「のどかー?」
すぐそばに来ていた夕映に向かって振り向いた。
のどかもほぼ同じタイミングで夕映の方を向き、ごく自然な動作で、驚きの表情を浮かべている。
俺も大体、のどかと同じ顔をしているはずだ。
俺はわざとらしく咳払いをして、座っていた椅子から立ち上がる。
「あっ、ああ、じゃ、じゃあ、また明日……ここで」
「えっ、あ、はい……では、待ってます」
椅子をうっかりけっ飛ばしてしまうなどという細かいハプニングを起こしながら、
罰悪さを全開にして、その場からやや早足で走り去る。
もちろん、夕映は俺のことを胡散臭そうに見ていたし、
実際に「あの人は誰なんです?」とか興味津々に考えていた。
俺が立ち去った後、夕映はのどかに俺のことを聞いていたが、
のどかは、あからさまに隠し事をしている、といった様子で、夕映の質問をのらりくらりと交わしていた。
その後、俺は真っ直ぐ自室に戻った。
麻帆良男子中等部寮の一室で、部屋の電気は落としてある。
パソコンのモニターの明かりのみで、にやにや、と笑みを浮かべながら、目の前で動く事態を見守っていた。
『のどか……それは本当ですか?』
モニターには、今現在、麻帆良女子中等部寮の一室の様子がリアルタイムで映っている。
のどかが帰宅後、すぐに夕映に気づかれぬ場所に設置したカメラからの映像を受け取っている。
電子精霊がダミーとして隠蔽したりしているので、盗聴の危険性はない……と、思う。
麻帆良学園の電子精霊を扱う分野に所属している人間が一人スリーパーとして放っているので、
もし見つかっても、ある程度はもみ消してくれる。
今のところ、俺の考えた手順通りの進み方をしていた。
『魔法が本当に存在するなんて、そのまま信じるのは難しいです』
向こうではのどかが夕映に魔法の存在をバラしていた。
そのきっかけは、図書館島でのことを夕映が問いつめたことだった。
内気で、見知らぬ男子と話すことなんて考えられないような性格ののどかが、
楽しそうに談笑していた、自分の知らない男子は誰なのか、ということを、夕映は知らずに済ませるような性格ではなかった。
最初の方は、図書館島のときと同じように質問をはぐらかそうとしているふりをしていたのどかだが、
次第に根負けしたようなふりをして、俺のことを話し始めた。
曰く、彼は『魔法使い』であり、私に『魔法』を教えてくれた、ということをだ。
俺がのどかをだましたときと同じ化けの皮を、のどかは夕映に見せた。
『でも、夕映もネギせんせーが魔法使いだって、見当をつけてたじゃない』
『そ、それはそうですが……』
のどかは、俺が催眠をかける前から魔法の存在を知っていた。
修学旅行の際に、ネギ・スプリングフィールドがへまを打って、のどかに魔法バレをし、
その上、仮契約をしたあげく、記憶を消さずにそのまましていたらしい。
ネギが何をしたいのかよくわからんが、
あのサラブレットは常識にとらわれない英国紳士であることから、気にしたら負けだと思う。
結果としては、俺の仕事がやりやすくなったわけだし。
それに対して夕映は、魔法の存在を知らなかった。
ある程度魔法の存在を認知するような出来事が頻繁に周囲で起こっていたらしいが、
認識阻害魔法によって、未だに夕映は作られた虚像の世界に囚われている。
が、つい先日、自力で認識阻害魔法を打ち破るほどの確信を得たらしい。
近いうちに、ネギ・スプリングフィールドに直接会って魔法の存在を認めさせようとしていたらしい。
それを考えると、ギリギリセーフだった。
今回の洗脳の手順は、両者が魔法の世界を全く知らないという前提の下に立てられていたからだ。
ネギが魔法の存在を認め、二人に余計な知識を与えていたら、今より面倒くさいことになっていたに違いない。
『簡単な魔法なら教えて貰ったから……見せてあげるよー』
のどかは懐から子供用の杖を取り出した。
普通の人間なら、魔法の存在を認知したところで、すぐに魔法が使えるようにはならない。
が、それは飽くまで普通の人間に教わったらの話だ。
『プラクテ・ビギ・ナル アールデスカット』
のどかの掲げた杖の先で小さな炎が灯った。
魔力が発火するだけの簡単な魔法だ。
が、何も知らない状態からこれをやるためには普通は数十時間の座学と、
それと同じくらいの実地鍛錬が必要となる。
しかし、魔法を教える存在である俺にはエドのいにっきがある。
口から出すまでもなく、言葉をそのままのどかの頭に挿入することができるのだ。
魔力及び魔法の基礎理念くらいならば、時間をかけずにそのまま体と頭に教え込むことが出来る。
高次の魔法概念になると、言語化することがそもそも不可能な分野が平然と存在するため、
促成で戦闘に耐えうる魔法使いを量産することは無理だが、手品師くらいならばさほど難しいことではない。
実際、手品程度の魔法であるものの、手品以上の効果は存在していた。
夕映は目を見開き、のどかの持つ杖の先を見つめている。
その様子は、いかにも興味津々といったものだ。
あれが、釣り竿の疑似餌とも知らずに、呑気なもんだ。
『す、すごいですっ! どうやってやってるですか!?』
