あれほどたくさんあった道具も、一回使うたびに使用済みとして処理していくと、
割とあっさりなくなってしまった。
途中に休憩として昼寝を挟みながらやってきたが、中々有意義な時間が過ごせたかと思う。
「くっふぅぅぅッ!」
最後の道具として、開脚器を使ってみた。
ただの鉄の骨組みで、両方の膝の裏を固定することによって、
強制的に足を開きっぱなしにするだけのシンプルな道具だ。
今回使っている道具はこれだけだ。
これだけだとしても、使い方によっては、十分以上に使いようがある。
「んっ……春……原さぁん……」
夕映は甘い声を出し、切なげに俺の名を呼ぶ。
その右手は、みっともなく開脚したままの足の付け根と胸を這っていた。
例のごとく、夕映は俺のかけた催眠状態下にあり、正常な意識を持っていない。
ただただ命じられた通りに、はっきりしない頭で俺のことを考えながら、オナニーをしているだけだ。
それだけでも結構楽しい。
というか、論理や知識を愛する女の子が前後不覚状態で俺の名前を呼びながら、
自慰行為をしているのを見るのが、楽しくないわけがないだろう?
周辺に毛が生えず、ぴっちりと閉じていた幼い秘裂が、夕映自身の指によって開かれて、
ピンク色の柔らかい肉が剥き出しになっている。
だらだらと溢れてくる愛液を自分自身の指に絡ませ、上下に擦り挙げることによって、また愛液を分泌させる。
「春原さん……ッ!」
よだれの垂れた口で、俺の名前を愛しそうに何度も呼び続ける夕映。
彼女もまた、のどかと同じようにネギ・スプリングフィールドに好意を寄せていたようだが、
もはやその思いがネギに届くことはないし、ネギに思われることもないだろう。
ただ、彼女が不幸だとは思わない。
なんてったって、俺の手駒になれるのだから。
基本的に俺は手駒は大切にする。
だからこそ、必要最低限以上の自我を残して好きにさせているのだし、
俺の任務遂行のために必要ではないのどかの求めにも応じてやっている。
なので、夕映はきっと不幸ではないだろう。
むしろ、彼女はのどかを優先させるあまり自分を殺す傾向がある。
ネギ相手では、どちらかがネギを譲らなければならないだろう。
だが、俺は、のどかも夕映も両方ともかわいい手駒にして飼ってやることができる。
それだったら、俺の方が断然お得なわけだ。
ネギを選べば、ネギとのどかかゆえが幸せ。
俺を選べば、俺とのどかとゆえと、あと他のたくさんの人が幸せ。
ほら、選ぶまでもない。
「……春原さん……」
「ん、何だ?」
夕映はぼんやりとした瞳をしているものの、俺の方を真っ直ぐ見て、俺の名を呼んだ。
自慰行為で、気分を高めるための呟きではないととった俺は笑顔を見せて、答える。
「き……キス……してくれるですか?」
「いいよ」
中々かわいらしいことを言ってくる夕映に顔を近づけて、よだれがあふれ出る口をそっと塞いだ。
夕映は猫のように目を細め、俺に身を任せた……身を任せたというより、口を任せたと言った方が正しいかもしれないが。
ちゅうちゅうと吸い付いてくれるゆえに対して、俺は優しく口の中を愛撫してやった。
喉をごろごろならして、本格的に猫っぽくなっているゆえは、俺を片手で抱きしめながら、
もう片方の手では秘裂をいじったままだ。
「んっ……あっ……」
俺が離れると、夕映は残念そうな声を漏らした。
実際、恨めしそうな目でこちらを見てくるので、少し胸が高鳴りもしないわけではなかったが、
他に楽しいことをするつもりだったので、ぐっと我慢した。
口の中に溜まっている夕映と俺の唾液を、たらーっと垂らした。
ちょうどうまく夕映の臍の下辺りに落ち、重力に従って、よだれが垂れていく。
そこまでやって夕映は俺の意図がわかったのか、手を伸ばし、肌についた唾液を指に絡ませた。
そしてそのまま、その指で自慰行為を始める。
「あっ……いっ……これ、いいです……」
変態染みているのは言うまでもないことだが、ここまでの反応を見せてくれると凄く楽しい。
