第4話 弓かおり


 俺こと横島忠夫は、世界最強の人間だ。
 アシュタロスのエネルギー結晶を二個も体内に取り込み、文珠という使いようによっては万能に近い霊能力を持っている。
 未来でこれから何が起こるかなんかも知っているし、おまけに小竜姫様の竜気をちょっと頂いて解析し、それを使えるようにもした。
 威力は劣るけど、水晶観音というちょっと変わった能力だって使えるぜ!
 もはや神族やら魔族の最高指導者なんて束になったって勝てる自信があるねッ!

 これがアシュタロスやら凡百な悪役だったら、ふはははは、世界征服してやるじょー、とでも言うだろうが、俺は違う。
 俺はそんなちっぽけな野望には縁がない。

 俺の望むことはただ、俺好みのハーレムを作ることのみッ!
 なあに、邪魔するものはいない、いたとしても0.2秒であの世に葬り去ってやる。
 必要なら、宮本武蔵とブルース・リーを倒すし、地球をまっぷたつに割って「悪は去った!」って言ってやるぜ。

 が、しかし、今、俺の予想外の妨害があった。
 ひょっとしたらハーレム結成をいきなり蹴躓いてしまったかもしれない。

 ……神族と魔族の最高指導者をぶッ倒すことのできる俺ですら恐れる相手は誰だって?

「こんの……馬鹿横島ァァーッ!」

 ……美神さんだ……。

 端的に言うと、バレた。
 三日間、妙神山で小竜姫様とプロレスをするために休みを取ったわけだが、その休みの口実を「試験があるから」としてしまったのが失点だった。
 試験があるかどうかなんて、学校に行けば一発で確認出来てしまう。
 まさか美神さんがこの時期入れていた億単位のギャラの仕事をフイにしてまで確認することはしないだろう、とタカをくくっていたのだが……。
 俺の予想は見事に外れ、美神さんは学校まで俺を自慢のコブラで迎えに来たのだ。

 その結果、試験なんてしていなかったことがバレ、その上学校から出てきた俺は文珠で作られた分身。
 これはいくらなんでもぶちギれるわ。
 それでも惚れた弱み、というやつで、美神さんはまだその時点ではコトを荒々しくするつもりはなかったらしい。
 話し合いをじっくりして、俺が反省していたら「私も悪かったわ……」とかいってHになだれて終わりにするつもりだったらしい。

 そんな美神さんの温和な案をぶち壊したのは俺だった。
 こちらでは三日しか経っていなかったが、俺は精神空間で何ヶ月以上もの時間を経過している。
 そのせいで、すっかり嘘をついていることを忘れ、酔っぱらった親父のように「たっだいまー」と上機嫌に帰ってきて、その上、妙神山土産のおまんじゅうを、おみやげです、などと言って手渡したもんだから、美神さんの怒りのボルテージが限界TOPPA!

 殴るわ蹴るわ、ひっかくわ。
 物を投げるわ家具を蹴っ飛ばすわ、本は引き裂くわ。
 喚くわ泣くわ、「自殺する」と言い出すわ。

 まるで火がついた大量のネズミ花火のように手の終えない状態になってしまった。
 もう俺は土下座しまくり、拝み倒して、なんとか宥めるも、美神さんはとにかく暴れまくる。
 文珠を使えば一発で取り押さえられるだろうが……というか一度だけやろうとしたけど……。

「文珠を使えば私なんて思いのままよね! したいならすればいいじゃない!
 ほら、記憶でもなんでも消しなさいよ! なんだったら何でもあんたの言うこと聞く人形にすればいいわ!
 早くなさい! ほら、ほらほらッ!」

 と言われてしまって、出来なかった。
 その場にへたりこんで泣き崩れている美神さんに、文珠を押しつけるなんてことは流石に……。

 初めは誰がどう見ても鬼畜な方法で手込めにしたものの、しかしやっぱり俺は美神さんのことが好きだった。
 別に、時給二百五十五円で雇ってわれていたり、その時給に果てしなく見合わない危険な仕事をされていた記憶もある。
 けど、それを恨んでいるわけじゃない。
 俺も大概懲りないというか、そんな扱いをされていても、やっぱりカッコイイ美神さんが好きで好きでしょうがないのだ。
 ちょっと最初は手荒だったけど、その後は例え文珠で作った感情とはいえ、美神さんが寄せてくれる好意は俺にとってかけがえのないものだ。

「その……美神さん、ホントーッにスンマセンッ!」

 額を地面にすりつけて土下座する俺。
 その俺の頭を、美神さんはぐりぐりとハイヒールで踏んづける。
 痛くはない……霊力溢れる俺の体は、例えロードローラーが頭の上に落ちてきたところで潰れやしない。

「この、馬鹿ぁッ……」

 鼻にかかった泣き声で、美神さんは俺をなじっている。
 浮気をしたことに起こっているんじゃなくて、どちらかというと嘘をつかれた、とか『裏切られた』ということがショックだったらしい。

「いや……その、実はまあ、美神さんに知られちゃいけないことというか……。
 嘘をついたのはこう、後々の展開のためであってでして……」

 今度は嘘は言っていない。
 小竜姫様と一緒に何ヶ月も凄いことをしたのは、美神さんに知られちゃいけないことだ。
 メドーサの中にミニマム・俺を埋め込んだのも後々の展開のため。

 まあ、後々の展開ってのが俺の煩悩を満足させるためのものだけどな!

