このか編 第1話

 全ての準備をし終えて、計画は始動した。
 ゆえやのどかを含む四人に必要な暗示を埋め込み、その後、起こした。
 四人は自分らが暗示を埋め込まれたことに気づかず、まるで最初からそうであったかのように振る舞っていた。

 その後、刹那を一人部屋に残したまま、木乃香を別室に連れ込んだ。
 そこでやったことは、木乃香のトラウマの除去だった。
 催眠をかけられた刹那になじられながら木刀で殴られた記憶は、
 木乃香の精神を崩壊させかねないものだからだ。

 ただ、完全に記憶を消去したわけではなく、事実は事実としてとってもらうことにした。
 自分が刹那に殴られたことを忘れずに、しかしその記憶を無害化させたのだ。

 木乃香にとって、刹那に傷つけられた記憶は、
 どこか聞いたことのない国で起きた飛行機事故を知らせるニュースのようなものになっている。
 確かに悲惨でむごたらしいものだが、それを聞いて涙を流したり、想像して深い悲しみに囚われない。
 そんな感じに。

 この処理は、より有機的な暗示が必要なのでちゃんと覚醒状態でないと行うことができない。
 なので、寝ている状態でやることはできなかったってわけだ。



 そして、精神状態が元に戻った木乃香を抱いた。
 しきりにせっちゃんせっちゃんとわめいていたが、さしたる抵抗もできなかった。
 刹那のように腕力を鍛えているわけでもなく、いつものような魔力を持っているわけでもなし、
 両方持っていても契約暗示に縛られている以上どうしようもないが、
 まあ、とにかく、俺としては初物を存分に味わうことができた。

 その後が本番だ。
 髪の毛をわざと引っ張って引きずるような感じで、木乃香を連れて、再び刹那のいる部屋に入った。
 刹那の部屋は、俺に植え付けられた暗示によって、部屋のちょうど中心に見えない壁があるように設定されている。
 だから、部屋の右半分でしか刹那は動けない。
 もちろん、俺や木乃香、のどかにゆえなんかは自由に行き来できる。

「やあ、刹那、気分はどうだ?」
「……最悪だ」
「そうかそうか、そいつは最高だ。
 お前が最悪の気分に浸っているとわかったら、胸がすっとするね」
「……ッ」

 実質、この部屋に閉じこめられている刹那は、悔しそうに目をそらした。
 俺のすぐ脇に立つ木乃香には特に目を向けられていなかったようだった。
 ひょこひょこ不器用な歩き方をしているところを見ると、辛そうに目を伏せた。
 予想はしていただろうが、実際に目にすると我慢できなかったようだ。

「さて、今回ここに来たのは……木乃香から刹那に伝えたいことがあるそうだ」

 木乃香を床の上にそのまま座らせる。
 刹那もまた同じように床に座らせたら、俺はのどかの差し出した座椅子に座る。

「ほら、言えよ、木乃香」

 優雅に肘をたて、その上に顔を載せて尊大に言った。
 木乃香は部屋に入る前から真っ赤だった目から涙を流しながら、
 かすれる声でぽつぽつと語り始めた。

「ご、ごめんなぁ、せっちゃん。ウチ……ウチ……
「もっとはきはき言えよ。最初から、どんなことをしたのか、細かく刹那に報告してやれ」

 有り体に言えば、エロ報告をさせるつもりだった。
 ただ目の前で陵辱するのを見させられるよりも、木乃香本人の口から伝える方が、
 刹那に対しての精神ダメージが大きいと考えたのだ。

 逆に、木乃香にとっては実際に見られるより、自分の口から語った方が精神ダメージは少ないだろう。
 記憶水晶に陵辱シーンを録画しており、
 自分の口から語ることを拒否したら、この水晶を使って刹那に見せつけるぞ、と脅す材料にしてある。

「ほら、俺が心優しい提案をしたところから、早く伝えてやれよ。
 刹那も早く聞きたいって顔してるぞ」
「う……うう……あ、あの人が……」
「あの人なんて言うなよ。つれないな。春原でもタマでもいいが、愛情を込めて呼べよ」
「は、春原さんが……その、ウチと取り引きをしようって……それで……」
「取り引きじゃあないな。
 取り引きってのは対等なモノ同士がする行為だ。
 もちろん、俺とお前は対等じゃないから、
 上に立っている俺が、下にいるお前に特別にチャンスをやったんだ。
 言葉に気を付けろよ」