流石は『恥辱』を特性に持っているだけある。
どんな行為も最初はいやいやするものの、快楽にちょっと溺れさせてやれば、従順な犬みたいに言うことを聞く。
エドのいにっきの力だけではなく、本人に強い素質があってこそだ。
「よし、そろそろイっていいぞ」
今まで何度も何度も絶頂を迎える寸前で、イくな、という命令を出していた。
そのおかげで、夕映の秘裂は愛液でふにゃふにゃにふやけており、
微かに挙げる喘ぎ声も若干かすれてきていた。
が、俺の今の言葉を聞くと、ぱちくりと目を開き、
少し考える素振りを見せた後、星を出さんばかりに目を輝かせ始めた。
「はぁ……んっ……つ、強すぎですッ! んっ!」
強すぎと言い出したが、俺が強くしたわけではない。
夕映が動かした自分の手が強すぎるのだ。
顔を上気させたまま、一心不乱に、俺と夕映の唾液が混じった愛液がついた自分の指を動かし、
クリトリスといじり、胸を触る。
今まで何度も何度も寸止めを食らっていたせいか、一心不乱に快楽をむさぼろうとしている。
段々と息が荒くなっていく。
何度と無く見せられた、絶頂を迎えるときの兆候だ。
だが、俺はたった一回の許可だけで、素直にイかせてやるほど優しい男じゃない。
「あっ! い、いく、イくですッ!!」
夕映は体をのけぞらせ、足の先まで渾身の力を込めた。
息は断続的で、ひゅーひゅーと笛のような声をあげ……しかし、それでも性の高ぶりは最高潮に達しない。
多分、今の夕映が味わっているのは、背中に冷水をぶっかけられたかのような冷えた感覚だろう。
それもそのはず、俺は既に夕映に暗示を与えている。
今回の自慰行為のみにしか効果を発しない暗示だが、その威力はきっと大きいはずだ。
「なっ、なんでっ、なんでイけないですかっ!」
自分の身に理不尽に降りかかった感覚に、夕映は憤りを感じつつも、泣き始めた。
よっぽどイきたかったのだろう。
目の端に浮かべる涙は、大粒で、ぐしゅぐしゅと鼻水までならしている。
最高潮にまで達しようとしていたテンションが、
一気にだださがったのだから、そこには気持ち悪さも伴っているだろう。
放置プレイぐらいなら平然と喜びそうなドマゾな夕映でも、
気持ちよさが反転気持ち悪さになるのには我慢がならないはずだ。
「イく方法を教えてやろうか?」
俺はまるで迷える子供に道を教えてやろうとする天使のような穏やかな表情を浮かべて言った。
もちろん、俺が連れて行くところは天国ではない。
今日日、泥棒だってほっかむりをつけて家屋に侵入するわけじゃない。
普通に道を歩いていても、泥棒だとわからない格好をしているのは当たり前のことだ。
「ど、どうやればいいんですか?」
せっぱ詰まった状況では、人間誰しも藁をも掴んで助かろうとするだろう。
だから、影に潜む致命的な罠にも気づかない。
もっとも、今の夕映にはそもそも『気づく』なんて可能性はこれっぽっちもないんだけど。
「お尻の穴がスイッチになっている。
アナルにひとたび第一関節まで人差し指を差し入れれば、蓄積された快楽エネルギーが爆発するんだ」
そう、今までお預けされた分が収まらずに、だ。
「わ、わかったです……ひ、ひぐぅッ!」
「注意事項が一つ……って、もう遅いか」
夕映のアナルには、第一関節とは言わず、第二関節までずっぽりと夕映の指が突き入れられた。
同時に夕映は、失禁し、黄色い液体でアーチを作り上げた。
びくびく震え、異様な絶頂に襲われている。
「ああああああッ! と、とめひぇっ! とめへくらさいッ!!」
アナルにつっこんでいる方じゃない手で俺の服を引っ張り、絶頂地獄から逃れようと助けを乞う。
しかし、俺が助けるわけがないじゃないか。
快楽という名の濁流に巻き込まれ、溺れ、苦しんでいる夕映に対して、
指を差しながら、腹を抱えて笑うのが、俺の役目なのだ。
「あッ! あっ……あああああ……」
夕映が少し落ち着きを取り戻したようだった。
