第5話 タマモ


 放っておくと死亡してしまいかねない娘は多少強引でも確保しておかなければならない。
 原作のお話が進行しているに任せておくと、
 初期条件の違いから結果が大きく変わってしまうというバタフライ効果が存在している以上、
 下手な手違いが発生して危ない可能性がある。
 何においては優先すべき事項だろう。

 ……ルシオラと思っただろうか?
 いやいや違う。
 ルシオラは確かに未来の俺の記憶では、中途半端な形で現世に残り、
 実質死んでしまったような状態にあった。
 しかし、ルシオラはまだ焦るような相手ではない。
 必要なときに必要なだけ頑張れば十分、死亡フラグは回避することが出来る。
 むしろこっちの方は、あまり早く動きすぎると、逆にややこしい事態になりかねない。
 アシュタロス関連は神族も魔族も、当のアシュタロス陣営も敏感になっている。
 いくら俺でも気取られずにいっぺんにことを進めるのは難しい。

 じゃあ、その「放っておくと死亡してしまいかねない娘」とは誰か?
 それは、今現在ベッドに手足を拘束されているキツネさんだったりする。

 彼女は殺生石から封印を解かれて、しばらく陸上自衛隊に追跡された。
 それでも捕まえられなかったため、オカルトGメンに協力を要請したらしいが、
 タマモの危険性はない、と主張するオカルトGメンは協力を拒否した。
 そこで民間GSである美神さんにお仕事がやってきた、というわけだ。

 しかし、今の美神さんは未来の俺の記憶にある美神さんとは違う。
 実力的には、俺を例外とすれば間違いなくトップだろうが、シェアという面ではトップをエミさんに譲っている。
 下手すると、美神さんが受けるはずだったタマモ駆除の仕事を、このままではエミさんに奪われかねない。
 エミさんは割と美神さんやピートに絡まないとドライな性格をしていそうなので、
 タマモを処置するときは本気でやっちゃうだろうことは予想出来る。
 まあ、そうなったらそうなったでエミさんに手込めにしてもいいんだが、
 業界トップシェアを誇る美神さんを手込めにしたらトップから転落したのだから、
 エミさんだって業界トップから転落するかもしれない。
 なんか色々ごちゃごちゃ考えていても、そんだったらタマモの方をさきにちゃっちゃと保護しちゃえばいいんやないか?
 と結論に達したわけだ。

 そして実行した。

 殺生石の封印を解くためには、小竜姫様の頭から抜き取った知識から、
 古文書を紐解いたり色んな苦労をしたが、まあ、そんなことを語ったってしょうがないから端折らせてもらう。
 とにかく、特につつがなく封印の解除に成功し、
 まだ眠っていたいのに無理矢理起こされたせいで、
 頭がぼーっとしているキツネさんを革袋につっこんでお持ち帰りしたというわけだ。



 白いシーツの上に無数のシミが浮かび、汗やらなんやらの色んな匂いが無数に混じった異臭が鼻を突く。
 そんな中タマモは全裸にさせられて、手足をベッドの端に呪縛ロープで縛られていた。
 定期的に環境を整備しているものの、中々精神的にきついものだろう。

「こ、殺してやるッ! 絶対に殺してやる!」

 タマモがその瞳に俺を映すやいなや、今まで微動だにもしなかった体を激しく揺さぶり、
 犬歯を向きだしにして、俺をにらみつけてきた。
 そりゃそうだろう。
 無理矢理連れてきて、部屋に監禁した人間相手にこの反応は実に正しいと言える。
 ただ、もう数週間も同じ状況なのに、未だこうやって強気に出られるというのは、
 金毛白面九尾の狐の精神力の強さ故か。
 まあ、この強気も二枚組ティッシュの一枚程度しか意味はないんだが。

「そうかそうか、それで、今日はどれにするよ?」

 俺はそういって、三つの文珠を取り出した。
 それぞれ『痛』『淫』それに『愛』という文字が込められている。
 この文珠はタマモの餌だ。
 タマモが拘束されているベッドの下には、霊力吸引の魔法陣を描いている。
 妖怪であるタマモは飢えに強いが、その魔法陣にて消耗を早くさせている。
 一日一回、俺からの霊力供給がないと、死なないようには設定してあるが、相当きついことになる。
 そこで、特殊な措置を施した文珠をかじらせて、そこから霊力を補給させることにしたのだ。

 もちろん、ただで補給してやってはもったいないから、それぞれ意味を持たせてやっている。

 タマモは犬歯で唇を軽く噛んで、俺をきっとにらみつけてきた。
 俺に対して敵意をあらわにしているが、しかしそれは所詮張りぼてにしかすぎない。
 もう既に屈服したものは、野に返されない限り野生動物には戻れないのだ。