 一番辛いのは口の開き初めで、一旦しゃべり出したら存外楽に言葉が出てきてしまうものだ。
 だから、わざと何度も何度も口を挟んで告白を途切れさせる。
 木乃香はうまくいかないことに涙を流しながらも、続けた。

「ご、五分の間……一回もその……き、気をやらなかったら、ウチとせっちゃんを解放してくれるって……」

 まだ処女を奪う前に、木乃香にした提案がこれだ。
 精神的ショックから立ち直り、改めて自分のいる立場を教え込んでやった後、
 この些細なチャンスを与えてやった。
 俺が五分間体を好きにいじくっている間、一度もイかなかったら解放してやる、と。
 拒否出来ない提案に木乃香は乗った。

 もちろん、五分間のカウント開始の後、すぐに即効性の媚薬を塗りたくっていじったので、
 あっという間に終わってしまった。

「それで……ごめん……ウチ、ウチ……我慢できなくて……負けちゃったん……」
「その言い方じゃダメだな。もっと具体的に言わないと、刹那に通じないぞ」

 木乃香は、本当に悲しそうな顔をこちらに向けた。
 無言で俺の慈悲を乞おうとしているので、俺はそれに答えるために足を組んだ。
 ついでに、両肘をつき、手と手を組んで、深く息を吸い、肺の奥底から言った。

「駄目だ」

 俺の思い描いている計画では、このときの木乃香は泣いていなければならない。
 俺という外道に酷いことをされ、辛い思いをしているということを示さなければならないのだ。

 木乃香個人に俺としては恨みはない……まあ、そんなこと言っちゃったら本当は刹那にも恨みはないんだが……
 こんな辛い思いをさせようという意思はない。
 けれども、この行為によって、刹那の精神にぐさぐさと傷を負わせることが出来る。
 それがとてつもなく楽しいんだからしょうがない。

「ふ、服を脱がされて……そ、その、あそこに、とろとろした透明の液体を塗られて……」

 もっと直接的に且つ下品に言え、と言おうかと思ったが、まあいいや、と思って続けさせた。
 現段階では、それほど気にする必要はない。
 最初は大人しめの方が、落差がついていいかもしれない。

「い、いじられて……それで、負けてしもうたん……」

 が、これは看過出来なかった。
 どう何をいじられたのか、全く言っていない。
 そこが肝なんじゃないか、そこを詳しく言わなければ、
 聞いている人間に全く伝わらない。

「もっと詳しく言え。
 お前は、どういじられたんだよ。
 ちゃんとそこを具体的に言わないと、刹那に伝わらないだろ?」
「くっ……その、春原さんの……指で、あ、あそこを軽くつつかれたり……
 い、いれられたり……その、お、お豆をくりくりってつままれたりしましたッ……ううっ……」

 また木乃香がポロポロと涙を流し始めた。
 よほど辛かったのだろう、鼻をすすり、声が完全に涙声になっている。

「それで、どのくらいでイったんだ? それを教えてやれ」
「……よ、四分、三十五秒です……」
「嘘つくな、二分十二秒だっただろうが」
「……ッ!」

 木乃香がまた俺の顔を見た。
 小声で酷い、酷いとしきりにつぶやいている。

 木乃香が別に時間をごまかしていたわけじゃない。
 かといって、俺も嘘を言っていない。

 実際に、木乃香は二分十二秒で呆気なくイった。
 しかし、俺は気づかぬふりをして、二分二十五秒のときに、
 「もう半分が過ぎたな、折り返し地点だ」と言って続けたのだ。

 木乃香は俺が気づいていないものかと思い、そのまま継続していじられた。
 ただ、イった直後の敏感な状態であったため、二度目三度目……とほぼ連続してイき続けた。
 それで、四分三十五秒のときに潮を吹いたのを最後にしたのだ。

 わかっててわざとやったことが露見して、木乃香は俺の残忍さを思い知ったわけだ。

「そして、その後、どうなったんだ?
 刹那に教えてやれよ、記念すべき瞬間だろ?」
「せ、せっちゃん……せっちゃん、ごめん……。
 ウチ、ウチ……は、春原さんに……」