「す、すんません、美神さん、ゆ、許して下さいよぉ〜」

 かれこれ三時間以上に渡って土下座しまくった結果、美神さんはようやく喚くのを止めてくれた。
 その代わり、回転する事務机の椅子に座って、そっぽを向いている。
 時折、ぐずぐず、と鼻をすすっている。

 ふと、机の上に一枚、あの騒動の最中に机の上から落ちなかった書類があった。
 仕事の依頼書で、依頼地は……人骨温泉。
 ギャラは三百万という、決して高いものじゃない……けれど、仕事中は温泉に泊まり放題となる。

 美神さんが、きっと俺との仲直りするために用意しておいたものなんだろう。
 もし俺がボケずに普通に帰ってきて、美神さんと話し合いした後、この話を出して、温泉に行ってゆっくり二人っきりの時間を過ごして仲直りしよう、と思っていたんだろう。
 俺が壮大にボケたせいで、こんなことになってしまい、美神さんからは話を切り出せなくなってしまった。

 ううーむ……これはやっぱり俺が悪いな。

 世界最強の文珠使い、歌って踊れるスーパー霊能力者『横島 忠夫』
 その気になったら、壁に掛けられた鹿の絵を指さして馬といえば、メドーサだって馬と答えちゃうし、本当に鹿の絵を馬にすることも出来る。
 それほどまでの力を持って、なんで下手に出なきゃならないんだろう、という疑問は永遠の謎にしておこう。

「あっ、み、美神さん、美神さん、コレ見て下さい、コレ!」

 くだんの書類を手にして、美神さんの直ぐ側に寄り、わざとらしく声を上げた。

「報酬は三百万とちと少ないですが、現場は温泉宿ですよ、温泉宿!
 きっと美味しい料理とか暖かい温泉とかあるはずですよ!
 こ、今度の仕事はこれを受けましょうよ!」

 どれほど温泉が素晴らしいものであるか、人知を超えた滑舌さで捲し立てる。
 それに対して、美神さんは少しこっちを見たが、ぷい、とそっぽを向いた。

 いかにも興味なさげな仕草だが、しかし、美神さんは興味をそそられている。
 ラブラブしていた時間は決して無駄ではないのだ。
 本当に興味が無かったら、今頃、うるさいわね、と大声を上げて、俺のことを睨んでいる。

 今の美神さんは、俺を何時間と渡って土下座しまくらせ、色々と誓わせたことで、なんとか嘘をついたことを許せるくらい機嫌を取り戻している。
 ただ、昨日の今日ですぐさま俺の要求を通すような甘い態度を示してはいけない、と思っているんだろう。
 そこへ、美神さん特有のプライドっていうものが加わって、素直になれないようだ。

 よし、じゃあ、「まったくしょうがないわね」と言わせてやろう。

「やだやだ、温泉行きたい行きたいーッ! 美神さんと一緒に温泉に入りたいんだーッ!」
「ちょッ……いい年してそんな地べたに転がって駄々こねないでよ!」
「だったら温泉ッ、温泉ッー! お・ん・せ・んーッ!
 美神さんの浴衣姿が凄く見たいッ! 凄く見たいんだーッ!」

 ……フッ、中々精神力を使うが、見事な駄々っこぶりッ!
 あまりのみっともなさに、見ているものは誰しもが溜息をつくことしきりの最強だだっこだ。

 ムキーッ、と叫んで、床をばんばん手と足で叩きまくる姿に、流石の美神さんも呆れたのか、額に手を当てて溜息を吐いた。

「あー、もうわかったわよ、温泉ね、温泉。
 この仕事は元々明日受けようと思ってたヤツだから……」
「本当ッスか!? うわーい、やったー、温泉だー、おんせんー」

 すかさずがばっと立ち上がり、その場で小躍りする俺。
 ……今の姿って、外から見たらとても情けないんだろうな……。
 いや、そんなことを気にしていてもしょうがない、美神さんと付き合うということは、そういうことなんだから。

 美神さんは俺の裾を掴み、ぐいっと引き寄せてきた。
 息が顔に吹きかかるほど近くに寄せている……んー、美神さんの吐息……素敵だな。
 体感時間だと何ヶ月ぶりになるから、思わず興奮してしまいそうだったけど、やっぱりしなかった。
 美神さんの顔は、少し怒っていたからだ。

「一応言っておくけど、嘘ついたことは忘れてないんだからね。
 そこんとこ、ちゃんと肝に銘じておきなさいよ」
「い、イエス、マム!」

 体を解放されるや否や、俺は一歩下がった。
 美神さんの威圧感はメドーサのそれとは比較にならない。
 元々俺は、未来から来た俺と混じっている。
 魂に刻まれた奴隷根性の楔は断たれていない。
 こういう風に怒っているぞオーラを発せられたら、心が萎えてしまう。

「じゃ、じゃあ、早速、温泉宿に行くための準備をして来るッス! また明日!」

 そのまま振り返らずに走って逃げた。

 しかし、温泉か……かれこれ連載一回目の出来事を思い出すなあ……。

 ……?