『どうやって……う、うーん、凄く体感的なものだから、説明するのが難しいけど……』
のどかは夕映に対して、魔法を使うための本質的な魔法概念を語り始めた。
もちろん、その説明は初歩段階に聞くべき部分が省略されているため、夕映に理解はできても実践はできない。
夕映はのどかから子供用の杖を受け取って、同じように詠唱したが、火どころか煙も出なかった。
めげずに何度も何度ものどかから断片的なアドバイスを受けながら、夕映は魔法を試みるが、一回も成功しない。
『ごめんね、夕映。ちゃんと私が教えられたらいいんだけど』
『いえ、のどかは悪くないです。まだのどかも数時間しか教わっていないんですから』
言葉ではそういうものの、夕映の落胆ぶりは一目でわかるものだった。
のどかが再び呪文を唱えれば、杖から火が出ることを見て、あからさまにうらやましがっている。
『明日また春原さんに会う約束しているから、夕映のことも頼んでみるね』
『……お願いします、のどか』
誠、誠に計画通り。
よくやったのどか、完璧に仕事をこなしてくれている。
嬉しさの余りエドのいにっきを開き、特設のどかのページを開く。
エドのいにっきの効果範囲は半径数十メートルだが、
契約暗示をした相手とはこちらからの送信に限って、効果範囲がかなり広くなる。
もちろん、魔力的なジャミングを行われれば話は別だが、今はとりあえずジャミングされていない。
さらさらとのどかに対する称賛と、ご褒美を確約することを書きこんで、送信する。
モニターの向こうののどかは、仕掛けたカメラの方に真っ直ぐ顔を向けて、にこっ、と笑った。
『……どうしたです? のどか』
『う、ううん、別に、なんでもないよ、ゆえ』
……今のはちょっと早計だったか。
うっかりしてしまったが、向こう側のリアクションを想定すべきだった。
しかしまあ、今回の失敗で一つ学べたのだからいいか。
幸い、のどかはうまくごまかせたようで、致命的な状況には至っていない。
『ふーん……そうですか。
そういえば一つ聞き忘れてたです』
『ん? な、何』
『なんでネギ先生に魔法のことを教わらなかったです?
話によればネギ先生も魔法使いだそうですけど、それなら知らないあの人に教わるより、
ネギ先生に教えて貰った方がいいじゃないですか』
もちろん、その質問は俺の方でも想定していた。
俺は万が一のために伏せていたカードを切った。
再びエドのいにっきに書き込まれた文字列をのどかに向かって送信する。
『ネギ先生は、そのー、まだ見習いなんだそうなの。
魔法使いの規則じゃ、見習いの身分の人が他人に魔法を教えちゃいけないらしくて、
春原さんが代わりに教えてくれるってことになったらしいの』
『なるほど、確かにネギ先生が見習いということは納得できるです』
ネギは魔法学校の方を首席で卒業するという、俺より遙かに学歴が上だ。
しかし何せまだあの幼さだ。
実情を知らない人間は、ネギが魔法使い見習いと言われても、疑うやつはいまい。
『あと、他の人にはネギせんせーが魔法使いだということを教えちゃいけないの。
他の魔法のことを知っている人にも』
『……それはどうしてですか? 魔法のことを知っている人になら問題ないんじゃないんですか?』
『見習い魔法使いというのはー、本当はそのことを知られちゃいけないらしいの。
だから、ネギせんせーに会っても、知らんぷりしてあげないと、ネギせんせーが怒られちゃうの』
そうそう、余計なことは他人に話さないように釘を打っておかないとね。
一応、夕映にもこっそりエドのいにっきを使って暗示を与えておいたけど、
ほとんど信頼値がゼロに近い状態のときに埋め込んだせいで、気休め程度にしかならなかった。
こうやって、予防線を張っておくことは大切なことだ。
しばらく、モニターの映像を見ていたものの、今日はこれ以上の収穫はなさそうだった。
念のため、パソコンは付けっぱなしにしたまま、携帯を使う。
既に麻帆良学園で、スリーパーをやっている人間に連絡を取り、情報を探る。
何か異常はないか……特にネギ・スプリングフィールド関連のことで、
魔法先生達が動き出していないか、知りたい。
今連絡を取っているスリーパーに、今日は図書館島の周りの見張りを任せていた。
バレてはいないと思う。
が、念には念を押さないといけないし、そもそも明日のスケジュール辺りも知っておきたいところだった。
さっきエドのいにっきで、暗号コードとともにその旨をスリーパーに知らせておいた。
届いたメールには、一見、普通のメールにしか見えないような文章が書かれているが、
毎日変更がなされる暗号コードで解読をすると情報が見えるようになっている。
問題は無し。
よし、言うことはないな。
もう少しのどか達の動向を探ってから寝ようかな、と思ったときだった。
突然、部屋の電気が灯る。
目が暗闇になれていたせいか、一瞬、視界が白く染まる。
「やっほー、タマちゃん、元気してた?」
この声は……。
「なんだ、姐さんですか。
脅かさないでくださいよ、ガサ入れされたのかと思ったじゃないですか」
「あらあら、ガサ入れされるような悪いことしてるの?