 なんてったって俺の『タマモ攻略作戦』
 通称オペレーション『三個そろえば文珠の知恵』が最終局番に達しているのだからな。

「ほれ、今日も三つのうち一つ選べ」

 『痛』か『淫』かそれとも『愛』か。
 一見三択に見えるそれは、実際には二択だったりする。
 『痛』の文珠に持たせた意味は説明するまでもないだろう。
 実際体験したことがないからどうなのかわからないが、タマモは一回でギブアップした。
 次にタマモが選んだのは、俺のもくろみ通り『淫』の文珠だった。
 この文珠も効果は別に説明しなくてもいいだろう。
 だが語るべき点は、『淫』の文珠を選んだ後の俺の態度だった。

 タマモは全身からわき上がる淫欲に負け、何度も何度も俺に懇願した。
 さわってくれ、いや、さわってください、と涙を流して、頼み込んだ。
 しかし俺は冷徹に、ベッドの脇にある椅子に座って、
 全身を真っ赤にしてもだえるタマモはにやついて見ているだけ。
 明日になったらさわってやる、とか、今日は気分が乗らないからやっぱり明日、などと言って、
 指一本タマモの望む愛撫をしてやらなかった。
 手足を拘束されているせいで、火照る自分の体を慰めることは出来ない。
 タマモに許されたあがきは、せいぜい膝を軽くこするくらいだった。

 タマモは『淫』の文珠にも屈服した。
 が、彼女は凄く頑張った方だと思う。
 一日目は『痛』の文珠を選び、二日目、三日目、四日目は『淫』の文珠を選択した。
 五日目になってまた再び『痛』の文珠を戻り、やはりきつかったのか、
 六日目、七日目には『淫』の文珠を手を出し、八日目にしてついに『愛』の文珠を口にした。

 動物のしつけをするには、やっぱり有効なのが飴と鞭だろう。
 『愛』の文珠を選んだらすぐに手足の拘束を外してやった。
 その後、風呂にも入れてやった。
 あんまり不衛生にして病気にさせるとそれはそれで面倒なんで、
 文珠である程度滅菌なりなんなりしていたが、やはり風呂に入れなきゃまずいだろう、と。
 今まで、殺す、死なせる、kill you等の罵声を浴びせてきたタマモが、
 うってかわって、好き好き愛してる横島もうどうにでもして、と鎖骨辺りを甘噛みしてくるのを
 それなりに楽しみながら、全身をくまなく丁寧に洗ってやった。
 長いこと拘束されていたせいで、コリコリになった肩を優しく揉んでやったり、
 腰をマッサージ(性的にではなく本当にマッサージだけを)してやったり、
 初登場時のままの長い髪の毛も懇切丁寧に辛抱強く、綺麗に洗ってやった。
 洗髪においては、美神さんと一緒に風呂に入った経験が生きたのか、我ながらうまくやれたと思う。

 風呂から出た後は、ちゃんと日干しにしたタオルで体を拭いてやり、
 髪の毛は当然のことながら、尻尾もきちんと念入りにブラッシングした。

 身の回りが清潔になったら、今度は腹ごしらえをすべきだろう。
 というわけで、タマモにきちんとした下着をはかせ、服も渡し、外食に出かけた。

 文珠を使って、日本からイギリスへ飛ぶ。
 もちろん、まずいことに定評のあるイギリス料理を食べにいったわけじゃなく、
 イギリスにいる、俺の知る中で一番料理のうまい人を訪ねにいったのだ。

 魔鈴さんだ。
 このころはまだイギリスの方で魔女に関連する学問を学ぶ旁ら、料理の修業をしていた。
 ドクター・カオスから分捕ったあれこれを持参し、熱心なイギリスに留学する高校生を装って魔鈴さんと近づいた。
 わきわきしそうな手を押さえつけ、ボクも魔女学については興味があるんですよー、
 と、純朴さ溢れる青年臭をぷんぷん発しながら、色々と仲を深めたのだ。



 ……が、まだ魔鈴さんには手を出していない。
 もちろん、彼女は俺が判定するに間違いのない美女だ。
 将来的には必ず、俺と同じベッドに愛を紡ぎ合う仲とか、そんな感じにはなる。
 では何故手を出さないか、というと……正直なところ、彼女は少し怖い。
 あのまっすぐとした、何が何でも自分の思ったままに直進するぜオラー、みたいな性格が怖い。
 流石美神さんを天然でマジギレさせる人というか……
 下手に同衾した場合、気がついたら庭付き一戸建て、
 白い家で息子が一人娘が二人、犬が一匹の家族構成が構築されてしまいそうな感じがする。
 まだまだ将来を決めるには俺は早すぎる年だし、本音を言うと、もっと色んな子とエッチしたいので、
 魔鈴さんには手を出さなかった。
 いずれは、魔鈴さんと一緒ににゃんにゃんするだろうが、今のところはぐっと我慢だ。
 今はただこれは俺のモンだ! と魔鈴さんの周りにいる男共にあの手この手で警告しつつ、
 「仲の良いお友達」という関係を築くだけだった。

 これが中々きつかった。
 俺自身が認める煩悩魔神である俺が、魔鈴さんという極上の女性を目に前にして
 何もしない、というのはこの世界の摂理そのものに反しているんじゃないだろうか? と思うくらい辛かった。
 が、そこをグッと我慢して、同じくイギリスにいた西条の彼女をこっそり寝取ることで我慢した。

 西条のヤロー、女性は顔やスタイルじゃない、心さ! HAHAHA! とか言ってそうなくせに、
 相当な面食いだった。
 いくら寝取っても寝取っても、数日後には別の美女を連れて歩いてるし……
 チクショーッ! 片っ端から奪ってるってーのに、何故か全く勝っている気がしないッ!
 男はやっぱ顔か? 顔なんか!?
 なんだかとってもチクショーッ!!!!