なんとか悦楽をやり過ごしたようで、呼吸を整えようと努力している。
「気をつけろよ」
「……はぁ……はぁ……」
「まだ終わりじゃないぞ? 何回イきかけたか、ちゃんとカウントしてたか?」
「……え? な、なにを……」
びくん、とまた夕映の体が揺れた。
夕映自身も信じられない、といった表情を浮かべており、恐怖に青ざめている。
しかし、次の決壊はわりとすぐに訪れた。
「ひっ、あぁぁぁぁぁッ! と、とめてっ、とめてくださいっ!」
体の奥底からわき上がってくる出所不明の快楽に、夕映は恐れおののいた。
俺の服の裾を引っ張りながら、助けを求めるように俺を見つめている。
恐怖と快楽によって体を震わせ、まるで俺を救いに来てくれた運命の人であるかのような目で見る夕映。
だけど、俺はそれをにやにや笑いを隠そうともせずに傍観するだけだった。
「ひぃぁ! ま、また、くるくるくるっ! ダメです、イっちゃうッ!!」
ほんのわずかな膨らみの胸を、けなげに微かに震わせて、夕映は身もだえる。
開脚器をつけられているために足を閉じることもできず、
まるで目に見えない快楽を押しとどめるかのように、秘裂に手を押しつけながら。
「たすけっ! 助けてっ、のどかっ! のどかーっ! 助けて……」
のどかに対して必死に助けを求めるが、もちろんここにのどかはいないし、
いたとしても、どうしようもないだろう。
この絶頂の連続は、俺がエドのいにっきの記述を消すか、
それとも最後まで絶頂し続けるかしないと解除されない。
「怖いっ! 怖いです! た、たすけ、助けてくださいっ!
たすけて……ネギ先生……」
……。
のどかの中のネギの記述は消したが、夕映には、色々と遊べるかな、と思って消さなかった。
消さなかったことがこんなこになるとは、あまり考えていなかった。
俺の失敗だ。
心の奥底から、冷え冷えとした感情が浮かんでくる。
感情を色で表示するなら、今抱いている感情は間違いなく黒であることが断言できる。
一言で言えばむかつく。
もっと複雑に言えば、俺の女に手を出しやがって、ネギの野郎め、許しちゃおけねえ。
……いや、むしろ手を出しているのは俺だ。
ただ、それは飽くまで客観的な視点で言った場合だ。
この件に関与していない第三者が見れば、間男は俺というべきだろう。
が、しかし、俺の主観で言えばネギの方が間男となる。
「……」
論点がずれた。
ちょっと思考が混乱してしまったが、大丈夫、潜入工作員はうろたえない。
とにもかくにも、今回の出来事に対しての俺のスタンスは「ネギは許せない」というものだ。
ひいては、ネギなんかに助けを求める、夕映にはいくらかの罰を与えなければならないだろう。
とはいえ、俺も少し夕映に対して辛いことをしすぎた。
鞭ばかりではなく、少しは飴を与えて、ネギなんかよりも俺の方がすばらしいということを教えこむとするか。
俺は右手の人差し指を夕映のアナルの入り口に添えた。
「な、何をするですか?」
ひきつけをおこしかけている夕映にそっと体を寄せる。
目尻に涙を浮かばせながら、きょとんとしている姿は、悔しいけれど愛らしく感じる。
ぬっと人差し指をアナルに刺したと同時に、キスをした。
夕映は再び体を痙攣させて、絶頂を迎える。
けれども、今度は夕映の心を傷つけるような攻撃的な絶頂ではなく、
心の奥底から安心がこんこんと湧き出てくるような絶頂だったはずだろう。
ただ単純に俺とのキスをスイッチにしただけだが、
夕映からは俺とのキスは凄く気持ちいいものと錯覚して感じられるはずだ。
あれだけ弱々しく震えていた夕映は、少しずつ平静を取り戻していき、
俺の服の裾を掴んでいた手の力もゆるみ、俺を抱きしめるようにしてきた。
好き勝手に嬲っていただけだったが、夕映はなんとか俺に答えようと、
まだうまく動かないだろう舌で、俺の舌に触れてきた。
かちかちと歯と歯が当たって、多少痛い気がしないでもないが、