あーん、タマちゃんが不良になっちゃって、お姉さん、どうしようかしら」
見た目は若い……二十代半ばほどに見える女性だが、
これでも俺の所属している組織の上司で、俺よりも位階の高い魔法使いだ。
俺はこの人に育てられ、鍛えられ、ここで仕事を下されている。
俺の母親のようなものであり、師匠であり、上司であり、尚かつ組織が俺につけた手かせ足かせといえる。
見た目に相反して、年齢は既に三桁までカウントダウン一歩手前という化け物だ。
まあ、見た目と実際の年齢が違う魔法使いなんて珍しくもないものだけれども。
美人で、女性であることを強烈にアピールしている体つきなのに、中身がアレというのはあまり精神衛生上よろしくない。
「ま、挨拶はそこそこに、仕事の話をしましょ。任務の進捗状況はどう?」
「具体的な進捗状況としてはターゲットナンバー.05宮崎のどかを堕として、
ターゲットナンバー.01綾瀬夕映に対する洗脳のとっかかりを作りました」
「あら、もう一人片づけちゃったの。仕事、早いわね。スマートな子って好きよ」
「任務を与えられた感想を言うとしたら、もしこの任務を俺に押しつけた人をぶん殴る権利が購入できるなら、
十万までは出す、ってとこですかね」
「それはあなたの命を出したってまだ足りないくらいよ」
姐さんはにやにやしたまま、どこから出したのか、そこそこ大きい箱を俺に放った。
咄嗟に受け取ると、中からがさごそという音が聞こえた。
「それ、壊れ物だから注意してね」
「投げた人が言わんでください。で、中は何なんですか?」
「それは自分で中を見なさい」
「いや、小包爆弾である可能性を無視できなかったんで、聞いただけです」
「わざわざ爆弾を使ってタマちゃんを爆殺する必要がこれっぽっちもないわ」
いかにも、と心の中で答えながら、俺は箱の蓋を開けた。
中にはおがくずが詰められており、衝撃に耐えるようにしてあった。
壊れ物、というのは嘘ではないらしい。
おがくずを掻き分けながら、中に入っているものを掴み、そっと持ち上げた。
それは一つの球体だった。
大体ハンドボールより少し小さいくらいの透明な球体の中に、素敵なログハウスが入っていた。
どことなくボトルシップを連想されるそれは、中に入っている建築物が極めて精巧に作られているために、
芸術的な美しさ、というよりは、なんだか普通の写真を見ているような感じだった。
これを見たとき、危うく俺は驚きのあまりこれを落とすかと思ってしまった。
多分、これは俺が思っているよりか、遙かに高価で貴重な代物だ。
「『別荘』って、これまた……どういうことです?」
「別に? それだけ、上の人たちはこの任務に期待をかけてるってことじゃない?」
いやしかし、それにしても飛び抜けている。
今まで孤立無援で、任務だけ与えて、さあやれ、ほらやれ、やらなきゃ殺すぞ、
という極めて現場に優しくない上の連中が、こんなものをくれるのは、色々と飛び抜けている。
背中にうすら寒いものを感じつつも、
一方では、この別荘で過ごすのんびりとした日々に心躍るところがないわけでもなく。
『別荘』というのはこの水晶球のことだ。
水晶玉の中に、精密に作られたログハウスが入っているという見た目に負けることなく、
このアイテムは非常に高度な魔法をいくつも使って作られたものだ。
適切な魔法陣を描いて、その上にこの水晶球を置けば、水晶球に手を載せるだけで中に入り込める。
中は、麻帆良学園のいかなる結界の届かぬ場所であり、絶好の隠れ場として非常に有用だ。
まだこの水晶球がそうだとは言い切れないが、時間の流れさえも外と中とでは違うものもある。
しかも、この水晶球を開発される技術は、過去の大戦以前にしか存在しないもので、
今から新しいものを作るのはほぼ不可能……
開発技術が見つかるのは下手をしたら一世紀かかるかもしれない、と言われている代物だ。
もとより超高級品であった上、新しく見つけられるのは危険なダンジョンや遺跡の奥底というレベルなので、
相場は、桁の数を数えるだけでめまいを感じるほどのものになっている。
「ま、ありがたく貰っておきなさいな。
一応、食料やその他の備蓄は中にあるらしいから。
その他にも必要な物があるなら、申請しなさい。資金は組織が出すから」
「それならドンペリが欲しいんですけど」
「私がそれやって上の人たちに怒られたばっかりだからダメ」