 はあはあ……落ち着け、落ち着くんだ。
 大丈夫、西条が連れてる美女を片っ端から奪ってやったおかげで、
 女性関係に極端に緩い、という本性通りの噂と、また同時に短小だという噂まで広まったじゃないか。
 確かにやつの面目はつぶれてたし、やつ自身も悔しがっていた。
 それでいいじゃないか……。


 ふう……それで、だ。話を戻そう。

 魔鈴さんのところへ行き、最高級のお揚げを持参して、
 「これでうまいもの作ってください」と頼み込んだのだ。
 イギリスに来て、日本の味を懐かしんでいるんだな、と魔鈴さんは理解してくれ、
 また何冊かの魔女に関する本をあげた恩もあってか、腕によりをかけて作ってくれた。

 そしてその料理を、タマモと一緒に食した。
 魔鈴さんにはタマモのことを、たまたまイギリスにやってきた従姉妹という設定で理解してください、と頼んだ。
 中世の魔女は魔女狩りのイメージがついているが、本当のところはシャーマニックであり、
 それの復権を目指している魔鈴さんは、それを信じてくれた。
 今の魔鈴さんは悪霊に対しては、徹底的に殲滅するお掃除除霊法を実践しているが、
 無害だったり、人間と共生可能なのに駆逐されかかっている妖怪に対して理解がある。

 つまるところ、オカルトに対しそれなりの見識を持ち、
 ネガティブなイメージを持つ魔女に対して興味を持つ青年が、
 人間にとってさして驚異ではない、少女の姿をした妖怪を身分を偽らせて庇護下に置いていることに対して、
 あることないこと察してくれたのだ。

 別にお揚げを使った料理を魔鈴さんに頼まなくてもよかったのだが、
 やっぱり飴と鞭の両方の差は激しい方がいいだろうし、
 魔鈴さんが持つ俺のイメージもぐんとあがるだろうと思ってやった。
 実際それは成功した。

 タマモは「こんなにおいしいものを食べたのは生まれて初めて!」とはしゃいでいた。
 生まれて初めてなのは当たり前だろう、なんたって転生してから文珠以外で初めて口にしたものなんだからな。
 といっても、魔鈴さんの作ってくれた料理は俺ですら食べたことのない極上のものだったな。

 食事を終えた後は、魔鈴さんにお礼をいって文珠で一瞬のうちに日本に帰国。
 またあのぼろいアパートに戻った。

 ぼろいアパートっていってもそれは飽くまで外見の話であって、中は全く様変わりしている。
 妙神山にて特殊疑似空間の作り方が書かれた巻物をこっそり拝借しておいたので、いくつもの亜空間と連結してある。
 外から普通に見ただけじゃわからないが、
 気が弱い人間が霊視ゴーグルなんかで覗いたりしたら、あまりの混沌さに発狂しかねないレベルだ。
 南緯47度9分、西経126度43分の海底にあって、
 たまに浮上すると心の敏感な人達がいっぱい自殺しはじめちゃう建築物を肉眼で見る、みたいな。
 まあ、慣れれば全然平気なんだがね。
 タマモも最初に連れてきたときには、興奮して鼻をふんふん鳴らしながら部屋の中をうろうろ歩き回っていたが、
 しばらくすると落ち着いて、寝ころんでいた。
 まがまがしいのは外見(といっても霊的にだが)だけで、中はあんな邪悪な場所じゃない。



 また話がそれたのでまた戻そう。
 食事を終えてアパートに戻った俺は、ようやくタマモを抱いた。
 風呂に入って、食事を終えた後のタマモは流石に眠くなったのか、目がとろんとしていたが、
 あんまり引き延ばすのもなんだな、と思って抱いた。

 そのときのことはあまり特筆すべきことない。
 タマモは言うまでもなく処女だったが、今の俺にとって処女なんてさして重要なものじゃない。
 というよりか、俺の抱く女性はみんな処女でしかるべきで、それがフツーなのだ。

 あえて言うならば、タマモが初体験時に最後まで痛がっていたことか。
 よくよく考えてみたら、今までの女性は全員初体験時に俺が色々していた。
 美神さんしかり、小竜姫様しかり、メドー……メドーサは……まあいいか。
 弓さんは残念ながらまだ処女なのでカウントせず、そのほか名前無しキャラが何人か。