 ああ、そうか、連載一回目の出来事が明日起きるのか。
 とゆーことは当然おキヌちゃんとファーストコンタクト……。

 ……普通に考えておキヌちゃんに手を出すのは明日以降にしよう。
 仲直り旅行で、他の女の子に手を出したら、本気で美神さんに背後から刺されてまう。
 連れてきて、おさんどんその他をやらせることぐらいがボーダーだろう。

 うーむ……美神さん、今でもがめつい性格は持っているけど、少し改善されているみたいだからな。
 母親が死んだって過去を持っているから……本当は死んでなかったけど、ある程度、寂しさを紛らわすためにああいう風な性格になっていた節もある。
 だから、現段階だと俺が、本来なるべきアシスタント以上の存在になっているわけだから、それほどではなくなってるわけだ。
 ……おキヌちゃんをそのまま成仏させるような気がしないでもないが……。

 うーん、ちょっと考えた方がいいか?
 例え成仏しちゃったとしても、その気になればあの世から魂を引っ張ってこれる。
 けど、それをやると厄介な相手に見つかる可能性がある。
 俺としては、まだハルマゲドンを引き起こしたくはないんだが……。

 なんとかして、美神さんを説得できるような台詞を考えないと……。

 と、ふと、事務所のビルから出たときに思いついた。

 やっぱり美神さんから逃げるように出てきちゃったのはマズいな。
 なんていうかこう、恋人らしく、なんかして来れば良かった。
 ……また戻るか。

 ……。

 それで、階段を登り、貸しビルの美神さんの事務所に戻ってきたわけだが。

 ……。

「……」

 小躍りしていた美神さん。
 俺が扉を開くと、瞬時に硬直して、こっちを見ていた。
 片足を上げて、両手を持ち上げ、さきほどまでの泣き顔はどこへ行ったのやら、嬉しそうな表情がぺたっと顔に張り付いている。

 すごい、アレな格好だ。
 さっきまでツンツンしていたとは思えない。

 というか、よっぽど温泉に行くことを楽しみにしていたんだろうな。

「……よ、横島君、な、なんで、戻ってきたの?」

 しかしそれにしてもなんとも面白い光景が見れた。
 あれほど俺のことを『許してない』と言っていた美神さんが、小娘みたいにはしゃいでるなんてな。
 普段通りを装うとしているけど、今となってはもう遅いし、顔も赤い。

「あ、あのね、これは違うのよ。だからその……んッ」

 何かいいわけをしようとしている美神さんの口を塞いだ。
 所謂キッスというやつだ。
 首の後ろ辺りに手を回し、ぐいぐいと引き寄せて、口と口との粘液を接触させる。

「んっ、んんんッ……」

 美神さんは驚いて咄嗟に抵抗しようとしていたが、そのままゆるゆると舌を絡ませ合っていると、段々大人しくなっていった。
 久方ぶりに感じる美神さんは、やっぱり美神さんだった。
 何を言っているのかわからないだろうけど、ありのままに言えば、美神さんだった。

 懐かしい香りというか……とても、いい。

 美神さんも積極的にこちらに舌を絡めてきて、そのまま数分間呼吸音すら同じくしていた。


 ようやく美神さんとのキスを終える。
 美神さんは名残惜しそうにしていたけれど、体を離すとそのまま後ろに倒れた。
 ボスッと音を立ててソファーに着地し、夢見心地でぼんやり俺の顔を見ている。

「いやー、ただいまのキスをそーいやしてなかったなーってことで。
 じゃ、また明日会いませう!」

 シュタっと手を挙げて、その場から立ち去ろうとしたら、美神さんに服の袖を掴まれた。
 何、と顔を向けると、美神さんは瞳を潤ませて、ふるふると顔を横に振っていた。

 「帰っちゃ嫌」と目で訴えてきている。
 まあ、要するに、寂しかったのよ、と。
 別にテレパシーを使ってはいないが、そんな感じの波動が美神さんから発せられていた

「あ、いや、明日温泉に行くじゃないですか。そのときに……ね?」

 そうなのだ、明日、温泉に行くのだ。
 俺としては、美神さんとイチャイチャするのは明日からの方がいい。

 久しぶりに味わう美神さんの体なのだから、ベストな状態であればその分感じられる気持ちも倍増になるだろう。

 美神さんは、まるでこの世の終わりであるかのような表情を浮かべ、ふるふると再び顔を振った。
 ……ここまで来ると、このかわいらしい美神さんにおあずけをするのが楽しくなってくる。
 俺の裾を掴んでいる美神さんの手をやんわり外す。

「じゃ、そゆことで」

 そのまま、もう一度捕まらないように素早く事務所から走って逃げた。
 ふむ……明日が実に楽しみだ。





 そんなこんなで帰宅すると、アパートの部屋の前に丸まっている何かがいた。
 ドアを背にし、体育座りで下を向いている。

「……ゆ、弓さん!?」

 弓 かおりさんだ。
 六道のところの生徒さんで、ご存知おキヌちゃんのクラスメイト。
 雪之丞なんてのとくっついていたけれど、今回は俺の方が接触が早かった。

 たまたま街を歩いていたところ、見かけたのでナンパをした。
 といっても、弓さんはプライドも高いし、ただでさえナンパ成功率の低い俺じゃー相手をしてくれはしない。
 が、俺には切り札がある。
 文珠……はまあ、最後の手段として、GS美神除霊事務所につとめていることだ。
 今回はおキヌちゃんとゆー仲介者なんておらず、崇拝してそうなほど好きらしい美神さんとのコネを作れるよー、と話を持ちかけてやればいい。