中学生がドンペリなんて頼んでどうするつもりだ、とかそういうツッコミはしないらしい。
俺としても、そういうツッコミをされた方が反応に困ってたから問題はない。
姐さんは二段ベッドの下の段にどっかと座り込んだ。
すでにそこには、俺と相室の吉永君が寝ていたが、
吉永君は俺のエドのいにっきを用いての説得に応じてくれているため、ここで見た物は口外しないし、
今も、腹の上に姐さんが座っているというのに、少し苦しそうにするだけで起きたりはしない。
「……で、いけそう? 今回の任務は」
「姐さんは、いけそうだと思います? ターゲットと俺のスペックを比較して考えて」
「なら、心配しなくても大丈夫ね」
「いやいやいや、ご冗談を」
俺の働きは、姐さんの給料査定に関わるらしく、失敗するときついお仕置きが待っている。
今回の任務は優先度が最重要に設定されているため、失敗した場合、お仕置きというレベルじゃなさそうだ。
「ここの連中はただでさえ平和ボケしてるからね。
あの、呪文詠唱が出来ないくせに強い親父は別だけど、
それに目を付けられない限り、ホイホイうまくいっちゃうと思うんだけど」
「ターゲットの中には歩く暴風雨みたいなエヴァンジェリンがいるんですが?」
「あの吸血鬼も今はもうボケてるわよ。
闇の住人のくせに『光の世界』を長いこと歩きすぎている。
なんでまあ、こんなちんけな学園に囚われているのかわからないけど……
もうボケちゃっててダメね。人を疑うことを忘れかけた吸血鬼ほど惨めなものはないわよ。
うまく対策を練ればコロッといっちゃうんじゃない?」
「そりゃ、任務は俺のですから、姐さんは気安く言えるでしょうが……」
とはいえ、姐さんのこの余裕っぷりを見ていると、俺としては少し安心を得られたのも確かだった。
何事に置いても一番大事なのは引き際だ、ということを嫌というほど教え込まれた過去から考えれば、
本当にせっぱ詰まった状況なら、姐さんのこのだらけっぷりは見られないはずだ。
案外、本当にうまくいきそうな気分になってくる。
今も、自分の白くて長い毛の先で、吉永君の鼻の穴をくすぐり、
思わず吉永君がアホ面さらしているのをにやにや笑いながら見つめている。
いい年して何をやってんだか、と思わされてしまう。
「ま、やれるだけはやってみようかと思います。
エヴァンジェリンにはよっぽどのことがない限り、手は出しませんがね」
「頑張ってね、タマちゃん。
タマちゃんがこの任務を達成したら私のお給料がぐーんとアップするからねっ!」
「俺の給料はいかほど上がりますかね?」
「中学生が贅沢言わないの」
「そういうのならば、中学生を潜入工作員にしないで頂きたい」
姐さんは「そりゃそーだ」といって何がおかしいのかケタケタ笑い始めた。
ひとしきり笑って満足したのか、姐さんは立ち上がり、俺に気をつけてね、とだけ言い残して部屋から出て行った。
なんだか、はぐらかされた気がしないでもないが、少し肩の重荷がどいた気がした。
モニターの方を見てみても、予想外のハプニングなどは起きていない。
俺も明日に備えてもう寝るべきか。
念のため、吉永君に起きて貰い、モニターに何か大きな変化があったら起こしてくれるように頼んでから、
俺はベッドに潜り込んだ。
そして、翌日。
学校が終わったらすぐに図書館島へ向かい、準備を整える。
図書館島地下一階の隠し部屋……学園側は恐らく把握しているだろうが、一般生徒には見つかっていないはずの場所に赴いた。
昨日、姐さんが持ってきてくれた水晶球の土台を置き、水晶球を更に上に載せる。
土台は二種類あって、片方が外側から見えにくい位置に魔法陣が描かれているものだ。
この土台の上に載せるだけで、水晶球が使用可能な状態になる。
一方、もう一つのは、ごく普通の土台。
使用しない場合や、ダミーとしての見せかけるための土台らしい。
なんでここにこの水晶球を持ってきたかというと……。
「一時間がおよそ一日か……大きさはそれほどでもないが、性能が半端ないな」
水晶球の中での時間と外の時間の流れが大きく違ったからだ。
中で過ごす一時間が、外の時間でおおよそ一日に匹敵する。
何の変哲のないログハウスとその周囲数十メートルほどという、大きさとしてはややスモールサイズではあるものの、
ここまで時間の流れが違うものは中々存在しない。