俺としてはこの程度の痛みくらいどってことないし、
夕映は痛みを感じる余裕すらないようだった。
もっともっと楽しみたかったが、次の段階に至るまであと数秒というところだ。
そっと体を離すと、夕映は悲しそうにしがみついてきたが、それもふりほどく。
「春原、さん……」
そして最後に、俺の名をつぶやいて、突然ばたりと倒れた。
時間通り、ジャストのタイミングだ。
もう少し味わいたい気もするが……そろそろのどかがやってくる時間。
片づけなどをしなければならないので、そのための時間はどうしても省けない。
幸せそうな表情で、くたーっと眠っている夕映を見つつ、
綺麗な水で満ちたバケツから、雑巾を取り出し、愛液や小水の後始末を始めた。
……のどかが予定より早く来たら、のどかにやらせようかな。
残念ながら、のどかはきちんと俺の命令を聞き、時間より早く来るということはしなかった。
そのおかげで、俺は今日だけで十数回目となる掃除をしなければならなかった。
とはいえ、なんとかやりたいことはやり終わった。
細工は流々、後は仕上げをごろうじろ、ってなもんだ。
服をきちんと着せ、整えた後、夕映を抱えて寝室のベッドの上に運び込む。
不自然になるところは極力消して、エドのいにっきを取り出し、多少の記憶操作を行い、
同時に覚醒を促した。
「ん……あ、あれ?」
「よかった。起きたんだね。無事で良かった。
気分はどう? 気持ち悪かったりしない? 異常なほど体がだるかったりとかは? 頭痛はする?」
「え、あ、えっと……」
「ああ、ごめんごめん、いっぺんに聞きすぎたね。配慮が足らなかった。
大丈夫、起きる必要はないよ。そのまま寝てていいから……」
これもまた今日にいたって何度も何度もやったやりとりだ。
しかし、全てがリセットされたわけではない。
記憶操作されたとしても、深層心理には消しがたい潜在的な記憶が残されている。
数回前からそうだったが、今や夕映の顔は真っ赤に染まっている。
俺の顔を見るたびに、恥辱の記憶が断片的に蘇っているのだろう。
ただ、その記憶は存在しないものである、と理性は認識する。
なら浮かび上がってきた破廉恥なものは何か、と考えたら、
それはすなわち、『妄想』という形で認識されるはずだ。
わかりやすく言うと、夕映は俺の顔を見るたびに、
今まで考えたことのないような恥ずかしいことをしている妄想にとりつかれるわけだ。
アナルの処女は既に俺の手によって奪われ、浅ましくよがっていたものの、
まだまだ心は清純な思春期真っ盛りの乙女の夕映にとって、それは恥ずべきことであることは確かだ。
「大丈夫? 体に違和感はない?」
「……えっ、あ……だ、大丈夫です……」
夕映の顔は完全に朱に染まり……夕映自身もそれを認識しているのか、
シーツで顔を隠そうとしている。
とりわけ、気絶する直前には恋が芽生えてもおかしくもない感情にとりつかれていたわけだから、
その恥ずかしさは相当なものだろう。
「よかった。
起きて早々悪いんだけど、ここに拇印を押して貰えるかな?
君はもう立派に魔法を使えるようになった。
この紙は、適正を調べるもので、この後の魔法を学ぶ進路を決めるものだから……ね?」
そういって差し出したのは言うまでもなくエドのいにっき。
同時に出した朱印には、俺の血が混ぜられている。
「は、はい……」
事前に操作をしていたため、夕映は恥ずかしがりながらも、親指を朱印に押しつけて、
エドのいにっきの契約印欄に拇印を押した。
これで、ミッションはコンプリートだ。
あとは、お楽しみタイムの始まりとなる。
拇印を押す直前の夕映は、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めていたが、
拇印を押してからは、顔を真っ青にした。
今までかけられていた暗示が全て消え去ったのだ。
それが一体何を意味するのか。
「い、い……いやああああああああああああッ!