 最初は、俺みたいな冴えない男が美神さんのアシスタントだとは信じてくれていなかったので、ハンズオブグローリーをばばーんと見せてやった。
 我ながら高純度、高出力なハイパービームサーベルみたいなソレを見て、弓さんも納得。
 正直なところを言うと、弓さんが見ていたのは美神さんが神通棍をフルパワーで起動させたものよりずっと強いものなのだが。

 美神さん、という餌を付けて糸を垂らし、声を掛けて興味を引いて、浮きがぴくぴく動いたらフィッシュオンッ!
 で、ノコノコついてきた弓さんを、ノンケでも構わず食っちまったのだ。
 文珠を使って、いまじゃ俺にメロメロのメローな感じに。

 ……いやーしかし、美神さんの名前を使ってナンパしたって……。
 嘘ついていたのと合わせてばれてたら、俺、殺されてたな、確実に。

 どきどきと心拍数が上がっている心臓のある左胸にそっと手を当てて抑え、体育座りをして顔を突っ伏している弓さんの肩を叩いた。

「……ん……」
「おーい、弓さーん、起きて、起きて、こんなとこで寝てると風邪引くって」

 肩を揺さぶると、弓さんはふにゃっとした顔をこちらに向けてきた。
 まだ完全に覚醒していないのか、半眼で、実に眠たそうな目をしている。

 ただ、視界に俺の姿がはっきりと映った頃になると、慌ただしく動き始めた。

「よ、横島さん……あっ、す、すいません。ドアの前で眠ってしまって……」
「いや、別にいーけど、どうしたの? こんなところで?」

 はて、流石に弓さんとは約束をしていなかったはず……。
 何故彼女がここにいるか、とその理由を考えてみても、いまいち浮かばない。

「いえ……その……急に、横島さんに会いたくなって……」

 弓さんはキラキラした特徴的な目で、上目遣いで見てきた。
 が、まだ眠っていたときに垂らしていたのだろう涎が口元に残っているので、いまいち色気が足りない。
 色気じゃなくて、愛嬌だったらパーフェクトなので問題はないけど。

「それで、ドアの前で待っていたら、寝ちゃった、と」

 クスリ、と笑ってみせると、弓さんは顔を真っ赤にして、俺のことを軽く叩いてきた。
 学校では常に優等生の意外な一面とゆーやつだ。
 こういった、素の姿を見せてくれる、ということに非常に強い親愛の情を感じるような気がする。

「もう、横島さんったら、酷いですわ」
「ごめんごめん。いやー、それにしても俺ってば愛されてるんだなあ。
 わざわざこんなかわいい女の子が、部屋の前で眠ってまで待っててくれるんだもんな」

 罪悪感が沸くような気がしないでもないが、嬉しいものは嬉しい。
 立ち上がった弓さんを、ソフトに抱きしめて、冷たくなった体に俺の体温を分けてあげた。
 弓さんも、赤みの差した顔を俺から見えないように伏せながらも、そっと俺の背中に手を伸ばし、軽く抱きしめてきた。

 ……なんだか、やたら青臭いことしているなあ、俺ってば。
 よくよく考えたら、弓さんって、俺と同年代なんだよなあ。
 大人びている美神さんや、完全にお姉さん気質な小竜姫様、小竜姫様とはベクトルは違うけど姉御っぽいメドーサ。
 みんな俺より精神年齢も肉体年齢も年上で、こう、気心が知れるというか、学生というのは中々いいモンだ。

 高校生同士だからこそ出来ること、というものもあるだろうしな。
 例えば、校門の前で待ち合わせをして、友達に見せびらかすとか。

 ……ちょっと古いか?

「……ま、まま、と、とりあえず中に入ってきなよ。
 泥水みたいな味のインスタントコーヒーぐらいしか出せないけど」

 色々と考えていたせいか、妙に照れてしまった。
 美神さん相手にこれがないのは、より美神さんに親しいからなのか。

「え、ええ……そうさせてもらいますわ」



 よくよく考えてみると、アパートの部屋に入れた女性ってーと弓さんが初めてだった。
 小竜姫様やメドーサはもちろん、美神さんですらやってきていない。
 この差はなんだろうなー、と思ったら、接点の違いだった。

 美神さんは事務所に行けば会えるし、エッチするときだってそこでだ。
 一方弓さんは、会うには事前に場所を決めて外で待ち合わせをしなければならない。
 外にいるのもなんだし、かといって弓さんの家に行ったら、弓さんのパパさんが薙刀振り回してくるだろうし、残った場所はここしかないというわけだ。
 まあ、薙刀振り回されても勝てる自信はあるが、勝ってどーするよ。
 下手に勝ったら、「フッ……我が娘を頼むッ!」とか言われて、結婚ルートに突入してもらうと、ボク、凄く困るし。

 と、そんなことを考えているうちに、ヤカンがぴーっと音を立て、お湯が沸いたことを知らせてくれた。
 二つコップを用意して、中にインスタントコーヒーの粉を入れ、お湯を注ぐ。
 これで泥水みたいな味のするコーヒーが実に簡単にできる。
 もちろん、泥水をすすって喜ぶような趣味は持っていないので、中に二字熟語文珠『美』『味』をいれ、コップの底で転がした後スプーンで掬い、もう片方のコップにもいれて、その後取り出す。

 えーと、この二字熟語文珠って下水に流していいもんだろうか?
 溶けるから問題ないだろうけど、水がおいしくなってプランクトンが増えたりして、環境汚染に繋がる可能性があるかもしれない。