太っ腹というかなんというか……ここまで過剰な期待を寄せられていると思うと、ちょっと大変な気がする。
とはいえ、洗脳のとき一番問題となる『時間』という項目がこれで解決したというわけだ。
後は図書館島で二人が来るのを待つだけだ。
数分後、来たのはのどかだけだった。
「どうした? 夕映は来ないのか?」
「あっ、いえ、後で来ます……」
のどかは、恐らく走ってきたのだろう。
息を切らせ、肩を上下に荒く揺らしていた。
今回は図書館島の地下という、あまり人の立ち入らない場所で待ち合わせをしていたため、
人払いの方はあまりしていなかった。
無駄に時間を潰していて、誰かに見られたら面倒くさい。
早く夕映のことを問いただしたかったが、とりあえず一旦、隠し部屋にのどかを連れて行った。
幻影の魔法で本棚に見える空間にあるドアを開き、のどかを引き入れる。
のどかは小さな悲鳴を上げながら、驚いた様子で入ってきた。
「えっ? ここは……?」
「図書館島の隠し部屋。ここなら人目が付かないからな」
「こ、こんな部屋があったなんて……」
のどかはそういって部屋の中を見回した。
そういえば気づかなかったが、部屋の壁には本棚が置いてあり、
そこには見たこともないようなタイトルの本がぎっしり詰め込まれている。
おおよそ、珍しい本なんかを保管するための部屋だったんだろう。
俺が初めに気が付いてから、今に至るまで、埃が溜まり放題だったから、
人の出入りはほとんどないと言っていいだろう。
「で、何故、夕映と一緒に来なかった?」
「いえっ、あの……いきなり約束も無しに春原さんと会うのもおかしいかな、って思って……」
……。
なるほど、確かにのどかの言うことにも一理ある。
魔法の存在を秘匿しているのならば、俺がアポ無しで会うのもおかしい気がする。
まあ、その場で言われたら、それで言い逃れをいくらでも思いつきそうなことだが、
のどかは必要以上に気を回してくれたようだ。
「わかった。じゃあ、話を通したってことで、夕映を呼んできてくれ」
そういったが、のどかはちっとも行こうとはしなかった。
スカートの端を掴んで、もじもじと、俺の様子をうかがいながら、
それでいて決して俺の顔を直視しないようにその場で奇っ怪な動きを見せた。
「あっ、あのー……そのー……ご、ご褒美が……」
ああなるほど。
そういえば昨日もお預けのような形で終わったし、
夕映を落とすこととなるとしばらくのどかは放置という形になってしまう。
現在、生殺し状態にあるのどかにとっては、とても辛い状況だろう。
「全く……ご褒美ほしさに、俺の言いつけをちゃんと守れなかったのか?」
「えっ、ご、ごめんなさい」
別にそれほどの指定はしていなかったし、夕映が少し遅れて来ようとも計画に全く支障はないだろう。
それに、のどかの身も心も堕としたというのに、全く餌をやらずに放置していた俺にも問題がある。
「そういう雌奴隷には罰を与えないとな」
さりげなく腕時計を見る。
現在時刻は五時五分……中の時間ではまだ日が変わって二時間程度が経過したところか。
「ご、ごめんなさい、今すぐゆえを連れて……」
逃げようとするのどかの手をつかみ取った。
えうう、と涙を流すのどかに、わずかに笑みを見せながら言い放つ。
「許さない。絶対にだ」
掴んだのどかの手を、そのまま水晶球の上に置いた。
すると、目の前の視界が真っ白になると同時に一瞬だけ浮遊感を味わう。
次に気づいたのは、ログハウスの屋根裏部屋。
外へ出るための魔法陣が輝いているほか、何も置いていない場所だった。
「ひうう……ごめんなさい、ごめんなさいぃっ」
目をつぶっているせいか、まだどこにいるのかわかっていなさそうなのどかの手を引っ張って、
階段を下り、二階の一室に入る。
そこには大きめのベッドが二つ。
そのうち、手前にある方のベッドにのどかを突き飛ばした。
「きゃっ……こ、ここ、どこですかぁ~?」
ベッドの上に尻餅を付いたのどかは初めて目を開いたのか、辺りを不思議そうに見回して言った。
その問いには答えず、そのままのどかに覆い被さるように俺は倒れた。
のどかは体をベッドの上に横たえて、至近距離まで迫った俺の顔をまん丸くした目で見つめていた。
「さて、ご褒美ほしさに主人の言うことを聞かない雌奴隷にはきつい罰を与えないとな。