ひああああああああああああああああああッ!」
半狂乱になって夕映は頭をかきむしり、顔をうつむせた。
パンドラの箱は開けられたのだ。
薄いベールのように夕映の意識上から消え去られていた、
今までの調教の結果が、まるで海底都市ルルイエのように狂気を伴い、浮上してきたのだ。
夕映にとっては寝耳に水だろう。
まるで犬のような振る舞いをされたあげく、尻穴を調教されたり、
自分からねだるようにアナルの処女を捧げたり、
オナニーをさせられたりしたことなどを、一片にやられた思いがするのだから。
ひとしきり叫んだ夕映は、恐怖に脅える目で顔を上げた。
俺はそれに対して、相も変わらず穏和な表情で答えてやる。
「ようこそ、裏の世界へ。
現実世界からは巧妙に隠された、陰謀術数が渦巻く闇の世界へ。
もう二度と戻れない……いや、それどころか直に戻りたいと思うこともなくなる世界へと」
「く、くるなっ! 近づくなですっ! わ、わたしに近づくなですっ!」
「君もリスクを承知でこの世界に足を踏み入れようと思ったんだろう?
まさか、魔法の存在する世界は、清廉潔白だと思っていたのか?」
楽しい。
楽しすぎる。
夕映をいじめるのは凄く楽しい。
こんなアホっぽい言葉を連ねるだけで、まるで暗闇に意味もなく怖がる子供のように脅える。
ベッドの上からはいずって逃げることすらもできないらしい。
それをいいことに、俺はじわりじわりと近づいていく。
「ち、近づくなですっ! や、やっ……近寄らないでくださいっ!」
「逃げられるとか思っている? でも残念、もうどんなことがあろうとも逃げられない。
唯一逃げる方法は死ぬことだけど、死ぬことすら許さない」
「や、やだぁっ! のどかっ、のどかーッ!」
さっきまで快楽にむせび泣いていたというのに、今度は恐怖にまみれて泣き始めた。
けれどやってることは大して変わらず、相も変わらず呼ぶのはのどかだ。
今度はちゃんとネギのことは呼ばないように設定しておいた。
「でもまあ、何のチャンスも与えずに手込めにするのは卑怯かもしれないな。
二分だけ待ってやる。その間に逃げてもいいよ。ただし、足腰ろくに立たないと思うけど」
ぱん、と手を叩くと、夕映は床に転げ落ちた。
手を叩くと同時に特殊な魔力が飛び出て、上半身だけ動くように設定が書き換えたのだ。
「ひいいいいぃぃぃッ!」
夕映はそのまま這っていく。
半分開いていたドアを抜け、ずりずりと廊下に出て行く。
もちろん、きっちり二分待つつもりはない。
牛歩よりも遅い夕映の後を、気づかれないように追いかける。
夕映は屋根裏部屋まで行くつもりだろう。
あそこから入ってきたのだから、あそこから出ると考えるのが普通だ。
この空間から出るためには、この中の空間における一日のうち一度しかないことと、
それは四時間前に過ぎてしまったことも知らないのが哀れだと言える。
夕映が屋根裏部屋へと繋がる階段までたどり着いたときに、わざと足音を立てて近づいていった。
「残念、タイムリミット」
「い、いやっ! いやあああああ、く、来るな、来るなですッ!」
「ほらほら、早く行けよ。ゴールはすぐそこだぞ」
「あ、ああああああああっ!」
夕映は狂乱して階段を這って上がっていった。
魔法陣がうんともすんとも反応しないことに、絶望しきったところを見てから、
夕映を捕まえようと思っている。
が、夕映が屋根裏部屋まで後二段というところで、屋根裏部屋の扉が開いた。
「え?」
「え?」
まさか、魔法関係者にバレた?
いやいや、そんなことはないはず……。
生半可な相手ならば負けるつもりはないが、
普通の偽装に加えて、俺が更に偽装魔法をかけたあの隠し部屋に入り込むほどの魔法使いならば、勝負はわからない。
夕映を人質に取れば、勝負は五分五分か?
まさか、タカミチか?