 なんでタマモに対しては『淫』の文珠なりなんなりを使わなかったのかは、特に思い入れはない。
 気がついたらそうしてたとしか記憶していない。

 ああ、そうだ。
 一日の選択の三つの文珠で『淫』か『愛』か『痛』かで選ばせてたからか。
 『愛』の文珠を既に与えていたから、もう一個与えるのはルール違反だと認識していたのか。
 夜が終わればタマモも正気に戻る。
 そのとき、ねちねち言われるのもアレかなー、と思ったからか。



 翌日、タマモは目尻に涙を浮かべ、先日よりも三割り増しの罵詈雑言を投げかけてきた。
 死ねとか殺すとかそういった単語から、のど笛噛みちぎってやるとか金○引っこ抜いて殺すとか
 どこで覚えたのかとんとわからないボキャブラリーの増えた悪罵にレベルアップしていた。
 しかし、その朝の文珠の選択は、『痛』でも『淫』でもなく『愛』
 タマモがまず最初に俺に屈服した瞬間だった。

 その日から毎日毎日、タマモに飴を与え続け、
 ついでに社会一般の常識を教え込み、最後に『淫』の文珠を使わない素のセックスを繰り返した。



 今日はそのテストだ。
 俺の見立てでは、今でも口では憎悪に満ち満ちた言葉を投げかけているものの、
 タマモはすっかり俺に参っているはずだ。

 手足を拘束されたタマモの目の前には、いつも通りの三つの文珠がある。
 『痛』『淫』そしておなじみ『愛』だ。
 しかし全ての文珠に細工がしてある。
 これはただの無文字の文珠だ。
 別の文珠を使って、『字が浮かんでいるだけの無文字文珠』にしてある。

 つまるところ、『痛』の文珠を使ったところで痛くもなんともないし、『淫』や『愛』も同じこと。
 そんなことはつゆ知らず、あからさまに俺の視線を気にしながら、タマモは今日も『愛』の文珠を口にした。
 ファミレスのお冷やに入った氷をかみ砕くがごとく、ボリボリと音を立てて文珠が咀嚼される。
 完全に文珠が呑み込まれたことを確認すると、手足の拘束をおもむろに外した。

「横島ぁ」

 タマモは鼻にかかったような甘ったるい声で俺の名前を呼びながら、飛びかかってきた。
 その鋭い犬歯で俺の喉をとらえ、強い力で皮膚ごと肉を食いちぎるような真似はせず、
 鎖骨を軽く舐めたり、肩を甘噛みしたり、すんすんと首筋の臭いをかいでくる。

「今日は、どこに連れてってくれるの?」
「いや、今日はどこにも連れて行かない」

 愛の文珠を選ぶようになってから、タマモを毎日連れ回していた。
 それのせいか、タマモは拘束が解かれたらどこかへ連れて行かれる、と考えていたようだ。
 俺のオペレーション『三個そろえば文珠の知恵』は最終局番に達しているし、
 世間一般の常識というのはあらかた教え終えたので、もはや外出する必要もない。

「今日はずっとここでえっちするんだ」

 若干乱れた感じではあるものの、全体的にふんわりしている髪を軽く撫でながら囁いた。
 ちょっとつっけんどんに「どこにも連れて行かない」と言ったせいか、
 ほんの少し身を縮めて硬直していたタマモだが、俺の囁きに反応して、
 きゃん、とかわいらしい声を上げる。

 タマモの方から顔を寄せ、唇を接触させて、口内に舌を滑らせてくる。
 流石は傾国の美女と呼ばれただけあって、あっという間にこういう手管は習得した。
 覚えが早い、というよりかは、元々習得していた技能を取り戻したのだろう。

 俺の口の中を堪能したのか、タマモは身を引くと、そのままぱたんとベッドの上に倒れ込んだ。
 両手を頬に当て、肘を胸の前辺りに持ってきている。

「横島、好きだよ」

 もはや耳にたこができるほど聞いたフレーズだ。
 しかし、本当にタコが出来たとしても、非常に心地よく思える言葉でもある。
 無邪気、無垢……もっと汚く言えば、子供っぽく、無知なタマモのその言葉は、喉通りのよい甘い乳液のようだ。

「好き、好き。もうどうすればいいのか、わかんないくらい好き」

 タマモがすすっと手を伸ばして、俺の顔を捕まえた。
 俺の瞳に映る自分自身の、更にその瞳に映る俺でも見てるのか、と思えるくらい、
 タマモは俺をまっすぐ見つめてくる。
 何故、彼女がこんなにも俺のことを好いているのか。
 今日は『愛』の文珠を使ってはいない。
 なのに、俺に好意を抱いている。

 それはきっとタマモの種族的な特性もあるんだろう。
 タマモの前世、というか殺生石に封じられる前は、それなりに力のある妖怪であるにもかかわらず、
 時の権力者の庇護を求めている。

 妖狐……それも金毛白面九尾の狐ともあれば、自力で生きることができるだろうに。
 更に言うと、未来の俺が見たタマモは、最初こそ子供っぽかったが、成長するとどちらかというと、
 人を寄せ付けないそういった雰囲気を持っていた。
 それでも尚、人間の庇護を受ける、ということ、つまるところそういった種族なんだろう、と考えられるわけだ。

