主従編
この水晶球の中には少し変わった施設がある。
変わった、というのは世間一般の常識から外れているということではなく、ただ場違いである、ということだ。
建物の地下に拷問部屋や魔道書の詰まった書庫があるのは別になんの問題もないが、離れに教会のような施設があるのはおかしいだろう。
ここを利用する人間は神に敬虔ではない人間か、もしくは信教の自由を剥奪されているものだけだ。
ついこの間までは何のためにあるのかわからなかったが、この前たまたま思いついたアイディアでその意図を理解した。
「ほら、こういう場は初めてか? 力抜けよ、刹那」
そうは言えど、刹那が落ち着けるはずがないのは十分承知している。
鼻息荒く、目が若干血走って興奮しきっている状態の人間に何を言っても無駄だろう。
契約暗示を埋め込んだ以上、無理矢理落ち着かせてやることもできるが、そんなことをしたら面白くないことしきりだ。
敢えて興奮を鎮めさせることをせずに、やれやれ困ったやつだ、とつぶやいては、俺の呆れ顔すらも気に留めずに息を荒くしている刹那を見て、内心ほくそ笑
む。
刹那は今、長年夢見てきた行為が実現することに異様な興奮をいだいている。
憧れのお嬢様を我が物にできるのだ。
決して自分には向けない、向かせてはいけない、お嬢様の笑顔が、これからは自分だけに向けることができる。
笑顔、だけではなく、その瑞々しい肢体も、桜色の唇とそこから漏れる濡れた声も……彼女が苦痛に歪む表情や苦悶の声さえも、自分だけのものに出来る。
お嬢様……このかに大して抱いていた誰よりも強い欲にまみれた願望が、自分自身の理性という強い枷からも解き放たれたのだ。
その枷をとっぱらったのと、その願望を肥大化、凶悪化させたことが俺の功績だ。
「まだっ、まだなのかっ! 早く、このちゃんを離せっ!」
「まあまあそう焦るなって。このかも女の子なんだし、こういうことはちゃんとしておきたいと思っているだろうしさ」
以前の刹那であれば、俺の非道から守るために吐いたであろうセリフが、今やこのかを自分の餌食にするための意味に変わってしまっている。
人の心ってのは面白いもんだ。
俺が今言った『こういうこと』というのは、この水晶球の中で場違いな雰囲気を醸し出している施設である教会で行われる。
冠婚葬祭でいういわゆる『婚』にあたる行為だ。
刹那にもきちんとタキシードを着せている。
着せているっていっても上だけで、下は普通に丸裸なのは単純に俺の趣味だ。
このかも同じようにウェディングドレスを着せている。
まあ、これも刹那と同じようにスカートがないのに加え、胸も頭頂付近が露出するようなデザインになっている。
ちなみにこの衣装は備え付けだった。
これを用意しただろう、俺の上の組織の連中にも男心というものを少しはわかっている人間がいるらしい。
「なあ、このか、そうだろう?」
俺は右手に持った鎖を引っ張った。
じゃらじゃらと冷たい音が響き、俺のすぐ脇に黒いものが跳ねる。
うっ、とくぐもった声を漏らしただけで、俺の問いに答えなかった。
罰と、刹那に見せびらかせる意味で、ぐいぐいとわざと尻に体重をかけた。
「ぁ……うぅ……」
このかは悲痛な声を漏らした。
その声を聞いてもなお、俺には罪悪感というものを感じられない。
むしろ、楽しい、と思ってしまうほどだ。
このかは今、俺の尻の下にいる。
白く清純で、露出度の高いウェディングドレスを着たまま、冷たい地面に手と膝をついている。
そしてその上に俺がどっかと座っている。
か細い腕で、自分の体重以上の重さのものを支えるのは辛いだろう。
ただし、決して崩れることはない。
俺の契約暗示で、そう命令を下してある。
人間は無意識下で自分の筋肉を傷めないように、力を制限している。
