麻帆良学園での大騒動が終わった。
超鈴音の野望は、ネギの活躍によって打ち砕かれ、
強制認識魔法は停止され、結果『世界を平和にする』魔法が発動したのだ。
麻帆良の空には花火のような魔力のとばしりに溢れ、生徒達は祭りに酔った。
「はああ……しんどかったわね」
超鈴音も未来へと帰還した。
最後まで、家系図という爆弾を放り投げる、という大騒ぎを起こしていったが、
それでもクラスメイトとの別離には悲しさを感じざるを得なかった。
アスナは一人腰を下ろす。
体力には自信があり、気と魔力とを同時に発動させるという術を用いているため、
それほど感じなかったアーティファクトの重量が重くのしかかる。
「……あれ?」
剣士の衣装のポケットを何気なくあさったアスナは、異様な感触を感じた。
ポケットの中に、翡翠色の球が転がっていたのだ。
はて、これは何だったのか? と首を捻ってみても、何もわからない。
「いや……なんか、見たことがあるような……」
記憶にはないものの、見たような気がした。
これがいわゆるデジャブというものなのか、と思ったが、それはそれで何かが違うような気もする。
ただ、空で弾ける魔力の光に透かして見るその珠は、とても綺麗だった。
「ひょっとしたら、ネギなら何か知ってるかな……」
そう言葉に出してみたものの、ネギもまた自分と同じように『記憶にはないけれども見た気がする』という感想を述べそうだ、とアスナは確信めいた考えを浮かべていた。
まあ、綺麗だからいいか、とアスナはしばしその場で、翡翠色の珠ごしに世界を見つめていた。
真っ暗な穴に飛び込んだ二人は、異空間に落ち込んでいた。
落ちているのかあがっているのか、全くわからなく、ただただ混濁した色の空間を進んでいく。
「なあ、大丈夫なのか?」
「大丈夫のはずよ。あの世界は私たちを追い出したがっていた。
なら、私たちが間違いなく戻ってこないように、ちゃんと元の世界に押し出してくれるはずよ」
「……なんでそんなことが言えるんだ?」
「……勘、よ」
「はあ? 勘? そ、そんなもんで、よく飛び込もうと思ったな!」
「う、うるさいわね! あそこでだだこねてもしょうがないじゃないの!
確かにこの機会を逃したら、次のチャンスなんて回ってこないだろうし、
回ってくるとしても、私たちが死ぬか、それとも危険を回避しようとする人たちによって殺されたりしていたはずよ。
それだったら、リスクが高くても、挑戦するしかないじゃないの」
「ぐ、ぐう……」
それっきり二人は口をつぐんだ。
二人とも、ネギ達の世界で相当な無理をしており、霊力的にも体力的にも極限状態に既に達していた。
ただ黙々と、この不思議な空間から脱出するのを待っていた。
時間の感覚が麻痺し、一体どのくらいの時間が経ったのか。
沈黙のみが支配していた空間で、横島が不意に口を開いた。
「そういえば、前にこんなところに来たな……」
「……前っていつのこと?」
「いや……確か、ネギ達の時間移動に巻き込まれて、アスナちゃんに蹴り飛ばされたときに来たと思う」
サンジュウロクメは横島の顔を見た。
別段ふざけている様子でもなく、何かを思い出そうとしているようだった。
「もしかしたら、同じところなのかもね」
そういうサンジュウロクメの言葉は無視された。
何かしきりに思い出そうとして、ぶつぶつと小さな言葉でつぶやいている。
様子がおかしいことにサンジュウロクメが気づき、声をかけようとしたときだった。
「やばい! 俺、そのとき、何かにぶつかった記憶がある」
「へ?」
ちょうどそのときだった。
どこからともなく間の抜けた叫び声が聞こえてくる。
遠くに点が現れ、それがじわじわと大きくなっていく。
「も、文珠ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「うわ、来たあああああああああああ!!!!」
全く同じ声の二つが、接触を果たした。
相当な速度で正面衝突を起こした横島と横島は、二人ともバラバラの方向に吹き飛んでいく。
「横島さあああああああああああああん!!!!」
サンジュウロクメはあまりの衝撃で掴んでいた手を離してしまい、横島にぶつかられた横島と離れてしまった。
いくら手を伸ばそうとも、届かず、横島と横島は虚空の彼方へと消えていった。
「だあああああ!」
芝生の中に顔をつっこんで横島は止まった。
咄嗟に顔を起こし、一体どうなったのか確かめようとする。
と、同時に、背中の上に重いものが落ちてきた。
「ぐぅえっ!!」
踏まれたカエルのようなうめき声を漏らして、再び横島は潰れた。
流石に今度はすぐには立ち直れないようで、重い物が体の上に載っている状態で潰れていた。
しばらくして、上に載っているものが、横に落ちた。
誰かに横から強い力を加えられたようで、どさっという音を立てて地面に落ちていた。
ようやく、重圧から逃れられ、体をゆっくりと持ち上げる。
顔を上げたと同時に、桃色の髪の女の子が見下ろしているのが見えた。
「あんたら、誰?」
「へ?」
「え?」
横島が辺りを見回した。
すぐ隣に、男が横島と同じように地べたに座っている。
黒髪で瞳の黒い、大体同じくらいの年齢のパーカーを着た日本人だった。
向こうもこちらのことを見ており、目がばっちりとあった。
更に横島が顔を動かすと、遠巻きでこちらの様子をうかがっている人間がいた。
野次馬のように、くすくす笑いをし、互いに小声で話し合っている。
ただ、服装が、どうみても仮装大会の魔法使いのものであった。
ちらちらと、珍奇奇天烈な生物の姿も見える。
「……ま、まままままま」
「ま?」
合いの手を入れたのは隣の男だった。
先ほどの桃色の髪の女の子は、ミスタなにがしと呼んで、何かを要求している。
「また、魔法の世界かあああああああああああああああ!!!!!!!!」
横島の咆哮が、辺りにむなしく響き渡った。
よこしマホラ 終わり