 ……二字熟語文珠をこんなに簡単に使い捨てしていることが美神さんにバレたら、怒鳴られるだろうなあ。

「ほい、どーぞ」

 唯一の家具であるちゃぶ台は既に足を開いて用意してある。
 コップの下に敷くヤツはないので、醤油をいれるための小皿で代用し、弓さんの前に特製コーヒーを出した。

「あ、ありがとう、ございます……」

 弓さんは何度も来ているのに、まだ俺の部屋にいることに慣れていないみたいだ。
 体を硬さがありありと見せながら、ゆっくりお礼を言っている。

 一見、ボロアパートに見える俺の部屋だが、ほんの少しだけ手を加えてある。
 ことを致すときに、近所迷惑にならないように……隣の浪人生は文珠を使って追っ払っている……耐震防音設備はばっちししてある。
 勿論、改装したとかじゃなくて、文珠で。
 いくらエッチしたところで、ご近所の迷惑にはならないってわけだ。
 フハァハー!
 GS業界で、その効能を知ったら億単位くらいで取引されてもおかしくないものを、エッチのために使っちゃってるぜ、俺。
 そろそろ考え飽きたけど、これがバレたら美神さんに殺されるな。

 それはそうと、弓さんのこの態度。
 なんか少し嫌な感じだ。
 いや、弓さんは全く悪くない。
 だが、未来から来た俺の記憶を読むと、もうちょっと違う雰囲気があったような気がする。
 仲のいい喧嘩友達とか、そういった感じで雪之丞と接していた。
 今の弓さんはどことなくよそよそしさを感じなくもない。

 うーん、この差は一体何なんだろうか?
 別に勝った負けたとか、そういう風には考えていないんだが、とてつもなく敗北感が……。
 文珠でどうこうするのは流石に気が引けるしな……。

「……」

 等々、独りで唸っていると、ふと弓さんと目があった。
 弓さんは俺と目が合うと、さっと顔を伏せた。
 ちゃぶ台の上に置かれたコップの手前で、なにやら指をくるくるしている。

「ん? どしたの?」
「え? あ……あ、その、ゴーストスイーパーのお仕事って大変なんですの?」
「まぁね。あの人直ぐに人を盾にしたりおとりにしたりして、生傷は絶えないかなー。
 この前、廃ビルの仕事があったんだけど……」

 ちょっと待て、何を俺は普通に雑談に応じているんだ?
 いや、普通に質問されたから、普通に返しちゃったけど、そうじゃないだろう、俺。
 女の子がアパートの前で、眠りこけるまで待っていてくれたんだぞ。
 何が楽しゅーて、仕事の話せなあかんのやッ!

「……どうしたんですの? 突然お黙りになって……」
「弓さぁはぁーん! ぼかー、ぼかーもうッ!」

 どんがらがっしゃんとちゃぶ台をひっくり返し、若い男の部屋にノコノコやってきた現役女子高生にかぶりついた。
 現役女子高生、ああなんて素敵な響きなんだ。

 この、成熟と未成熟の間のような柔らかい胸。
 ウルウルと潤んで見上げてくる瞳。
 美味しそうな桃色の唇。
 どことなくアブナイ期待が膨らんでいそうな、熱い吐息。

 ぜぇんぶ俺のもんじゃーッ! うしゃしゃしゃしゃーッ!

「あ……ん……」

 少し汚れているような感じのする畳の上に、弓さんの綺麗な黒髪がサァッと広がる。
 震えるまつげが何故か俺を誘っているように見えた。

 もう俺の頭の中には、無数の弓さんが現れては消え、現れては消え、ほとんど弓さんのことしか考えられなくなっていた。
 ああ、弓さん、なんでそんなにうなじが色っぽいのだらうか?

 弓さんの頭の横に手を突き、覆い被さるような形で向き合った。
 なんかこー、なんかこー、どことなくかよわさを感じさせる弓さんっていいなッ!
 本当のところ、怒ると怖い人だけど、そんな人がこうゆーふーに無防備というかかわいらしさを晒すなんて、心臓辺りが痛くなるほど好きだ!
 むしろ、女子高校生という響きが好きだ!
 美少女が好きだ!
 もー、なんだか、なんだか、頭に血が上りすぎて一体何がなんだかわかりましぇーん!

 はぅぅ、弓さん、弓さはぁーんッ!

「あ……くぅ……」

 はッ、とした。
 弓さんが一変し、苦しそうな表情をしている。
 フェロモン全開バリバリな俺でも、まだ直接、あけっぴろげなポインツに手を伸ばす前に悶えさせることはできない。
 あふんあふん、声が漏れちゃうようなベクトルではないことがわかった。

「あ、ご、ごめん……」

 あまりに理性がブレイクダウンしてしまったために、平常潜めている霊波が漏れていたようだ。
 小竜姫様やメドーサ、人間だからちょっときついけど美神さん辺りじゃないと耐えられない濃度になる。
 幸い、気付いてからそう時間も経っていなかったので、すぐに霊波を体に押し込めると、最悪な事態は避けられた。

「や……やっぱり、プロの方の霊力って高いんですのね」

 弓さんは息も切れ切れに、健気にもそんなことを言ってくれた。
 危うく殺しかけちゃったことにしょんぼりしている俺の首に、弓さんの手が回される。
 そして、そのまま唇と唇が接触事故を起こして……。

 随分弓さんは積極的になったようで、俺の口の中に舌をぐいぐい入れてきた。
 ……恥ずかしいことに、ちょっとびっくりしちゃって、体を反らせたときに弓さんは離れまいと俺にしがみついている。
 鼻の奥底からくぐもった声が漏れ、それがなんとも……。