俺の暗示でわずかにその制限を解除してある。
とはいえ、余裕があってもらっても面白くないので、このかが感じる苦痛は常にぎりぎりのところに設定されている。
決して崩れることはないが、かといって楽に耐えることもない。
そういった極限状態下で、このかには俺の椅子になってもらっている。
その上、今、俺がこのかの首輪につながる鎖を引っ張っているのだから、このかにとっては辛いことこの上ないだろう。
刹那は俺がこのかを椅子にしているのを見て、何も言わなかった。
しかし、その目には明らかな嫉妬の色が混じっているのが見て取れる。
さっきまでは仇敵であるはずの俺にすがっていたというのに、もうこのかが自分の物であると信じて疑わないでいる。
だから、俺がこのかをこういう風に屈服させていることが悔しくて仕方が無いはずだ。
ただこのまま刹那の視線を鼻で笑いながら受け流すだけだと芸がない。
俺は鎖を握っていない方の手をこのかの尻の上に載せた。
手のひら全体で掠るように撫でたあと、人差し指を尾てい骨の上に置いた。
そのままするすると、尻の割れ目に沿って指を落としていく。
「……ッ」
刹那が顔をしかめたのがわかった。
多分、私のこのかに汚い手で触れやがって、とかそんな風に考えているんだろう
「……ッん、あっ……んっ……」
俺の指はすぐに目的地点にたどり着いた。
尻の割れ目の最奥部に存在する、柔らかい肉の輪に指が触れた。
ローションを塗りたくって、様々なものを差し込んでほぐしたその穴は、俺の指の襲来に歓喜した。
そこは嫌、と泣きわめき、自分の手で一所懸命に隠していたころの慎ましさはどこへやら。
形式上は閉じていたそこの入り口を、一、二度、つんつんと突付いてやると、浅ましく口を開き始めた。
ローションを塗っていないそこへ、人差し指の第一関節まで突き入れる。
同時に俺の尻の下が揺れ、わずかに高さが上がった。
これまでの成果が出たのか、特に抵抗なく俺の指は飲み込まれていた。
それほど深く入れるつもりはない。
浅く、ゆっくりと前後に動かしていく。
必死に隠そうとしている手を、のどかとゆえが掴んで腕を捻っているときに、散々この穴を突いた。
最初の方こそ、痛さとか不快感に嗚咽を漏らしていたが、最終的にはいつも快楽のうめきでわけのわからない言葉をのたまうようになったもんだ。
そういった行為の積み重ねで、今では二分もしないうちに、すぐに喘ぎ声を漏らすようになった。
今こうやって俺が上に座っている状態でも、尻の穴をちょいと弄るとすぐにぐずぐずに溶けてしまう。
しかし、何度も何度も嬲った弊害か、浅く前後させるだけの動きではこのかは満足できなくなっている。
俺が上に座っているのにも関わらず、このかはわずかに体を動かして、尻の入り口をうろうろとしている俺の指をより深くくわえこもうとしている。
煽ったのは俺だが、今はこのかの色欲を解消するつもりはない。
指を抜き、そっと刹那の方へと顔を向ける。
「ほら、このかもきちんとけじめをつけておきたいってさ」
刹那は不機嫌そうな表情を隠すことすらしなかった。
俺は無視して、ゆっくり立ち上がる。
俺という重しが無くなったが、このかはまだ四つん這いのままにさせておいた。
首輪に繋がる鎖を引っ張り、赤い絨毯の引いた通路を進む。
「……こんな馬鹿馬鹿しいことに付き合わされる身にもなって欲しいです」
神父だか牧師だかの服を着て待っていたゆえはそう呟いた。
何がそんなに気に入らないのか、こっそり口を尖らせているのが見えた。
「まあ、そうは言うなよ」
本心では、余計なことを言ってくれた、と思っていたが、それを表には出さなかった。
刹那やこのかの前でそういう姿を見せたら代なしだし、それにこの文句も他愛のないじゃれつきだとわかっているからだ。