 タマモと過ごした期間はまだまだ長いとは言えない。
 ただ、その期間の中で、タマモは俺の力をはっきりと自覚しただろう。
 たった数分でユーラシア大陸を飛び越えるほどの術を使ったりして見せたのは、伊達じゃない。
 タマモの本能を刺激して、俺に向くようにしたのだ。

 普段のタマモが俺に対して敵愾心を剥き出しにしているのは、
 俺がタマモを監禁しているからだろう。
 なまじ文珠を見せたせいで、タマモは自分が俺に抱いている関心は文珠で作られたもの、と認識しているのかもしれない。
 空の文珠を食べさせたのは精神的なスイッチの意味がある。

 タマモはぴたぴたと、俺の頬に触れてくる。
 俺という存在が夢でないことを確かめているようで、
 雲霞のように触れても散ってしまわないことを実感すると、えへへ、と実に嬉しそうにほほえむのだ。

 美神さんはおろか小竜姫様と比べても、まだまだお子様だな、と評することのできるボディではあるものの、
 ひょっとしたら色欲を催させる妖気でも発しているのか、と思うほど煩悩をかき立てられる。

 あ、いやいや、小竜姫様は決してスタイルが悪い方じゃないぞ。
 ただ行為の最中に、貧乳、貧乳とからかうと、すぐに泣き出すから、
 楽しくて結構いじめていたせいか、俺の中で小竜姫様が貧乳というイメージが誤ってついてしまっただけだ。

 むに、と頬を引っ張られた。

「今、他の女の人のことを考えてたでしょ」
「いてて……いや、やっぱタマモが一番いいなあ、って思ってただけだって」

 タマモは頬をつねる手を緩めて、はにかみつつも喜んだ。
 圧倒的に経験や知識が少ないせいで、こんな見え見えの嘘も本当だと信じ込んでしまうのだ。
 勘だけは鋭いが、飽くまでそれだけで、簡単なごまかしを見抜けることはできない。

 まあ、嘘を嘘と見抜けるようになるまで俺はのうのうと待っているわけがなく、
 そこまでタマモが成長するまでに身も心も俺に逆らうことができなくなるようにしてしまうんだけどな。

「ん……横島……触って」

 タマモのリクエストに応えて、俺の手をそっと頬に当てる。
 染み皺一つもないなめらかで、もちもちした肌の感触が心地良い。
 指先で軽くこするように動かし、桜色の唇にそっと添える。
 人差し指を、ぬるりと粘液の中に差し込むと、爪が前歯にちょっと当たった。

 タマモは口の中に入り込んできた異物に対して、ほんの少しとまどいの色を見せたが、
 すぐに受け入れて、そっと口を開いた。

 まるで人間の体温とは思えないくらい熱い……
 実際人間ではないせいか、下手するとやけどしそうなほど熱い。
 人差し指と中指で、生き物のように動くタマモの舌をつまんでみたり、
 口の中を軽くこすったりするたびに、タマモは体を震わせる。

「……ん……ふぁ……」

 スイッチが入った状態の妖狐の口の中は、人間のそれよりも遙かに感じやすいんだろうが、
 ただそこだけを刺激されても、物足りなさがあるんだろう。
 よだれが俺の指からみつく音に混じって、切なげな声が耳に届く。
 涙が溢れる一歩手前の状態までに潤んだ瞳で、俺に対し、もっと強い刺激を求めてくる。

 指を引き抜くと、タマモの唾液、略してタマモ液がこぼれ落ちる。
 タマモ液は再びタマモの口の中に落ちていき……それをタマモは、味わうように舌で転がして、
 ゆっくり喉を動かした。

「今日はこれを使うからな」

 そういって『淫』の文珠を取り出す。
 頭から湯気が出そうな状態のせいか、タマモはきょとんと俺の手の上の文珠を見つめていたが、
 すぐに理解できたのか、大きく瞳孔が広がった。

「それ」
「お前も覚えてるだろ?
 指一本触れられないから、
 手錠を自分で手首に食い込ませたその感触だけで何度もイったやつだよ」

 今思い出してもあれは凄い。
 涙だらだら、鼻水ぐちゃぐちゃ、よだれは辺りにまき散らして、
 ただひたすら、俺ですらちょっと引くようなえげつのない猥語を絶叫して許しを乞うタマモはすごくインモラルだった。

 『淫』の文珠は俺の十八番ではあるが、
 美神さんやら弓さんなんかは種族的な関係かタマモほど乱れない。
 というか、美神さんや弓さんはそんなにいじめたくないし。
 小竜姫様なんてのは更に霊的防御力が高いから、大量に使ってもそれほど効力がない。

 まだそれほど力がないせいか、霊的防御力が低く、
 妖狐という種族のタマモは今まで俺の体験したことのない光景を見せてくれた。
 指一本触れずにそんな風になった、ということはじゃあ実際に触れてみたらどうなるのか。
 期待高まり、胸は高鳴るってもんだ。

