを掃除することが今日やることです!」
「あ、あの……そういうことは文珠を使えば……」
「あまーいッ! 甘い、甘いですよ小竜姫様!
 文明の利器に頼りすぎていると人間でも神様でもダメダメのダメになります!
 手で懇切丁寧に掃除することが、今の俺たちには必要なことなんです!」
「は、はあ……」
「というわけで、レッツお掃除!」

 小竜姫様はしぶしぶといった様子だったけど、俺の言葉に従って掃除をしはじめた。

 小竜姫様はずーっと体を酷使しっぱなしだから、時折腰をおさえながら、掃除をし始める。
 俺は元気はつらつ、鼻歌なんぞを歌いながら、掃除をする。

 時刻が昼頃になると、俺は綺麗にし終えた台所で昼飯をこしらえた。
 我ながらいい出来に仕上がった昼飯を食卓に並べ、お風呂のぬるぬると格闘していた小竜姫様を呼ぶ。

「あ……あの、これは?」
「昼飯ッスよ」

 はっきり言って、神族の小竜姫様と、人間でありながら人間という枠をはみ出している俺には食事は必要ない。
 人間の時のくせで腹は減ったりするけど、はっきり言って飲まず食わずでも平気なのだ。
 ここに来てからは、小竜姫様の愛液くらいしか口にしてないのに元気なのはそのおかげ。

「あ、大丈夫ッス、小竜姫様の方は生臭物はいれてませんから」

 そういうと、俺は俺の分の食事をもりもり食い始める。
 俺の方は肉を中心にした、動物性タンパク質が豊富な食事だ。
 貧乏生活が長かった分だけ、肉や魚のあこがれが強く、今でも肉は好物なのだ。
 だから、昼にも結構重い内容のモノを食べられる。

 小竜姫様はおずおずと俺の作った料理を口にした。

「どうです? うまいってほどじゃないだろうけど、食べられるような出来にはなってるでしょ?」
「いえ……おいしいですよ」

 そのまま食事を終えると、再び掃除を始めた。
 晩ご飯も俺が作り、振る舞う。

 夜が更けると、就寝。
 パジャマに着替えて、布団に潜り込み、目をつぶる。
 睡眠も、神族の小竜姫様と、俺には必要ない。
 が、あのまどろみの心地よさは忘れがたい。

 小竜姫様は俺が抱かないことをいぶかしんでいたが、眠るように指示されると俺と一緒に眠りに落ちた。



 二日目も似たような感じだった。
 朝食は俺が作り、午前中はゲーム、昼食は小竜姫様が作り、午後は昼寝とゲーム、夕食は小竜姫様。
 風呂に入って、体は各自自分で洗い、風呂に入って、自分のタイミングで出た。

 三日目も夕食までは二日目と同じだった。

「あ……あの……」

 ずーっともじもじしていた小竜姫様が、箸を置いて俺に聞いた。

「な、なんで私を抱かないんですか? ひょっとして、飽きたんですか?」

 ししゃもを喰う手を止めずに、俺は小竜姫様に答える。

「いや、別に飽きたってわけじゃないですよ。……抱いて欲しいんスか?」
「そ、そういうわけではありません! けど、ケダモノのようなあなたが、何故手を出さないのか……」
「まあ、明日になったらこの仮想空間で過ごすのも終わりですからねえ。
 フツーに過ごす、っていうのもアリなんじゃないかなあ、と、思ったわけです」

 本当は違うけどな。
 それ以降は小竜姫様は何も言わず、もくもくと夕食を平らげた。
 食器を洗い終わると、布団を敷く。

「も、もう寝るんですか?」
「ん。まあね、明日で終わりだからね。早めに休んでおいた方がいいかな」

 布団の上にどっかと座り込んで、小竜姫様も前に座らせる。
 そして、心にもないことを言う。

「いやあ、約束は明日で果たされるってわけですね。
 明日になれば、この仮想空間を解除して、俺は山を降りる。
 小竜姫様は再び妙神山の管理人に戻るわけです。お疲れ様でした」
「……」

 小竜姫様は顔を伏せた。
 そろそろ、かな?