今から大体二十二時間……ずっと犯してやる」
「そ、それって罰じゃなくてご褒美ですっ~」
「そう言えるのは最初の三十分だけだ」
そういって、俺はのどかの唇をむさぼった。
乱暴に舌をのどかの口の中に入れ、そのまま蹂躙し始める。
のどかは抵抗せずに、俺に舌を絡まさせられ、思いっきり吸われたりしていた。
数分かけてキスをした後、そっと離れると、のどかが俺の服を掴んでいたことに気づいた。
俺が離れたせいで、のどかの指が俺の服から離れ、ぽたりとベッドの上に落ちる。
ふと気が付いたことを言ってみる。
「前髪をのけた方がかわいいんじゃないか?」
「ひゃっ!?」
のどかの目はぱっちり見えた方がかわいい。
常にかかっている前髪がない方が、相手に与える印象も大きく変わる、と思ったんだが。
のどかは今まででも十分赤かった顔を更に赤くし、俊敏な動きではだけた前髪を戻した。
犯してやる、というのには案外喜んでいたはずなのに、かわいい、と言われると恥ずかしいのか。
エドのいにっきという人の心を読み、操るアーティファクトを持つ俺でも、
まだまだわからないことは多いということか。
……。
アホらし。
のどかを騙したり、脅したりする人格に、素の人格が影響を受けたようだ。
いつもはこんな臭いことを考えはしないし、自信満々で犯してやるとか平然と吐く人間じゃなかったはずだ。
複数の性格を使いながら人の心に触れていると、本来の自分を失いがちになる。
本来の自分というものが不変であるなんてことはないが、
ここは一つ、自分という存在を強く持っておこう。
再びのどかに覆い被さり、今度は首筋に吸い付いた。
「あっ……ああっ……」
弱い刺激でも十分感じるようで、小さく幼い喘ぎ声が口から漏れ出ている。
首筋を吸い付いた後は、舌でそっと舐め、鎖骨の付け根の部位まで下がる。
舌がのどかのなめらかで白い肌の上を滑るたびに、舌がぴりぴりと汗の味を感じる。
舌が鎖骨の上に来るのを感じると、そっとそこに歯を立てた。
「ひゃっ!?」
そしてそのままぐりぐりと押しつける。
痛みを感じるほどやっているつもりはないが、場所が場所だ、
痛みを感じていないにしても、骨の上を肉が動く感覚を味わっているだろう。
実際、歯が鎖骨の上と下を行き来するたびにのどかは小さな声を上げている。
しかし、その声からは不快感は感じられずに、むしろ悦楽の色が見える。
そのまま鎖骨を歯でいじめながら、手を動かし、のどかの上着のボタンを外した。
ブラウスのボタンを下から外していって、最後は口を離して、一番上のボタンも外す。
大人しめ、とはいえ、のどかのような内気な女の子が普段しているにしてはかわいすぎるブラジャーがまろびでた。
勝負下着ってわけか。
フロントホックのそれを外し、ブラジャーもはだけさせる。
のどかの白い胸が露わになる。
決して豊かではないものの、のどかが女性であることを証明させるに足るそれは、
手のひらに収まるようなサイズでありながら、先端が大きく立っていた。
のどかは今までのような声を上げることなく、
長い前髪の隙間から、ただただ期待と情に燃える目で俺を見ていた。
「フリーゲランス・エクサルマティオー」
氷属性の武装解除……ただのエクサルマティオーにしては偉く難易度の高い魔法だが、
俺の属性が『氷』『闇』だからしょうがない。
呪文そのものの難易度は低いが、苦手な風属性のフランス・エクサルマティオーを使ったら、
ベッドごとエクサルマティオーしてしまうかもしれない。
しかしまあ、難易度の高い魔法を使ったおかげだけあり、
のどかのスカートとショーツだけが両方氷結し、そのまま砕け散った。
もちろん、のどかは下半身にひんやりとした感触を味わっただけで、その肌に傷を一つも負っていない。
「ひ、ひゃっ!」
のどかは下半身がすーすーすることに気づいて、手で隠そうとするが、
手首をすかさず捕まえて阻止する。
呪文を一言つぶやくと、ベッドの下からロープが飛び出てきた。
まるで蛇のように動くそのロープは、今俺が掴んでいるのどかの手に巻き付き、
そのままベッドの端に自分から縛りに行って、のどかの両手を拘束した。
手の自由を奪われたのどかは、足でなんとか最後の部位を隠そうと膝を擦り合わせた。
隠せてないどころか、足の隙間から濡れた陰毛や、桃色の秘めやかな部位がちらちらと見えるせいで、
無駄に俺の興奮を煽っている。