今、このかが着ているウェディングドレスは、衣装部屋にあったものをゆえに持ってこさせた。
そうしたら、何を勘違いしたのか、ゆえは自分が着るものかと勘違いしていたのだ。
今までの流れから考えると、このかが着るとわかりそうなものなんだが、どうやらゆえはたまにこういった思考の跳躍をする癖があるらしい。
目を輝かせて眺めていたウェディングドレスを取り上げられて、ゆえとしては文句の一つは言いたい気分なんだろう。
あのウェディングドレスは、確かに男心をくすぐるものだが、そうやって嬉々として着たがられると少し萎えるのはなぜなんだろう。
まあ、着ようとしているのが、体の起伏が少ないゆえだからなのかもしれないが。
「さて、準備は整った。始めてくれ、ゆえ」
ゆえは神父だか牧師だか……ええぃ、俺にゃこういった方面のカトリックとプロテスタントの違いがわからない。
神聖魔法におけるカトリックとプロテスタントの様式の違いなら知っているが、こんなごくごく一般的なことは教わったことがない。
もう神父でいいか、違うかもしれないけど、神父って呼ぶことにしよう。
神父の格好をしたゆえは、面倒くさそうに本を開いた。
「健やかなる時も病める時も、お互いに愛し、慰め、助け、命のある限り、誠実であることを神に誓いますか?」
結婚式でのお決まりの台詞だ。
棒読みなのは仕方がない。
あとでゆえは放置プレイの刑に処すればいいだけだ。
「えー、あー……刹那さんからどうぞです」
「誓います」
刹那は瞬時に言い切った。
とても力強い語調だが、その誓いが本来のこの台詞の目的に沿っているかどうかなんて言うまでもない。
「じゃあ、次はこのかで」
「……い、いややぁ……うち、うち、せっちゃんとなんか一緒になりたくない」
このかは四つん這いのまま、べそをかいてそう言った。
さっきからずっと泣いており、この土壇場になって泣き止むなんてことは期待していなかった。
暗示で、手足がこのかの意思では動かせなくしてあるので、俺にすがってくることはない。
だが、出来ることなら、このかは俺に取りすがり、やめて、と頼みたいはずだ。
「誓うってさ」
刹那は鬼の形相でこのかを睨んでいた。
このかはこのかで刹那のそんな視線を普通に無視して、俺に哀願の視線を向けてくる。
そして俺はさらにその視線を無視した。
ゆえが微妙な表情を浮かべていたが、何も言わずに本に目を落とした。
「では、誓いの口づけを」
鎖を思いっきり引っ張った。
地面からこのかの手が離れる。
このかが膝立ちになったときに鎖を持つ手を緩めたら、このかはそのまま逃げようとした。
うまく動かない足では逃げることができないことがわかると、自由になった腕で這ってでも逃げようとしている。
こりゃだめだ、と手から落ちた鎖を再び手にして……背後で蠢く気配を感じて、このかを片手でかばった。
刹那は我慢の限界にきていたのか、拳を握って振り下ろそうとしていた。
契約暗示により、刹那は俺に危害がくわえられないので、拳は俺の肘あたりの直前で止まっている。
「まあまあ落ち着けよ。もうちょっとで終わるんだからさ。
我慢のできない男は、好きな女から嫌われるぞ?」
刹那はひくひくと口元を震わせていた。
もはや刹那に以前の性格が見つけられない。
ただ粗暴で、思慮が浅く、色欲に取りつかれた獣じみた男性性が残るのみだった。
それでも野生じみた嗅覚があるのか、俺に対して罵倒の言葉は飛ばさない。
俺を怒らせたら、ヘタをするとこのかをおあずけされると思っているのだろうか。
それでも自分の内で渦巻く粗暴な面を隠そうとはしていない。
口には出さないが、自分の犬歯をむきだすように睨んでくる。
烏族のくせに歯をむき出すのは、嘴替わりとして見せているんだろうか?