「横島さん……そ、そんなの……酷い、ですよ」
「ん?」
「わ、私に、あんな酷いことをしておいて……何も知らない、って言って、逃げるんですか?」
「別にそーゆーわけじゃないッスよ。お互い、約束による義務は果たしたってことで」

 小竜姫様は目に涙を溜めて、ぶるぶると震えながら睨み付けてきた。
 わざと神経を逆撫でするようなことを言っているのも、一応演技だ。

「逃げてるじゃないですか!」
「逃げてるんでいいですよ、俺は逃げます」
「開き直らないでください!」
「じゃあ、どうしろっちゅーんですか? 責任取れってこと?」
「そうです!」
「文珠、いくつ必要かなぁ……」

 小竜姫様に頬を叩かれた。
 痛くはないけど、心がちょっと痛い。
 計画通りなんだが、どーにも……。

「……横島さん……なんで、なんで……そんないじわるを言うんですか?
 わかってる……わかってるくせに……」

 小竜姫様は泣き始める。
 そっと、小竜姫様の頭を掴むと、ぐっと引き寄せて、顔にキスをした。
 そのまま布団に引きずり込むと、この三ヶ月の間で一番濃厚で一番優しい睦み合いをした。

 翌日、布団の中で目が覚めた。
 昨日の小竜姫様はまさに武の女神、といった感じだった。
 強く激しく俺を求め、か弱く控え目に乱れる。

 一生の思い出に残るような夜だった。

 小竜姫様も目覚めて、布団の中で見つめ合う。
 口づけをして、愛を語うしばしの時間。
 それも終わると、無言で服を着て、仮想空間から通常空間に戻った。

「じゃあ、俺は、これで俗界に帰りますね」
「……」

 小竜姫様は寂しそうな顔を浮かべる。
 本心では、俺にここに留まって欲しいんだろう。
 残念だが、ちょっとそれはできない。
 俗界には美神さんを始めたくさんの美女達が俺を待っているのだから。

 かといって、小竜姫様を俗界に連れて行くのも気が引ける。

「俺としては、小竜姫様は俺のモノになった、って思ってるんですけど、小竜姫様はどう思います?」
「私は……横島さんの、モノに、なりたい、です……私、妙神山の管理人を辞めます」
「ああ、そりゃだめッスよ、小竜姫様。
 昨日も説明したように、ちょっとした事情で小竜姫様にここを辞めてもらうと困るんです」
「ですけど……横島さんと離れるのは……辛いんです」

 アホの子アシュタロス対策のためには小竜姫様を失うことは面倒なことになる。
 まあ、あんなアホが正面から現れても痛くも痒くもないが、月やメドーサイベントが潰れたら、楽しみが減ってしまうのだ。
 美女完全コンプリートを目指す俺にとっては、それはすごく痛い損失だ。

 なので、ちょっと小竜姫様には我慢してもらう。
 ……ただ我慢してもらうのも何だから、置きみやげを残しておくけどね。

「じゃあ、俺と小竜姫様を繋ぐ絆を残していきますよ」

 俺は妙神山に持参した荷物を取り出した。

「下は脱いで下さい」

 小竜姫様は少し顔を赤らめて下を脱いだ。
 剥き出しになった秘裂に、文珠を一つ入れる。
 んっ、と小さく声を上げるが、仮想空間で過ごした三ヶ月は伊達ではない。

 その上から、俺は荷物から取り出した貞操帯を付ける。
 小竜姫様でも破れない強力な封印を施せば、準備は終了。

「な、何をつけたんですか、横島さん」
「貞操帯です」
「ていそうたい? ってなんですか?」
「小竜姫様が俺以外の男とエッチしたりできないようにするための道具です。
 これがさっき言ってた絆ってヤツですよ」
「そ、そんなことしません! 私は、横島さんだけが……」

 小竜姫様はさっと顔を青ざめさせる。
 微かに内股になり、かたかたと震える。

 『疼』の文珠が発動したのだ。
 小竜姫様は現在、下半身が『疼』いてしょうがない状態にある。
 しかもこの文珠は特別製。
 小竜姫様の竜気を吸って効力を発揮し、半永久的に消えはしない。