 結構長い時間続いていたキスはとぎれ、ころんと弓さんは頭を床に転がした。

「横島さん……今日は……」

 そうして、弓さんは俺の耳元で甘く、甘く、囁いた。





 くちくちくちり、と音が聞こえる。
 俺の右手の中指が動くたびに、弓さんは切なげな声を漏らし、身をくねらせる。

 キスした後、互いに睦言を交わし、布団を敷いて弓さんをうつむせに寝かせた。
 そこからスカートをめくりあげ、ぱんてーをほんの少しずり下げて……今に至る。

 弓さんと、こういうことをするに当たって、実はちょっとだけ条件が設けられている。
 簡単に言えば、本番はしない、ということだ。
 弓さんに手を出してから、もう四ヶ月……ああ、いや、二週間か……十三日……くらい経つが、未だに弓さんの膜は残っている。
 とはいえ、全く手を出さなかった、というわけでもない。
 うはは、俺は腐っても煩悩魔神だ。
 大人しく、高校生らしく清い男女関係なんてものに落ち着いているわけがない。
 そもそも昨今の高校生にとって、清い男女関係なんて……男女関係なんて……。

 あ、あれ? どうしてだろう?
 今や、美人でお金持ちな美神さんや、神様である小竜姫様、魔族のメドーサと現役女子高校生の弓さんとふかーい仲にあるのに、なんでこんなに涙が出てくるんだろう。
 うっ、ううう……。

 ま、まあ、とにかく、俺が弓さんとニャンニャンするときには、本番はしないとゆーことで。
 本番をしない、っていうのなら、どういうことをするのか、というわけで。
 なんかもう説明する必要はないかと思うけど、敢えて叫ぼう。

 アヌーーーーース!

 ふぅ……すっきりした。

「弓さん、気持ちいい?」

 俺は弓さんの後ろの穴、すなわち菊門に中指を突っ込み、中で指を動かしたり、折り曲げたりしている。
 弓さんを全身をクネクネと蛇みたいに動かして悶えていた。
 四畳半の狭くて汚い部屋の、畳に敷かれた布団で、制服を着た女子高生が身悶えている光景は、なんと素晴らしいものかッ!
 しかも、中指一本を動かすだけで、その反応が思いのまま、というのだからたまらない。

「……んっ、ま、また、お尻でするんですの? あっ……今日は、普通に……」
「ダメだよ。初めては結婚するまでダメって弓さんが言ったんじゃないッスか」

 ふむ、そろそろいいかな。

 お尻の穴から指を抜き、代わりに文珠をいくつか作り出した。
 弓さんは、ぐったりして、荒く息をついている。
 さてさて、いい具合に解し終わったから、次の段階へ……と。

 いくつかの文珠の中に文字を入れ、それを弓さんのお尻の中にねじ込んだ。
 アナルを使うのって色々と面倒な手順を踏まなきゃならないんだが……この文珠を使えばあら不思議。
 腸の中の排泄物は、全て他の宇宙へと転送され、悪玉の雑菌は消える。
 この処置を毎回行っているため、弓さんの腸の具合は常にBESTな状態にあるだろう。

 ふむ、他にも何かしら。

 二字熟語文珠をいくらか取り出し、中に『振』『動』を入れ、それもねじ込んだ。
 弓さんの括約筋が大きく広がり、普通の文珠よりも一回り大きいそれが弓さんの中に飲み込まれていく。
 ごくりと唾の塊が喉を通る音が聞こえた。

 ヴァイブとは違って、モーターで動いていないので、ヴヴヴヴヴという音はしない。
 けれど、弓さんのすべすべしたお尻に手を当てていると、微かに振動しているのがわかる。
 弓さんは、枕に頭を押しつけて、声を出すのを我慢しているようだった。

 さて、準備を進めるか。
 柔らかな双丘の間に顔を埋め、そっと口づけをした。
 たかだか二週間で、処女のお嬢さんのアナルを開発するというのは無理というわけで、ちょっと邪道だとは思うが、文珠を使った。
 弓さんのアヌスは普通のそれより柔軟性があり、尚かつ清潔に保たれる。
 文珠の効果が永続するように、かなり手間を掛けて、色々と術を用いた。
 どんなことがあろうと、弓さんのお尻の穴は綺麗なのだ。
 しかも、フローラルの香りがする。
 匂わないやつは鼻が詰まっているヤツだ。

 左腕を弓さんの腰の下に置き、ぐいと引き寄せる。
 弓さんの腰が少し持ち上がり、その間に右手で右のお尻を掴んだ。
 ぱっくりと菊門が露わになり、ひくひくと蠢いていた。

「横島さん……」

 弓さんがこちらを見ていた。
 顔をうつむかせ、ちらと目を流して、視線をこちらに向けている。

 この目は間違いなく期待している!
 いつもキラキラ不自然なほど輝いている目が、より一層放つ光の量が増し、光子力ビームが出そうなほど!
 これに応えなければ男じゃあるまい。

 弓さん、いくぜっ、と心の中で鬨の声を上げ、膝立ちになってズボンのボタンを外す。
 途端、トランクスが破れんばかりの勢いでそそり立つ自慢の一物が姿を現した。
 今日も、自慢の愛棒が血に飢えて鳴いておるわ。

 いざ突撃ッ!