 木乃香は息を飲んだ。
 それを、見えない壁で遮られている刹那は、悲痛な表情を浮かべながら見ていた。

「……抱かれました……」

 木乃香はその場で崩れ落ちるように泣き始めた。
 さめざめとした泣き声が響く部屋で、刹那は唇をかみしめて俺を睨んでいた。

 ああ、気持ちいい。
 刹那の殺意の籠もった視線が、心地いい。
 思わずニヤニヤした笑みを浮かべてしまいそうだが、
 それをやったら俺が下品な人間に思われる可能性があるので、ぐっと我慢した。

「夢のような経験だったろ?」
「……」
「おい、どうなんだ、木乃香?」

 追い打ちに対して、木乃香はそっと顔を横に振った。
 が、それは拒絶の意味ではなく、心の中の重しを取り払うための精神的な発起だったらしい。

「はい」

 小さく、そう言った。
 無理矢理言わせたわけじゃない。
 本当にそうだったのだ。
 最初こそ嫌がっていたモノの、媚薬を塗られ、
 暗示を埋め込まれた木乃香が快楽に落ちるのは、一回の性行為の間で十分事足りた。

 その証拠だってある。

「それで、その後、どうしたんだっけ?」
「誓いの言葉を言いました……」
「あーあー、そうだったそうだった。
 なんて台詞だったっけ? 俺も忘れたし、刹那も知らないだろうから、もう一度ここで言ってみろよ」

 わざとらしく言う。
 懐にしまっておいた記憶水晶のうち、一つに指を触れる。

「い、言えません」
「ん? そうか、木乃香も忘れたのか。
 じゃあ、しょうがないな、録画しておいたこの記憶水晶を使って、見てみようか」
「! い、いやっ! 約束が違うやんかっ!」
「別に約束に違えていないだろう?
 お前がちゃんと刹那に向かって報告していないんだからな」
「わ、わかった。わかったから……せっちゃんに、それ、見せんといて……」

 記憶水晶を手の中に入れ、そのままテーブルの上に載せる。
 軽く持ち上げて、こんこんと机を叩く。

 木乃香は何度も何度も細かい深呼吸を繰り返し、覚悟を決めたのかゆっくり語り始めた。

「ウ、ウチのおっぱいも、お尻も、あ、あ、あそこも……
 全部、全部……さ、ささげます。
 ウチの体は全部、春原さんのモノです。
 春原さんが、求めるなら、どんなときでも春原さんの好きにつこうてもええし、
 春原さんが許可してくれないのなら、お、オナニーや、は、排泄行為もしません。
 ウチは、一生、春原さんのモノ……です……」

 コンコンと記憶水晶で机を叩いていたのを止める。
 記憶水晶を引き寄せ、膝の上あたりに手を広げて、記憶水晶をもてあそぶ。

「やっぱり、再生するか」
「や、約束が……」
「約束を持ち出すなら、最初っから正確に言えよ。
 俺の堪忍袋は、それほど大きいものじゃないんだぞ、いい加減にしろ」

 多少語調を強くして言ったので、木乃香はひっと震えた。
 俺がいらだっているように見せるため、記憶水晶でコンコンと叩くスピードを速くした。

 ヒックヒックとしゃっくりをしながら、木乃香はもう一度、誓いの言葉を繰り返した。

「ウ、ウ、ウ、ウチのおっぱいも、お尻も……お、おまんこ、も……
 全部、全部、ささげます。
 ウチの体は全部……春原さんのモノです。
 春原さんが、求めるなら、どんなときでも春原さんの好きにつこうてもええし、
 春原さんが許可してくれないのなら、お、オナニーや、お、おしっこやうんちもしません。
 春原さんが命令するなら、お、おとうはんやおじいちゃんとも、せ……せ……セックスします。 
 ウチは、一生、春原さんの奴隷……です……」
「最初からそう言えよ。いらない世話を焼かすな。
 ……それで? それからどうした? 刹那に教えてやれ」
「また……春原さんに……抱かれました」

 再び記憶水晶を手の中でもてあそんだ。
 記憶水晶の表面は傷一つなく磨き上げられている。
 軽く魔力を流すことによって、中に保存されている映像が流れるマジックアイテムなのだ。