いや、やつは確か今海外出張……恐らく魔法関連のそれだ。
だったら、勝ち目はまだ……。
「のどかっ!」
扉から姿を見せたのは、タカミチでなければ他の魔法関係者でもなく、のどかだった。
思わず、ほっと胸をなで下ろした。
負けないにしろ、魔法関係者を相手取るようなことはしたくない。
俺もほっとしたが、夕映はもっとほっとしたらしい。
知った顔を見たことが、とても安心することだったらしい。
「のどかっ! のどかっ!」
這いずる力がより一層強い力になり、夕映はのどかの背中に隠れるように這っていった。
のどかが、力を持つ強大な魔法使いかなんかと勘違いしているのか、と一瞬思ってしまった。
「こっ、これで形勢逆転ですっ! か、覚悟するです」
あまりにも驚かしてしまったらしい。
相当頭がいっちゃってるらしく、正常の思考なんてこれっぽっちもできていないみたいだ。
何が形勢逆転なのかさっぱりわからない。
例え、のどかが俺の手駒になっていることを知らなくてもだ。
のどかはすり寄ってくる夕映を見て、何を起こっているのかわからない、といった表情を浮かべていたが、
俺と目を合わせると、俺の言わんとしていたことがわかったらしい。
「大丈夫、ゆえ、立てる?」
「こ、腰に力が入らなくて……立てないです」
「そう? じゃあ、だっこするねー」
のどかはゆっくりと夕映を持ち上げた。
それほど力のないのどかだが、小柄な夕映の体くらいは持ち上げることができるらしい。
俗に言う、お姫様だっこという形で夕映を持ち上げたのどかは、
俺に向かってにっこりと笑って、そのまま階段を下りてきた。
「の、のどか、違うです! 反対ですっ! 屋根裏部屋から、外にっ……」
「ううん、こっちでいいんだよ、ゆえ」
「違うですっ! そっちには、あの男がっ……」
のどかに向かって抗議の声を上げる夕映だが、
ついに階段を下りきったら、まるで油が切れた機械のようなぎこちなさでこちらを見た。
「よくやったな、のどか。
親友を売ることができる、ということを見事証明させてみせた」
「ありがとうございます、春原さん」
俺はのどかから夕映を受け取った。
お姫様だっこは継続したままだ。
意外や意外、騒ぐかと思っていた夕映は、俺のことを見ながら黙っていた。
じっと身を固めて動かず、信じられないとばかりに目を丸くしている。
「ふふ、ごめんねー、ゆえ。
私も、春原さんに色んなことをされちゃって。
でも、心配しないでね。すぐにゆえも……私と同じになれるから」
のどかが黒い性格を露わにしたわけではない。
ただ単純に、夕映が俺に抱かれることを、夕映にとって良いことだと思っているのだ。
サプライズバースディパーティでもしているかのような気安さなのだ。
のどかがそのまま俺にキスをねだったので、それに答えてやる。
俺の腕の中で硬直している夕映は、その光景を見ているはずだ。
目の前で繰り広げられる衝撃的なシーンに対して、はたしてどんな感想を抱いたのか。
「さあ、行こうか。寝室へ」
「ふふ、ゆえもいーっぱい春原さんにエッチなことされちゃうんだ。
きっとゆえは『いやっ』て言って暴れるけど、春原さんにそんなことお構いなしに中だしされちゃうんだ……」
泣き叫びながらも俺に犯される夕映を想像したのか、
はたまたその犯される夕映に自分を投影したのか、のどかは艶っぽい声を出して、勝手に発情しはじめた。
エロいのはいいが、こうもホイホイされるとそれはそれで問題だな。
今まではよかったけど、外に出したときもこうなったらまずいから
後でエドのいにっきで調節をしよう。
黙ってくれて色々と手間が省けた夕映を、寝室に運ぼうとしたとき、
腕が何か生暖かい感触を感じた。
「も……もったです」
……。
いや、確かに脱水症状になることを防ぐため、水を多めに飲ませていたよ。
だけど、この子、一体どれだけお漏らしすれば気が済むのか。
なんかもう頭が痛くなって……。
……。
そうだ、今度おむつプレイをしよう!