踊るような膝に手をかけると、意外や意外にものどかはすっと力を抜いた。
拍子抜けするほど簡単にのどかは膝を開き、そこに隠されていたものを明らかにした。
前戯が必要ないと思えるほど、そこは赤く充血し、欲しがるように細かく震えていた。
のどかは俺と目を合わせるようなことをせず、顔を横に背けている。
何も言わず、俺はズボンのベルトを外した。
こちらを見ていないのどかにわざと、これからの行為を知らしめるために、
わざとベルトの金具を大きくならしながらだ。
のどかもそのことに気づいたのか、ねっとりと粘りを持った液体が、ぬるりと漏れだした。
うざったく感じていた上着も脱ぎ捨て、乱暴に壁にたたきつけると、派手な音がした。
耳に神経を集中させていただろうのどかは、びくりと震え、ちらと俺の方を見たが、すぐに目をそらした。
のどかが俺の物を見て、どんな感想を抱いたかは興味につきないところだが、
エドのいにっきをわざわざ取り出すのは面倒だった。
実際に使ってみて、その反応を見ることによって、推測をすることにしよう。
先端をのどかの割れ目の先に触れさせる。
途端、のどかは電気ショックを受けたかのように上半身をのけぞらした。
俺はそれにひるみもせず、そのままずぶりと奥へと突き入れた。
途中、ぷちぷちとした感触があるものの、一切の容赦なく無視した。
奥まで到達したときには、のどかの上半身ののけぞりが半端なくなり、
のどか自身は口も目も大きく見開いていた。
特に口からは、ひゅうひゅうと空気の抜けるような音を上げている。
「どうだ? これは罰だろ?」
かなり乱暴な処女喪失だったが、痛みなんてのはこれっぽっちも感じちゃいなかっただろう。
むしろ、さっきから何度もしている膣の収縮を鑑みれば、相当気持ちよかったに違いない。
……当たり前だろう? 何のためのエドのいにっきだと思うんだ。
「まっ、まひゃっ、うご、うごかにゃいでくだひゃいっ!」
「はあ? 何を言っているのか、聞こえんなあ」
獄長様の気分でにやつきながら腰を動かす。
往復するたびに括約筋の収縮を何度も何度も感じるが、それもお構いなしだ。
わずかに血がにじみ出てきたものの、それを遙かに上回る量の粘液に押し出され、
あっというまに消えてしまった。
「らめ、らめぇっ!」
のどかは汗と涙と鼻水をベッドに垂れ流しながら、拒絶の言葉を放った。
が、その直後、ぷしあっ、と生暖かい体液を吹き出した。
「わっ!?」
突然のことで驚いて、腰の動きを止まってしまった。
落ち着け、ただ単に、潮を吹いただけだ。
「やったな」
なんだか驚いたことに気恥ずかしさを感じて、それをごまかすためにえい、と強く腰を押し入れた。
「ひっ、ひぁああああああああっッ!!!!!」
それがいけなかった。
ぐいと突き入れた物が、のどかの下腹部の中枢に直撃してしまったのだ。
ちょうど鈴口が、のどかのお腹の中の袋の入り口に触れ、ぐぐいと内臓を強く押し入れてしまった。
のどかは悲鳴じみた嬌声を挙げ、足の先から頭の横にある手まで、力を入れて全身を伸ばし、
こっちが心配するほど痙攣したかと思うと、くたっと倒れた。
そして、ぴくりとも動かなくなった。
「……? 失神したのか」
心音も呼吸も正常……いや、心音の方はまだどくどくいってるが、大丈夫だろう。
最初にしてはかなりハードだったか。
まだ、俺はイってないんだが……だからといって、死体のように動かないのどか相手にやるというのも気が乗らない。
「ま、自業自得だしな」
まだ、落ち着かない息子をのどかから引き抜く。
のどかの体液でべったりした我が息子は、未だに己を解き放てていないのに行為を止める俺に向かって、
非難しているかのように天を衝いていた。
しょうがないだろ、と独り言を漏らし、のどかの手を縛っていたロープをほどくと、
のどかを担いで、風呂へと向かった。
使うだろうと思って、このログハウスの転移したときに、魔法でスイッチをオンにしておいたおかげで、
浴室に入ると、ほとんど準備が終わっていた。
適当に掛け湯を済ませると、のどかがおぼれないように俺がまず風呂桶に入り、
のどかを俺の上に載せるような形で、横たわらせた。
豊かとはいえないが、きっちりついたのどかのおしりのお肉がお腹に当たって、非常に気持ちいい。
しばらくすると、のどかが気が付いた。