「それで?」
「春原さんに、抱かれて、何度も何度も中に、出されて……激しくイきました」
「それからどうした?」
「それから……それから……ここに、来ました……」

 俺は手の中の記憶水晶のスイッチを入れた。
 部屋の中央辺りに、木乃香のホログラムがうつる。
 最初の数秒は声は出ないし、ホログラムも動かない。

「やっ、やあああああっ! いやあああああっ!」
「静かにしろ、木乃香」
「……ッ! ……ッッ!!」

 叫び声を上げて、これから記憶水晶から放たれるであろう誓いの言葉をかき消そうとする木乃香に命令をする。
 それでも尚、声にならない叫びをあげようと必死に木乃香はもがいていた。

 でも無駄だ。
 スイッチの入った記憶水晶は、俺ですらもう止められない。
 いくら抵抗しようとも、ホログラムは刹那の目にさらされる。

 ホログラムの木乃香は、ベッドの上に座ったまま、大きく足を開き、
 自分の手で胸と秘裂を刺激しながら、淫欲に支配された甘い声で、誓いの言葉を言った。

『ウチのおっぱいも、お尻もおまんこも全部、全部、ささげます。
 ウチの体は全部、春原さんのモノです。
 春原さんが、求めるなら、どんなときでも春原さんの好きにつこうてもええし、
 春原さんが許可してくれないのなら、オナニーや、おしっこやうんちもしません。
 春原さんが命令するなら、おとうはんやおじいちゃんとも、セックスしますッ。 
 ウチは、一生、春原さんの奴隷ですッ。
 言いましたッ! 誓いの言葉を言ったから、早くウチのおめこに春原さんのおちんちんいれてぇッ!!』

 最後はゆっくり覆い被さる俺と、その俺の首もとに飛びついて熱いディープキスをする木乃香が写って、
 記憶水晶の映し出すホログラムは消えた。

 木乃香は、その場にくずおれた。
 顔を地面に伏せ、ただ泣き声だけを漏らしている。

 刹那は一方呆然とした表情をしていた。
 そりゃそうだろう、木乃香の言葉からだと、
 まるで俺が無理矢理誓いの言葉を言わせたかのような印象があった。
 けれども、今見せた記憶水晶の映像では、全くの逆。
 いやいや言うどころか、むしろ絶叫に近い感じで誓いの言葉を言いはなっている。
 そして、その誓いの言葉の後には、誓いの言葉を言ったことによるご褒美すらねだっている。

 今現在、自分の恥部を公開されたことにより泣き叫ぶ少女と、
 記憶水晶が映し出した少女とが、同一人物であることすら刹那は疑わしく思っているだろう。

「ほら、泣きやめよ、木乃香」

 これは命令だった。
 めそめそと泣いていた木乃香は、契約暗示に縛られて、強制的に涙を止められた。
 椅子から立ち上がり、木乃香の背後に中腰になり、髪の毛をひっぱって、顔を上げさせる。

「俺はちゃんと説明しろ、って言ったよな?
 なんで、その説明をしなかったんだ?
 お前がそれをしなかったせいで、俺は記憶水晶のスイッチをいれなきゃならなくなったじゃないか」
「……うっく……えぐっ……ひどい……ひどすぎや……なんで、こんな……」
「酷いのはこの後だ。
 こんな簡単なこともできないんだ。
 次からはちゃんと出来るように、体の奥底まで徹底的に教え込んでやる」
「もうッ……もうやめてくれッ!」

 刹那が叫んだ。
 頭をかきむしり、肩で息をしながら、俺を見た。

「もう気が済んだだろう!
 いくらこのちゃんに酷いことをすれば気が済むんだッ! この人でなしッ!」
「……木乃香。
 あそこにいる役立たずの護衛が俺に暴言を吐いたから、
 この後は予定より二倍のコースでお前をしつけてやる」
「やめろッ! やめてくれッ! もう、もう本当にこのちゃんに酷いことしないでくれッ!」