「ほら、このかも、いつまでもわがままを言うんじゃない」
鎖を引き上げ、このかを再び立ち上がらせた。
今度は逃げられないように、がっちり鎖を握っている。
首を引っ張られる形になったこのかは、さしたる抵抗もできずに顔を上げさせられた。
「刹那、キスしてやれ。最初は優しく、な」
このかの顔を刹那に向ける。
このかは健気にも、顔を背けようとしているが、俺はずれないようにしっかりと顔を固定しておいた。
「や、やぁっ、お願い、やめてぇっ! 春原はん……っ」
抵抗も虚しく、刹那はこのかの唇に食らいついた。
同時に俺はこのかの頭を固定していた手を離す。
刹那が強い力でこのかの頭を抑えつけて、このかの唇を吸っている。
このかは刹那から逃れようとして、手で刹那の体を押しのけようとしているが、二人の力は普通の男と女の力の差よりも遥かに開いた差がある。
俺はゆっくりその場を離れた。
まだまだ不満顔を浮かべているゆえの腕をひっつかみ、引き寄せる。
「あ、ちょっ……」とバランスを崩しかけたゆえをそのまま受け止め、ふらふらと長椅子の上にどっかと座った。
先に長椅子に座っていたのどかの肩に手を回し、のどかもこちらに引き寄せる。
「さあて、見物が始まるぞ。のどか、ゆえ、楽しめ」
もうすでに二人の唇と唇が触れあって三分ほど経過しただろうか。
一見して、変化はそれほどないように見える。
俺はエドのいにっきを取り出して、のどかに言ってページを捲らせた。
エドのいにっきには、複雑に階層分けされた呪文プログラムが走っており、そのうちとある一箇所が明滅をしていた。
『暗示解除』
構想から設計まで、それなりに労苦を要した呪文プログラムが、一瞬にして消滅していく。
しかし、ただで消えるわけではない。
最後にでっかい置き土産を残していく。
刹那とこのかの体が離れたとき、刹那は背後に飛び、壁にぶつかって倒れた。
その顔には驚愕が深々と刻まれ、額には異様な量の汗が浮かんでいる。
「そ、そんな……ど、どうしてっ!」
刹那がふっとんだのは別にエドのいにっきの暗示のせいじゃない。
自分で飛び退いたようだ。
それほど衝撃が大きかったということだ。
「数日のトランスセクシャルツアーはどうだった? 中々他では味わえない、貴重な経験だったろ」
俺としても貴重な体験をさせてもらった。
エドのいにっき操作がより一層勉強になったんだからな。
もちろん、見物という面でも十分楽しめたのは言うまでもない。
「わ、私、私はっ! い、いったい、何を……」
刹那は動揺してしまって俺の話を聞いていなかった。
全身が生まれたてのヤギみたいに震え、汗を大量にかいているのがわかる。
このままあたふたしている姿を見るのもいいが、無視されるのは気分が悪いので、再び使えるようになったエドのいにっきでこちらに向かせた。
「まだ混乱しているようだから、要点をいっぺんに且つ早口で説明してやる。
俺はこのエドのいにっきを使って、お前とこのかとあとおまけみたいにのどかとゆえに、お前の性別が男であると認識させた。
男性器を誤認するようにもして、記憶すら書き換えて、まあ、七面倒臭いことをたくさんやって、お膳立てした。
その結果、暗示は大成功して、お前もこのかも外野も全員お前が男だと思い込んだ。
それでまあ、あとはお前の記憶通りだ」
ここで重要なのは、刹那の心には先程までの荒々しい気性は一欠片たりとも残っていないことだ。
男性の象徴たる男性器が消失したことにより、刹那の中で煮立っていた感情は全て無くなってしまった。
今の刹那は、過去の刹那と同じく、このかの幸せを願い、それを侵害することに極端に恐怖を抱いている女の子になっている。
刹那は視線を下に向けた。
このかの顔をまともに見れないようで、それでいて且つ謝るということもしない。
決して謝って許してもらえないことをしていと、刹那はわかっているからだ。
このかが俺に犯されていることに感化され、自らもこのかという本来庇護すべき対象を、『飼う』という選択肢をとった行為は、正気に戻った刹那にとって、
切腹もやむなし、という衝撃的なことだろう。
ひゅーひゅー、と空気を吸引すれども空気が肺を素通りするような呼吸の音がただただ刹那の口から漏れていた。