「……あっ……」

 俺の愛棒が弓さんの体にゆっくりと埋まっていく。
 弓さんは身を震わせて、俺のモノを受け入れる。
 括約筋のリングが、亀頭の先端から竿までゆるやかに進んでいく。
 やがて全てが収まったとき、同時に弓さんは体を小刻みに震わせた。
 呼吸の間隔が短くなり、締め付けている菊門もかなりきつくなっている。

 ほほう、これは、やはり……。

「イったの? 弓さん」

 そう耳元で囁くと、弓さんは恥ずかしそうにより一層枕に顔を埋めた。
 しかし、例え顔を隠そうと、黒い髪の毛の間からぴょこんと覗くかわいらしい耳は、熟れ過ぎたトマトのように真っ赤になっている。
 俺の言葉が真実であることを如実に表している。

 男としての自尊心がむくむくと起こってくると同時に、煩悩も爆発せんばかりに高まってきた。
 上体を反らし、手を弓さんの膝下を通し、脇を掴むとそのまま引っ張り上げた。

「ひゃっ! よ、横島ひゃんッ!」

 弓さんは突然持ち上げられたことに驚きの声を上げ、手に持っていた枕を落とした。
 呂律の回っていない声で、やめてくださいだの、降ろしてくださいだの言っている。
 当然のことながら、やめるだなんてそんな勿体ないことをするわけがない。

 今の俺の格好は、少しアクロバットだ。
 膝で立ったままやや体を反らし、手は両方とも弓さんの膝の裏。
 弓さんはM字に足を開いたまま、膝の裏と俺の厚い……かどうかはわからないが胸板と、あと俺の相棒のみで支えている。

 貧弱な腕力では決して出来ぬこの体位!
 スーパーマンになったからこそ出来る、この芸当!

 地球上にいる限り、万物には重力が鉛直方向に働いているッ!
 弓さんの自重が、俺と弓さんの交わりを深くするという寸法だッ!

「ちょっ、よ、よこしまさッ! 横島さんッ! お、お、降ろして下さいッ!」

 弓さんは必死な声を上げ、手と俺に自由を束縛されている足を振って暴れ始めた。
 しかし、それはより菊門に刺激を与える行為にしかならない。
 殴られたり、最悪噛まれても俺は絶対にこの手は離さない。

 ああ、素晴らしきチチシリフトモモ。
 ここからだと乱れたセーラー服の隙間から胸の谷間が見える、シリの感触が味わえる、フトモモに触り放題。
 まさしくフルコース。
 おまけに弓さんのうなじの艶っぽいかほりがついて、お値段据え置きだ。

 こんな一方的な体勢に持ち込まれ、それでもなんとかしようと儚い抵抗をねじ伏せるという、支配欲も満たされる。

 両腕に力を込めて、弓さんの体を、ほんの数センチだけ上に持ち上げる。
 すると当然、マイ相棒はひっぱられて少し抜ける。
 今度は力を抜いて、弓さんの体を落とすと、今度は相棒が埋まっていく。
 コレが基本的な動作。
 たまに前後に揺さぶってみたり、スピードアップさせてみたりと緩急をつけるのがいいでしょう。

「……ふぁっ……よ、横島さっ、横島さんっ! 速っいっ! はげしすぎっ!」

 激しすぎる、というよりか、感じすぎる、と言った方が適切だろう。
 弓さんは汗やら涙やら愛液やら、俺がグラインドするたびに色んな体液を辺りに弾かせている。

「あっ、ダメッ! おしりが、おひりがッ! こわれる、こわれちゃいますぅっ!」
「大丈夫、この程度じゃ壊れない。壊れても、俺が直してあげるから」
「ら、らめぇっ! もう、だめっ!」

 弓さんは両手で俺の服をがっしりと掴み、少しでも体の安定の確保と過剰な刺激の抑制をしようとしていた。
 大きく乱れた髪が上へ下へとはね回り、垣間見える顔は、凛々しさがこれっぽっちも残っていなかった。
 泣き笑いというか、もはや汗と涙の区別がつかないほど汁まみれになっている。
 大きすぎる快楽と、その快楽に耐えようとしている理性とかぶつかり合っている、ある意味闘争の表情だった。

 弓さんのアニャルも少し変化が見えてきた。
 文珠によるチューンナップだけではなく、弓さん本来のアニャルの資質もあり、得も言われぬ具合の良さだ。
 乱暴に扱っているというのに丈夫で、締め付けも変化していない。
 まるで柔らかいゴムのように伸び縮みし、一瞬たりとも離さないとばかりに相棒をくわえ込んでいる。
 亀頭のカリに引っかかり、ことさら穴が大きくなる瞬間、弓さんは大きく身悶えるのがわかる。

「よ、よこしまさんっ! だいてっ、ぎゅっと、つよくだきしめててっ!」

 おいおい無茶ゆーな、と言いたくなる要望も俺は叶えてあげる。
 水晶観音、腕だけヴァージョンを体から生やし、余分に増えた腕で弓さんの膝の裏を支えてあげる。
 自由になった本来の腕で、弓さんの体をがっちり抱きしめた。

 うむ、習得しておいて良かった、水晶観音!
 流石、本来の使い手である弓さんと同じようにエロい技だ。

 強く強く、まるで蛇が互いに互いを締め殺し合うかのようなほど強く弓さんを抱きしめた。
 もちろん比喩だ。
 本当に殺す気なんてない。
 ただ、密着度マキシマムッ! ということが言いたい!