 俺はゆっくり立ち上がった。
 二メートルも離れていないところにいる刹那に向かって一歩踏みだし、
 またしゃがんで目線を合わせる。

 最初っから全く学習しない刹那に向かって、今回の『出し物』のフィナーレを切り出す言葉を放った。

「お嬢様を守ることのできなかった護衛がよく言うよな。
 第一、そんな偉そうなこと言ってるが、お前も木乃香が犯されているのを見て、興奮したんじゃないのか」
「……ッ! ばかげたことを言うなッ! そ、そんなことあるわけがないだろう」
「じゃあ、立てよ」

 立て、というのは命令だった。
 刹那は必死に抵抗しようと手をばたばたを振るわせたが、契約暗示の前には無力だ。
 この部屋に置いていった直前に刹那の服を脱がしておいたので、刹那は服を着ていない。
 そのまま立ち、手を両方上に上げ、足を軽く開いた。

 刹那の秘裂から、とろりと銀色の液がいくつもの軌跡を描いてたれている。
 感じている、というレベルではなかった。

「……なんだ、興奮していないのか。
 ん? 興奮……くくっ……興奮してないのか?」

 笑いをかみ殺すような感じで言った。
 再び木乃香の脇に立ち、木乃香の頭を上げさせて、立った刹那を見させた。

「ほら、木乃香、見てみろ。
 あれで刹那は興奮してるのか? 小さくて……ぷぷっ……興奮しているのかどうかわからん」

 刹那は顔を真っ赤に染め上げていた。
 木乃香は、一度二度、ちらちら見たかと思うと、さっと顔をそらした。

「し、知らへん……」
「おいおい、知らないってわけないだろう。
 お前、刹那の幼なじみだったんだろう? だったら、あれが興奮しているのかそれとも素の状態なのかわかるはずだ」
「ほ、本当に、知らないんや」

 木乃香が知らないのは本当だ。
 そういう風に設定したんだから。

 木乃香が知らないならば、と俺は刹那本人に聞くことにした。

「おい、刹那。くくくっ……お前の、その、モノは、その……臨戦態勢状態なのか?」
「……ッ!」
「言わないと木乃香が酷い目に遭うだけだぞ」
「……違う……」

 刹那は苦虫をかみつぶしたかのような表情で言った。
 誰の目から見ても嘘だが、どうせ嘘なら本人の口から嘘と言わせたい。

 そして、嘘と言わせるのは、俺には簡単にできる。

「今のは本当か?」
「嘘だ」

 契約暗示が埋め込まれている以上、嘘なんてつけないことをまだわかっていなかったようだ。
 俺の命令に従い、詰まり詰まり言っていたさっきとは違い、するりと「嘘だ」という言葉が出た。

 俺はその場で馬鹿のように笑い転げた。
 手で床をばんばんと叩き、ひきつけを起こしたかのような呼吸をし、
 地面を転がって、笑った。

 気違いじみた所行だが、この場で俺を止める人間はいない。
 ただただプライドを激しく傷つけられている人間なら、一人いる。

 笑いをこらえるふりをしながら、ゆっくり立ち上がり、
 刹那の領域に入りこんで、刹那の肩をたんたんと叩いた。

「い、いやっ……ぷっくく……す、すまんすまん。
 そ、その……ぶっふ……き、気にするなよ。
 『男』の価値は、な、ナニの大きさじゃない、っくくくく……じゃないからな。皮かむり君」

 そういって再び俺は笑い転げた。





 これが、俺が与えた誤認暗示だ。

 刹那は男である、という極めてシンプルな暗示だ。

 もちろん、刹那の体は変わっていない。
 以前のまま、胸が多少ないとはいえ、立派な女の体をしている。

 しかし、この場にいる俺以外の人間、のどかも、ゆえも、木乃香も……
 そして刹那本人も、男だと思っている。
 この暗示をかけられている人間は、刹那の体を見ても、男のそれと認識する。
 刹那の体には架空の一物が存在し、それはさっき俺が見せた反応からわかるように
 真性包茎で、極めて重度の短小なのだ。
 また、この処理にはエドのいにっきに高度な連動暗示プログラムを走らせて行っている。
 刹那の一物の幻は、四人で同一のものを共有しているのだ。
 だから、一定の快感の水準……極めて低い水準を越えると、射精するが、
 その射精した刹那の一物の幻覚は、それを見ている人間に共有されるわけだ。
 いやー、このプログラムを構築するために相当苦労した。
 大きな紙に何度も何度も書き込んで、よりリアルに体感できるようなものを作った。
 時間が思ったよりも大幅にかかってしまったが、その分、試験という形で俺も見てみたが、
 この俺でも唸るような出来だった。