 タマモの方はわずかに震えている。
 やはりあれはトラウマだったのか、と思って改めてみてみると、なんか瞳がきらきらしていた。

「……素敵……」

 うっとりと文珠を見つめ、自分の指を軽く噛み、大きく喉を鳴らしている。
 この淫売め、と内心思いつつ、苦笑を交えながら、文珠をタマモの唇の上にのせた。

 タマモは器用に丸い文珠をついばむように滑らせ、口の中に文珠を入れると
 あめ玉を舐めるかのように舌で転がし始めた。
 ほっぺたが文珠の形にふくれ、右へ左へ陳腐な手品であるかのように移動しているが、
 やがて、両方から急に消えた。

 その瞬間、タマモの体が微かに跳ねた。
 もともと桃色に染まっていた肌が更に赤くなり、吐く息もしっとりしてきている。
 軽く触れてやるだけで、電気ショックでも受けたかのように身を震わせるタマモ。

 ゆっくりゆっくり、いたぶるかのように、丁寧に丁寧に抱こう。
 全ての細胞に、魂の構成要素一つ一つに、快楽を刻み込んでいこう。

 まだ俺しか知らず、これからも俺しか知らないそこは、
 溶けるように熱く、首にかけられた麻縄のようにきつい。
 体内に侵入した俺の指が、押しつぶされるかのようにしめられる。

 普段であれば牽制ですらない愛撫も、今のタマモにとってはダウン必須のストレートだ。
 たった二本の指だけで、体を大きく仰け反り、よだれを垂らし、獣に相応しい声で吼える。
 撫で、擦り、摘み、かき混ぜる。
 他の動きを織り交ぜない単純な動きだけで、タマモはいとも容易く絶頂を迎える。
 死ぬ、だの、やめて、だの、そんな台詞を吐けるのはまだ快楽に染まりきっていない印。
 ここぞといじめ、いじめ、いじめ抜いて更に新たな境地が開く。

 全身がぐったりとしたら、一端休憩を置く。
 といっても、たったの五秒程度で、しかもそれは俺の方の準備をするためだった。

 全身が自分の汗にまみれ、今にも疲労のせいで死んでしまいそうなタマモにとどめを刺すべく、
 俺はズボンを脱いだ。
 屹立するマイ『ミートスティック 〜明日はホームランだ〜』

 いつぞやのメドーサのときとは違い、なんら変哲のない普通のチンコだ。
 だが、その普通のチンコは持ち主の俺が痛いと感じるほど赤くふくれあがっていた。

 タマモの虚ろな瞳にほんの少し光が戻った。
 といっても、その光は生気からもたらされるものではなく、恐怖からもたらされるものだった。

「ひっ、ぃやっ……む、むりぃ……」

 タマモは呂律の回らない口で抗議した。
 今度は誘い受けという感じではなく、棒にくくりつけられた状態で銃を構えられた人や、
 スターリンに「シベリアでいい仕事があるんだ、木を数えるだけの楽な仕事なんだが、やってみないか?」
 とか言われた人が、心の中で叫ぶような、そんな声だった。

「どうして無理なんだよ、さっきは素敵、っていってたじゃんか」
「こ、ここまですごいって……思ってなかったからぁ……」
「大丈夫、大丈夫だって。
 最初は辛いかもしれないけど、すぐに慣れる」
「だ、だめぇ、む、むりなのぉ……」

 あそこまで俺ラブだったタマモが、俺から、正確には俺のチンコから逃げようとした。
 腰が立たないから、足に力が入らないから、両手で這ってでも離れようとしている。
 そこまで怖いのか、傾国の美女と呼ばれた前世をもつ妖怪ですら、そこまでこの文珠がもたらす快楽に負けるのか。

 俺の心に言いようのない感情が満たされる。
 いや、だが、まだ、まだだ。
 俺が前夜徹夜して考えて考え抜いた、タマモ陵辱ルートの最終ステップにはまだ到達しない。

 とりあえず、無駄なのに逃げようとするタマモを縛り付ける。
 といっても本当に縄を使って縛るわけじゃない。

 タマモがひっと身構えることも気にせず、顔を寄せ、耳元でそっと一言囁いてやる。

「捨てるぞ」

 タマモの動きが目でわかるぐらい変化した。
 逃げようとしていた動作が無くなり、
 俺が映る瞳には一粒の涙が浮かんでいる。
 その涙は、快楽にあえいで出したものではなく、多分、きっと、俺のさっきの一言のせいなのだろう。

 抵抗の無くなったタマモの膝を優しく持ち上げ、かきひらく。
 ふっさぁあとした金色の毛が、蜜にぬれて一層光を反射している。
 陰部はさきほどまでの刺激のせいか、痛々しいほど赤くなり、ひくひくと蠕動している。

 そっと俺の先端を当てる。
 タマモは微かに恐怖に震え……きっと未知なる快楽に対して恐れおののいているのだろう。
 歯の根が会わず、上の歯と下の歯が当たってかちかちと音がなるのを聞きながら、
 タマモを抱きしめて、一気に貫いた。