戸惑って、暴れそうになったが、背後から羽交い締めにして落ち着かせ、風呂にゆっくりつからせた。
おしりの下あたりにある違和感に戸惑いながらも、何とか腰を落ち着かせて、お湯に浸っている。
ぴちょーん、と蛇口から満たされた水面器に落ちる水滴の音をバッググラウンドミュージックにしながら、
時間がゆっくり過ぎていく。
「……で、初体験はどうだった?」
「は、初体験……ですか?」
「初体験じゃなかった? 意外だなあ、のどかにとっちゃ俺は二番目以降だなんて」
「い、いえ、そうじゃなくて、ですねっ……」
のどかはあわてながら、黙った、
少し経ってから、こっちから見える耳を真っ赤に染めて、ぽつりと言った。
「き、気持ちよかったです……」
「そいつは良かった。けど、こんなもんじゃないぞ」
俺は腕をのどかの腕の間の中に差し込んだ。
お湯の中で脇腹を軽く撫でるたびに、のどかがびくんびくんと震える。
「なんてったって、まだ膣出ししてないしな」
「にゃっ、にゃかだし……ですか?」
「そうそう、のどかのお腹の中に精子をぶちまけること」
「お、お腹の中……せーし……ぶ、ぶちまける……ですか?」
伸ばす手を更に奥の方へ持って行き、大体のどかの胸の下辺りを触る。
柔らかい皮膚を、手のひらでくにくにともみほぐすと気持ちいい。
「俺はいつもぶちまける方だから、ぶちまけられる方が実際どんな感じなのかを説明することはできない。
けど、過去にぶちまけられらた人から聞いた話によると」
そういいながら、俺はそっと手を下に持っていた。
下腹部……大体おへその下あたりに到達すると、指をたてて、つんつんと叩いた。
「ひゃぅぅっ!」
「ここが、幸せになっちゃうらしい」
いかにお腹の肉ごしとはいえ、今の敏感なのどかには十分強い刺激だったようで、前のめりになる。
のどかを無理矢理引き戻すことはせず、今度は俺がのどかを追いかけ、耳元で囁くように言う。
「最初の方は幸せを感じるよりも、気持ちいい方が強いから、それほどじゃないらしい。
けど、それが二回、三回、四回と蓄積してくると、始末に終えなくなる。
お腹の中が燃えるように幸せになっちゃって、それから逃げようとしても、
幸せがびっしり……それこそお腹の中の壁にびっしりこびりつくように広がってて、
逃げようにも逃げられない。
幸せになったって、気持ちいい方がなくなるわけじゃなくて、
全身を幸せが包み込んで、もう無理といくら叫んでも解放されずに、
限界まで達すると、頭の中でぷつっという音を聞く……。
そして、気が付くと、翌日になっているんだそうだ。
まあ、翌日になっているっていってもその場で気絶するわけじゃなくて、
前後不覚状態に陥るだけで、ちゃんと起きてるんだけどな」
のどかは俺の言葉を聞いて、全身を振るわせた。
それが歓喜のためなのか、恐怖のためなのかはわからないが、俺にとっちゃどっちでも構わない。
「その状態になると、幸せすぎて死んじゃうといつも思うらしい。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、わけのわからないことを考え始めちゃうんだろうな。
しばらくは、『殺して』とか『死なせて』とか連呼するんだが、
そんなのを無視して、がんがん続けていると、段々言ってくることが変わってくる。
『殺して』と『死なせて』が、『殺さないで』になるんだよ。
そうなると、声が本当にせっぱ詰まってきて、本当に殺されると思ってるようだった。
まあ、何の反応も無くなるまでガンガン犯してやっても、今まで一度も死んでないから死ぬことはないみたいだけどな」
立ち上がろうとしたのどかを今度は力づくで押さえつける。
のどかの背中が俺の腹に密着した状態で、一語一句に力を込めて言う。
「ただ、のどかはどうだろうな?
のどかと俺の体の相性は抜群だし……ひょっとしたら本当に幸せで殺しちゃうかもなあ」
のどかを抱えたまま立ち上がった。
お湯がざばざばと風呂桶からあふれ出るが、全く気にしない。
のどかを風呂の壁に押しつけ、手を突かせてから、腰を引っ張り上げる。
「や、やああ、し、しにたくないですぅ……」
「何、人間、どうせいつかは死ぬんだ。幸せに殺された方が幸せに死ねるってもんだろう?」
死にたくない、死にたくない、と往生際の悪いのどかを無視して、俺はそっとのどかの中に差し入れた。