 この処理を行っているので、木乃香達がこの部屋にいるときにはエドのいにっきが使えない。
 今までアーティファクトを使ってどうでもいいことをしまくっていたが、
 今回ほど高度に使いこなしているのに、どうしようもないアホなことをやっているのは初めてだ。
 まあ、楽しいから問題ない。

 刹那と木乃香は幼なじみの恋人関係であるというのもポイントだ。
 だからこそ、木乃香は、刹那に向かって「抱かれました」と言ったのが、凄く重いモノであり、
 俺によって思いっきりよがらされている姿を見せるのを拒んだというわけだ。





 俺は笑っているふりを続けながら、立ち上がって木乃香の手を取った。
 木乃香は俺が命令すると、幽鬼のように立ち上がり、のそのそと歩く。

「じゃあな、刹那。これからゆっくりと木乃香と楽しいことをしてくる」
「……」

 刹那はプライドをずたずたに引き裂かれたこともあって、何も言わなかった。
 ただ、悲しそうに木乃香の背中を見ているだけだ。

 俺は木乃香をひきずるにように引っ張り、部屋のドアを開き、廊下に出た。
 ドアを閉める直前、恨めしそうにこちらを見る刹那に、しばしの別れの挨拶をした。

「また、木乃香に報告させるからな。
 それまで、その小さなモノでマスでもかいてまってろよ」

 ドアを閉じた。

 部屋の外に置いておいたエドのいにっきを閉じる。
 走らせていた暗示プログラムはエドのいにっきのリソースを激しく食うため、
 別のことに使うのには一旦閉じて、再起動させる必要がある。

 といっても、刹那の幻の一物が消えたわけではない。
 木乃香やのどかやゆえには今は見えないが、刹那だけは別の暗示によって、一物が見えている。

 さてさて、恐らく、刹那は俺の言ったとおり、激しくマスをかいているだろう。
 部屋の中に自分一人になったとき、想像力と性欲を倍増させている。
 さっきまでの木乃香の告白をオカズに、猿のように自慰行為に浸っているはずだ。

 ついでに時間感覚も鈍くなるように設定してあったので、
 俺らが今度また来るまで、刹那は本気でマスをかきっぱなしだろう。

 かわいそうだな、刹那。
 お前が一人空しく遊んでいるとき、お前の恋人は俺によって開発されているんだからな。



「ゆえ、地下室に行って、必要な道具を持ってきてくれ」
「何を持ってくればいいですか?」

 ゆえを引き寄せ、耳元で持ってくる道具を囁く。
 悪戯で軽く耳をかんでやると、ひゃっと飛び退いた。

「な、なななななな、何するですかっ!」
「うはは、ちょっとした茶目っ気だよ、許せ。
 あー、のどかは冷蔵庫から牛乳を出して、人肌程度に暖めといてくれ。
 初めては、少しくらい優しくやってもいいだろうしな」
「わかりましたー」

 のどかとゆえはそれぞれの方向にぱたぱたと小走りに向かっていった。
 俺は木乃香の腰を抱き、風呂場に向かう。

「な、何をするんや……」

 木乃香が不安げに尋ねてきた。

「ん? いや、俺はきれい好きだからな。
 ヤる前にはちゃんと準備をする必要があるんだ」
「ぎゅ、牛乳とか、あ、アナルプラグっていうのは……」
「あら? 聞いてた? アナルプラグってのは、簡単に言えば栓だよ。
 あっという間に出ちゃうと意味ないからな」

 木乃香はがたがた震え出した。
 わかったのか、わかっていないのか、顔が青ざめ、足が震える。

「い、いやぁ……せっちゃん……助けて……」
「そのせっちゃんを、さっき裏切ってきたばっかりだろ?
 まあ、元々大した護衛じゃなかったんだ、ここはすっぱり諦めて、受け入れた方が楽だぞ」

 嫌がる木乃香の手を引っ張って、俺は風呂場へと向かっていった。

 刹那のオナネタをいっぱい作っておかないとな。