「ッ!! ッッッ!!!!」

 声を出すことすらできないのか、タマモは無音の絶叫を放った。
 俺の背中に回された手は、皮膚を食い破る勢いで爪が立てられる。

 今まで散々開発してきたおかげで、タマモの中は非常によい案配だった。
 熱く、きつく、ねっとりと締め付けてくるのは言うまでもなく、
 かといって処女のように無節操な堅さもない。
 いや、処女は処女で大好きだけど。

「横島ぁ……横島ぁ……」

 タマモはかすれた声で俺の名前を呼んだ。
 うんうん、こんなときでも頑張ってくれて、かわいいなあ。
 ただ、舌を噛むんじゃないかと少し心配になるけれども。

 中に入れた瞬間に大きくイったらしい。
 今も尚びくびくと膣が細かく痙攣しているんで、本当に大きくイったんだなあ、と思っていたわけだが、
 文珠による感応能力で思考をスキャンしてみたら、どうやら現在進行形でイっているらしい。
 例えば俺の呼吸で体がほんの少し動いたとき、あるいは俺の方が気持ちよくてちょっと引け腰になったとき
 そんな小さな動きのせいで、タマモは小さく何度も頭の中が白くなる体験をしているようだった。

 うっは、なんかすごく面白い体してるなー。
 美神さんやら弓さ……ま、弓さんはあにゃる専門だから別なのは当たり前なんだけど、
 やっぱり人間と比べて違うせいか、新鮮さ溢れる。
 小竜姫様も霊的防御力を下げてから文珠を使えばこんな感じになるのかしらん?
 再会したときに試してみよう。

 なんかもう焦点の結んでいない瞳で、口からよだれだして天井を見ながら俺の名前を呼んでいるタマモは
 どう見ても本能で動いているようにしか見えていないのに、実のところ色々と考えているのも面白かった。

 なんかもう口に出している言葉通り、甘々というかなんというか、
 けものくさい愛情溢れる表現で満たされているところがあれば、
 玉の輿ゲット、いぇー、と右腕で空をアッパーしているようなそんな俗っぽい考えもある。
 大部分が赤ちゃん欲しい、なのは、まあ、別に改めて言うようなことではないな。

 余り激しく動いても、それほど意味がないので、小刻みに動くことを重点に置いた。
 既に十分以上に感じている相手を乱暴に扱ってもそれほどメリットがないからだ。
 俺が物足りないというのはあるにはあるけれども、この新鮮な柔らかい肉を味わっているわけだから。





「ん、そろそろいいかな」

 ぐずぐずと崩れたタマモの体と心をある程度堪能した俺は、
 いよいよクライマックスに至ろうとしていた、射精的な意味ではなくて。

 ゆっくり腰を引いて、タマモの中から脱する。
 抵抗はなかったが、頭の中では寂しいよお、寂しいよお、と泣き出しそうな声が響いてきて、
 ちょっとだけ切なくなったりはした。

 ここで用意しておいたクスコを持ち出す。
 冷たいのもなんだと思ってちゃんと人肌に温めていたやつを、そっとタマモの中に差し入れる。

「にゃ、にゃにするの?」

 舌っ足らずな声でタマモが不安そうに声をかけてきた。
 具体的なことは言わず、ただニッと笑い、こう答えた。

「楽しいこと」

 クスコのネジを回すと、ゆっくりとタマモの膣の奥がつまびらかになる。
 結構な刺激だと思うのだが、タマモはなぜか絶頂していなかった。
 なんでだろうか、ひょっとして文珠の効果が切れたのか、と思ったら、
 横島のじゃなきゃやだよぉ、とか考えていやがった。

 かわいいじゃねーか、こんちくしょー、と抱きしめそうになったが、ここは我慢我慢。

 一つ、二つ三つ、手に文珠を取りだし、それぞれに同じ『淫』の文字を込めていく。
 タマモにそれを見せると、いまいち焦点が結び切れていない瞳がはっきりと驚愕の色にそまった。

「ま、まさか、横島……」

 ここまできたら何をするのかわかったのだろう。
 今度は本気で逃げようとしたが、決断も逃走速度も遅かった。
 ひょいと膝の裏に手を差し入れ、そのまま持ち上げる。
 タマモは尻餅をついた体勢のまま、俺に両足を持ち上げられた。

 いわゆる一般的なまんぐり返しと呼ばれる体勢に持ち込んだ。
 秘部と菊門が天に向いてあらわになるという、なんとも恥ずかしい格好だ。
 俺は予定通り、ほんの少し上から文珠をクスコの中に落とした。

 かん、という鈍い音とともにタマモが跳ねる。
 二つ目、三つ目と落とす。

「ゆ、許して、横島ぁ、無理、無理だよぉ……」

 涙目で哀願するタマモ。
 そんなタマモに安心させるように、言葉を紡ぐ。

「大丈夫、この文珠は特別製でな。
 ある一定以上の圧力がかからないと発動しないんだ」

 逆に言うと圧力がかかると発動する文珠ってことだ。

「だから、お前が膣を締めなきゃ、問題なしってことだ」

 もちろん、問題無しなんてことはありえないがな。
 無理無理、と泣くタマモを必死になだめ、ゆっくりクスコを抜き去る。
 タマモは目をぎゅっと閉じ、ぶるぶると震えながら、耐えた。