エドのいにっきを見てみると、そこには文字の氾濫があった。
俺が今まで何度も何度も見てきた人の思考だ。
大量の文字が溢れていて、大半なものが意味のないものだ。
逃避するための思考なのか、アスナさんの剣の稽古がどうだとか、アスナさんの素質は素晴らしいだとか現状と全く関係のない文字が書かれていることすらあ
る。
だが、そんな雑多な文字の真ん中で、一際大きな文字で書かれていることが、後悔の念だ。
『なんであのとき私は拒絶しなかったんだ』とか『このちゃんに嫌われる』とかあるいは『なんでいつもいつも私ばっかりこんな目に』なんてこともある。
刹那の絶望の現れを見ているのも中々楽しいが、俺が今まで準備してきた茶番はもうすでに俺の手から離れている。
自動的に展開は進む……観客たる俺は、もう見ている以外のことしかしない。
このかは二本の足で立ち、裸足のままひたひたと刹那の前に進んだ。
刹那はこのかが近づいていることに気づいてはいたものの、決して顔を上げようとしなかった。
今なお罪悪感に蝕まれ、心の中では言葉が溢れているのに、口は痺れて動かないらしい。
このかは手を伸ばせばすぐに刹那に触れることの出来る距離で足を止めた。
そのまま右足を大きく横にずらし……そのまま刹那の側頭部を蹴り飛ばした。
どかどか、と刹那はあたりのものを巻き込みながら倒れた。
のどかとゆえは、普段温厚であるこのかの変貌に驚いた……わけではない。
今まで色欲に溺れるこのかを十分に見てきたせいだろう、二人とも物音には驚いたが、それだけだ。
抑圧から開放されたこのかがただ単に暴れているように見えるんだろう。
きっと、二人とも、このかが刹那に向かって「処女のくせにバカにしやがってよぉぉぉ! クンニしろオラァァァ」とか言っても眉もひそめないだろう。
このかは、そっと倒れた刹那の近くでしゃがんだ。
刹那は刹那で蹴り飛ばされたのに何も文句を言わず、今もひたすら視線を合わせないようにしている。
「せっちゃん……」
しかし、刹那を撫でるこのかの手の動きは優しかった。
咄嗟にエドのいにっきを見ようとしたが、ぐっと堪える。
このかの中で何が起こっているのかは、このかの態度を見て判断すべきだろう。
ここまで準備をしたのだから、盗み見というズルは控えておこう。
このかは刹那の髪の毛をゆっくりと撫でた。
まるで壊れ物でも扱っているかのような繊細な手つきで、刹那の短い髪の一本一本をとかしている。
「服を脱いで、せっちゃん。大丈夫、心配せんでええから」
このかは刹那を抱きしめると、そういった。
一度刹那を離すと、ゆっくりと刹那の腕を引っ張り、立ち上がらせる。
刹那は抵抗することなく言う事に従い、立ち上がった。
多少足元がふらついていたが、倒れるほどではないようだ。
このかは刹那の手をとり、ゆっくり刹那の服を脱がしていく。
刹那は刹那で自分で服を脱ぎ始めた。
なんで服を脱ぐのかはわからない。
さっきからは全てこのかのアドリブなので、俺はノータッチだからだ。
「春原はん。前、ウチが使われた、あの手足を固定する鎖は使ってええ?」
「好きにしていいぞ」
全ての服を脱がしたこのかは小さく縮こまる刹那の手を引き、教会の地下へと足を向けた。
教会の地下には、水晶球の母屋に繋がる地下通路がある。
俺とのどかとゆえは二人を追うように着いていく。
母屋の地下にある、重い鉄の扉を開き、このかは刹那を拷問部屋へと招待した。
雑多におかれた道具や装置をかき分け、天井からぶら下がる二本の手錠がある位置にまで連れて行った。
「手の方は、ウチがやるから、せっちゃんは自分の足を固定してや」
「う……は、はい……」
刹那は従順にこのかの言う事に従った。
このかは至って優しそうな笑顔を浮かべているのが対称的だった。
怒るわけでもなく、無関心を装うわけでもなく、慈悲に満ちている表情で、明らかな害意を感じるのが末恐ろしい。
がちゃがちゃと刹那は自分の足に足かせを嵌め、手かせをこのかに嵌めてもらっていた。
全ての作業が終わって、刹那の身動きがとれなくなったら、このかは刹那の前にたった。
「なあ、せっちゃん。せっちゃんはウチがせっちゃんを怒っていると思ってるやろ?