「あっ、ああッ! ああああああァァァあああああああーーーッ!!」

 弓さんの足が、きゅーと縮まったかと思うと、思いっきり伸びた。
 だぶだぶにずり下がった白のハイソックスの、足の先の先まで、ツンと立っている。
 緊張が極限まで達した後は、ゆるやかに落ちていくだけ。
 弓さんの白いハイソックスに包まれた足の指先は、重力に従ってゆっくりだらんと垂れていった。

 弓さんの首も力なくうなだれ、俺の顔のすぐ横に置かれている。
 髪が汗で張り付き、その黒い線の隙間から、弓さんの目がうろんげにこちらを見つめている。
 俺の目と弓さんの目が合うと、二呼吸置いてから、どちらからともなくキスをした。

「横島さん……」

 愛してます、と、彼女は言った……ような気がする。
 実際は俺の名を呼んだだけだが、彼女がそういいたいのは俺に分かっていた。

 なんと俺は小さい人間だったんだろう。
 雪之丞と相対するときのように、本音をさらけ出していない、とか考えていたが、それは間違いだった。
 いつだって乙女心は直球というかなんというか、この感情が今の弓さんの素なんだろう。

 弓さんがとっても愛おしくなってきた。

「さて、俺はまだ出してないから続行するよ」
「え? ええっ!? も、も、だめ……」

 俺が続きをしようとすると、弓さんは目を見開いて、本気で抵抗してきた。
 あまりの暴れっぷりと、膝の裏をささえている水晶観音の手がつるつるしていたのも相まって、弓さんの体を落としてしまう。
 未だ萎えることを知らぬマイ相棒はぬるんと抜けた。

 弓さんは立ち上がろうとして失敗した。
 あれだけ派手にイった直後だったせいで、腰に力が入らなかったんだろう。
 ばったりうつむせに倒れ込んだ弓さんは、それでも這うように逃げようとしていた。

 右左右左とぷるぷる震える弓さんのお尻はとても素敵で……ああっ、もう限界だーッ!

「ちょ、ちょっ、横島さん! ほんの少しでいいから休ませ……アーッ!!」




 数時間後、辺りはもう暗くなり、弓さんも帰らなければならない時間帯になってしまった。
 あれからぶっ続けでやったせいで、弓さんは腰抜け状態に陥ってしまい、涙目で睨まれてしまった。
 幸い文珠で腰を直してあげたけど。

「ん……んっ」

 未だ弓さんは悩ましげな息を吐いて、身悶えしている。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃありませんわ。あれだけ、もう無理って言ってるのに、あんな激しく……」

 弓さんはどんと俺の胸に肘を当てた。
 頬を膨らませて、ぷんすか言っている。
 うむ、キュートだプリティだ。

「いや、本当ごめん。でも弓さんがあまりにも魅力的で、もーどーすればいいのかわけがわからなくてさ。
 気が付いたら、思いっきりやってた」

 心からの弁解の言葉だ。
 本当、弓さんがかわいくてかわいくてもーどーすればいいのかわからない。
 今だってわからないし、これからだってわからないと思う。

 弓さんは顔をうつむかせ、真っ赤にすると、なにやらぶつぶつ呟いていた。

「も、もう、これだから殿方は……わたくしも結構、気持ちよかったけど……」
「それより、大丈夫? まだ腰に力が入らない?」
「もう大丈夫ですわ」

 そういって前に一歩踏み出した弓さんは、微かによろめいた。
 やっぱりどこかぎこちない。
 おかしいな、文珠のパワーにミスは無かったはず。

「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫ですってば! そ、その、ちょっと、腰、というか、お、お、お尻が閉じれなくて……」
「ああ、なるほど」
「なるほど、じゃありません! もう、痔になったらどうするつもりですの?」
「そうだな、痔になったら責任を果たさなきゃならないな。そのときになったら、弓さんのお父さんに会いに行くか」

 弓さんに殴られた。
 右手で、ありったけの力を込めた、ストレートパンチだった。
 腰に力が入らないはずなのに、なんて強いパンチだ……。

 まあ、弓さんは、タコ顔負けなほど顔を赤くしているのだから、嫌われてはないだろう。

 はてさて、それよりお尻の穴、か。
 しばらくしたら元に戻るといえど、そのままにしっぱなしは少しマズイだろう。
 調子こきまくって、出しまくったから、帰る最中ドロドロと漏れまくること間違いなしだ。

 うむ、こうなったら俺が責任取らねばならぬだろう。

 文珠に『栓』の文字をこめて、弓さんのスカートをめくった。
 蹴りが飛んできたが、うまくキャッチしてフトモモにキスをして、チュウチュウ吸ったら、弓さんは大人しくなった。

 白濁液がつきまくったり、ゴムが伸びまくってしまったパンツは俺の部屋に投げ捨ててある。
 ノーパンの女の子のスカートの中に侵入して、持っていた文珠をゆっくり弓さんのお尻の穴にはめ込んだ。
 ミッション・コンプリート。

「はい、これで中身は出ないよ」
「も、もう……」

 弓さんの顔から湯気が出ていたため、その日は弓さんを家の前まで送っていった。




 翌日から四日間、人骨温泉で美神さんと骨休めと仲直りエッチをし、帰ってきたら、下腹が心なしかぽっこり膨らんだ弓さんがアパートの前で待ち伏せしていたのは余談だ。