 文珠は発動しない。
 まんぐり返しの体勢からゆっくり足をおろしてやり、タマモの上体を起こす。

「さあ、ゆっくり自分で文珠を取り出すんだ。
 刺激しすぎないように……頑張れ、タマモ!」

 俺の言葉に従わざるを得ないタマモは、うん、とつぶやきそっと指を自分の下腹部に迫らせた。
 その白い指が、柔らかい肉に触れるか触れないかのところで、俺はタマモの耳に顔を寄せ、
 ただワンフレーズの魔法の呪文……必殺の一言を囁いた。

「愛してるよ、タマモ」

 文珠は当然のことながら発動した。












「殺す! 殺してやる!」

 タマモは牙を剥きだしにして叫んだ。
 あのすばらしい夜は終わり、太陽がちょうど真ん中に位置するころ、タマモは殺意を露わに俺を睨んでいた。
 いつもの、『三つの文珠の選択をする前のタマモ』だが、拘束はしていないし、
 服を身にまとっている。

「まあまあ、そう目くじらを立てるなよ」

 ちょっと小馬鹿にしたようになだめた後、俺は、俺を殺す殺す言っておきながら睨むことしかしないタマモに提案をする。

「もう、お前はここから出てもいいぞ」

 タマモは俺の言葉を聞き、すぐに理解できなかったのか、きょとんとした表情を浮かべた。
 が、すぐに怒り顔に変化する。

「何を考えている、人間がッ!」
「いやー、ただ、お前の体に飽きちゃってさー。
 もういいかな、と思って。喰わせる文珠ももったいないし」
「え?」

 タマモが泣きそうな表情を浮かべた。
 俺はそれに意地悪く気づかないふりをして、ドアを開けた。

「ほら、今まで一通り一般常識を教えてやったろ。
 お前なら外でもなんとかやってけるだろ」

 そういっても、タマモは動かない。
 あれだけ、出せ出せ言っていたタマモが、すぐ手の届くところに外の世界があるというのに、
 足に根が生えたかのように、足が石に変化したかのように動かない。

「ん? どした? ひょっとしてお前の方が俺の部屋にいたいのか?」
「そ、そんなわけあるかッ! い、今すぐ出て行くわよ」

 言っていることとは反対に、ぎぎぎ、という鈍い音が聞こえてきそうな足取りで、
 一歩一歩踏みしめるように外へと向かうタマモ。
 泣きそうなのに必死に怒りの表情を浮かべようとしているせいで、なんとも滑稽な顔になっているが、
 あえて無視する。

「ほんじゃな。短い間だったけど、それなりに楽しかったぞ」
「わっ、私は最低だったけど……」
「ま、お前にとっちゃそーだろうな。もう戻ってこなくていいぞ」

 タマモは未練たらしく俺の方を見る。
 けれども、俺はタマモの背中を押してまで、アパートの俺の部屋から追い出した。

「ふっ、ふん……ほ、本当に、ほんっとうに最低だったんだから……」

 アパートの廊下を歩きながら、そんなことをぶつぶつつぶやいている。
 俺はそんなタマモの背中を部屋の中から見送り……そして、
 タマモがアパートの階段を半ばまで降りたところを見計らって、アパートのドアを閉めた。

 その直後、アパートの階段を駆け上がる音がしたかと思うと、
 ドアが激しく叩かれた。

「横島ぁ!!! 横島ぁ!!! やだぁあああああ、捨てちゃやだあああああああああ!!!」

 オペレーション『三個そろえば文珠の知恵』がコンプリートされた。
 このままドアを開けて、タマモを受け止めてやってもいいかな、と思ったものの、
 いやいや、このままもうちょっとタマモの泣き声を聞いているのもいいかなあ、と思ったときだった。

 どんどんどん、というドアを叩く音に「めごりっ」という音が混じった。

「横島ぁ!! やだぁ!! 捨てちゃやだぁああ!!」

 全身の血がぐぐとざわめいた間隔に襲われ、気づいたらドアを開いていた。
 同時に飛び込んできたタマモの体を受け止め、すぐさま腕を捻り上げる。

 右手の小指の付け根付近が紫色に腫れ上がっていた。

「こ、こら馬鹿! 自分の手を痛めるぐらいドアを叩くやつがいるか!」

 文珠『癒』を使うと、一瞬で治ったが、しかしそれでも心の奥底から罪悪感がわき上がってくる。
 と、同時にオペレーション『三個そろえば文珠の知恵』の最後の最後でポカをやったことに気がついた。

 しまった、と一瞬思ったものの、タマモは俺の失態には気づいておらず、
 横島、横島ぁ、と昨夜の情事のときのように抱きついてくるタマモを見ると、まあ、これでもいいか、と思えるようになった。

 タマモのふさふさした髪の毛を左手で撫でながら、右手でドアをしめつつ、
 これから昨夜の続きをしようとした。




















 『監禁プリンス』の実績が解除されました。