けどなあ、今はもう全く怒っとらへんよ」
俺も適当なところを見つけて座った。
白いベッドの上に座り、さっきと同じようにのどかとゆえをすぐそばに引き寄せる。
「ただなあ、ウチはせっちゃんのことを滅茶苦茶にしてやりたいと思ってん。
ありとあらゆる方法でせっちゃんを苦しめて苦しめて……せっちゃんが悶え苦しみながら死ぬのをみたいんや。
この世の全ての汚濁でせっちゃんを汚しきって、そこでもがくせっちゃんを見たいんや」
このかは言った。
けど、これはこのか本来の台詞じゃない。
このかは俺が調教をした後も、他人を傷つけることに対して過大なストレスを感じるような性格だった。
それなのに、こういった台詞を吐いたのは、とある理由がある。
「せっちゃんが、さっきまでウチに対して『そうしたい』と思ってたやろ?
泣き叫ぶウチの髪の毛を思いっきり引っ張りながら、無理矢理犯してやろ、とか考えてたやろ?
さっきのキスは、せっちゃんの男性という暗示を解くことだけじゃなくて、せっちゃんの中に渦巻いていた黒い感情をウチの中に取り込むトリガーでもあった
んや」
だからこそ、刹那はキスの後、異様なまでの精神の後退を見せ、このかはこんな性格に成り果てたのだ。
「言わば、ウチの手はせっちゃんの手や、ウチの心はせっちゃんの心や。ウチ自体がせっちゃんの鏡なんや。
自分が抱いた欲望を反射するものなんや。
だからウチは、せっちゃんがさっきまでウチにやろと思っとったことをする。
前歯がへし折れるほど顔面を殴りつけて許しを乞わせたり、皮膚を5センチ間隔で刻んだりするんやよ」
態度の違いはあれども、やることに対してはこのかも刹那もさほど変わらないようで安心した。
もしこのかが俺の暗示を打ち破って、刹那の黒い感情を移植されても、何もやらない、ということになったら、今までの苦労が水の泡になってしまっていただ
ろう。
「じゃあまず、鞭打ちから始めよか。
目標回数は……いや、目標回数なんて決めたらあかんなー。
ウチの気が済むまで、何度も何度も引っ叩くことにしよ。
あ、お小水を漏らしても大丈夫やよ、後でせっちゃんに舌で綺麗にしてもらうから」
このかは近くにあった鞭を手にとると、軽く手首をスナップさせるように空気に対して振るった。
ひゅっひゅ、と空気を切る音が響く。
俺は両手を両脇に座るのどかとゆえの下着に差し込んだ。
二人とも、目の前のやりとりを見たせいか、わずかに興奮している。
ちょうどおあつらえ向きに、ベッドがある。
ベッドの上に座っていた二人を無理矢理首根っこつかんで、押し倒す。
俺もまた、刹那とこのかのやりとりを見て興奮していたのだ。
二人とくんずほぐれつ、ベッドの中でじゃれ合って、いざ、俺がのどかの中に押入らんとしたとき。
「ご、ごべんなさいぃっ! ゆる、ゆるじでっ! ゆるじでぐだざいっ、おじょうざまああああああああ!!」
何度目かの打擲の音とともに、刹那の初めての哀願の言葉が滂沱のごとく流れ出ていた。