「な、なんで、どうして……」
「小竜姫様が俺のことを一瞬たりとも忘れないようにっていう願掛けですよ。
 あと、小竜姫様の困ってる顔を見るため、かな」

 小竜姫様は疼く下半身を自分で慰めようとするが、その指を貞操帯が阻む。
 なんとかして外そうと試みるが……外せるようには出来ていない。
 貞操帯を外せるのはもちろん俺だけで、それに気付いた小竜姫様は俺の腕を掴んでくる。

「こ、こんなのあんまりです。
 横島さんにされるなら、なんでもします。
 お浣腸だってされますし、お尻の穴だって、子宮だって献げます!
 でも……でも……これは……耐えられません……横島さんに『されない』ことをされるなんて……」
「大丈夫、今度戻ってきたときに外してあげます」
「こ、今度っていつですか!? 明日ですか? 明後日ですか!?」
「一ヶ月後くらいですかね、いや、二ヶ月……まあ、それほど長くはありませんよ」
「長いですッ!」
「あ、そうそう、また来るときは美神さんとゆー人とおキヌちゃんという幽霊の子が一緒に来るんですけど、
 二人には俺が以前ここに来たことは内緒にしといてくださいね。
 じゃ、俺はこれで……」

 帰ろうとする俺に、小竜姫様がすがってきた。
 いやいや、と首を振り、必死に俺のズボンの端を掴んで引き留めようとしている。
 罪悪感がものすごくするが、同時にその様子がすごくいじらしくて、胸がドキドキしてしまう。

「よ、横島さん……い、いかないでぇ……なんでもしますから、なんでも……」

 これが中々しつこい。
 流石の俺も小竜姫様を足蹴にすることはできない。
 思ったよりも、だいぶ抵抗が激しい。
 ここままじゃ、いつまで経っても帰れない。

「わ、わかりましたよ、小竜姫様!
 じゃ、一ヶ月! 一ヶ月したら絶対にここへ来ます。
 そして、そのときに、小竜姫様を俗界に連れて行きますよ」
「ぞ、俗界……?」
「そうです、それで俺と一緒に暮らすんです。俺も小竜姫様も不死身ですから、永遠に同じ時を過ごせるんですよ」
「えいえんに……おなじときを……」
「ですから、一ヶ月待っていて下さい」
「一ヶ月……」

 計算外だったのは、俺も小竜姫様も互いに情をより深く持ってしまったことだった。
 このままじゃメドーサイベント他が消滅する恐れがあるが、こんないじましい竜神様をもっと早く手に入れたくなってしまったのだ。
 それでも一ヶ月置くのは、まあ、意地だ。
 美神さんのパワーアップも経験しなきゃならないだろうし。

「わかりました……けど、ぎゅーっと抱きしめて下さい」
「いいッスよ」

 ぎゅーっと抱きしめる。
 小竜姫様の、何度嗅いでも素晴らしい匂いが鼻腔を刺激する。

 小竜姫様もぎゅーっと抱きしめ返してきて、とてもいい感じ。
 お互いにお互いのぬくもりを味わい尽くすと、名残惜しいけど、小竜姫様から離れた。

 小竜姫様はにこりと笑うと、目尻に大粒の涙を浮かばせながら言う。

「えへへ……横島さんから……勇気貰いましたから、一ヶ月、待ちます……」

 鼻の中がツンと来てしまった。
 涙を見せるのは恥ずかしいから、小竜姫様には顔を見せない。
 なんかこう、こんなええ子を好き勝手にいじめてしまった自分がちょっと恥ずかしい。
 だけど、いじめなきゃ、こんなええ子だとゆーことはわからなかったんだろうし、ちょっと複雑な気分。

「横島さん、愛してます」

 愛してます、と来た。
 俺もだ、俺も愛してる。
 ちょっと偏愛だけど。

「じゃ、また一ヶ月後に、会いましょう!」

 名残惜しい気もしたけど、俺は妙神山を降りた。
















 このとき、俺のせいあんな悲しい出来事が起こるとは、そのときの俺には思いもしなかった。



















 ということはなく、一ヶ月後には美神さんともども妙神山を登り、何事もなく小竜姫様をお持ち帰りしたのだった。